コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2016年7月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。

文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)

第8回「夏と冬、ウオーミングアップ時間は同じでいいの?」

暑熱環境、寒冷環境それぞれのウオーミングアップの影響

 筋肉をホットパックなどでただ温めるよりも、ジョギングなどで能動的に筋温を高めたほうが運動パフォーマンスは高くなることは以前紹介しました(第4回「ウオーミングアップはただ筋を温めればいいの?」https://www.bbm-japan.com/_ct/17257310)。
 では、能動的なウオーミングアップ時間は夏も冬も同じでよいのでしょうか? 

 大学1年生に対してウオーミングアップでの理想的なジョギング時間についてアンケートをとったところ、季節によって時間を変えたほうがいいと回答したのは61.1%、季節関係なく同じ時間がいいと回答したのは約40%になりました(図A)。

画像: 暑熱環境、寒冷環境それぞれのウオーミングアップの影響

 果たして実際はどうなのでしょうか? 今回は「夏と冬で同じ対象者に対して同じようなウオーミングアップをした時に、運動パフォーマンスはどう変わるか」について紹介します。

 まずは実験の条件設定について紹介します。
 対象は健康な体育大生8名とし、同じ人物が暑熱環境下(気温31.8±2.1℃、湿度64.9±19.2%)と、寒冷環境下(気温12.1±2.6℃、湿度38.3±30.6%)それぞれで行いました。
 ウオーミングアップ方法は、最大酸素摂取量の65~70%の負荷でトレッドミルでのジョギングを10分間、20分間、30分間で行います。ウオーミングアップ後に、最大パワーの指標としてスクワットジャンプ(W/体重)、バネの能力の指標としてリバウンドジャンプ(RJ指数)、敏捷性の指標として立位ステッピングテスト(回数)をそれぞれ測定しました。

最大パワーへの影響

画像: 最大パワーへの影響

 図Bを見てください。
 ◇が暑熱環境下、□が寒冷環境下でのスクワットジャンプの結果です。

 暑熱環境下では10分よりも20分のほうが最大パワーの結果は高くなっていますが、30分となると逆に低下してしまっています。一方、寒冷環境下では10分よりも20分、20分よりも30分のほうがスクワットジャンプの値が高くなっています。

 つまり、暑熱環境下では30分以上だと筋温が上昇し過ぎてしまい、ハイパワー能力は逆に低下してしまうことを意味しています。筋温と最大パワー発揮には最適な気温があり、それよりも低過ぎても、高過ぎてもパフォーマンスは低下します。おそらく、今回もその影響を受けたのだと考えられます。

バネの能力への影響

画像: バネの能力への影響

 図Cを見てください。
 ◇が暑熱環境下で、□が寒冷環境下でのリバウンドジャンプの結果です。

 この結果から分かることは、寒冷環境下では10分よりも30分のほうが明らかにバネの能力は高くなりますが、暑熱環境下では10分も30分も大きくは変わらないということです。
 また、20分のジョギングでは、寒冷環境下よりも暑熱環境下のほうが明らかにバネの能力は高くなっているので、寒冷環境下であれば30分、暑熱環境下ではあれば20分以内が適切だと考えられます。

敏捷性能力への影響

画像: 敏捷性能力への影響

 図Dを見てください。
 ◇が暑熱環境下、□が寒冷環境下でのスクワットジャンプの結果です。

 この結果を見ると、寒冷環境下では10分よりも30分ジョギングのほうが明らかに敏捷性の能力は高くなりますが、統計学的有意差はないのですが、暑熱環境下だと10分よりも30分ジョギングのほうが若干、結果が低くなっていることが分かります。
 つまり、敏捷性についても寒冷環境下であれば30分、暑熱環境下であれば20分以内が最適だと言えそうです。

環境に合わせてウオーミングアップ時間を変えよう

 今回は、暑熱環境下と寒冷環境下におけるウオーミングアップ後の運動パフォーマンスの違いについて紹介しました。
 結果は予想していたとおり、同じウオーミングアップ時間でも暑熱下と寒冷下では結果が異なることが分かりました。これを受けて、夏場と冬場のウオーミングアップ時間を考えることが重要であることが明らかとなりました。

 夏場はウオーミングアップ時間が長いと、筋温が上がり過ぎて運動パフォーマンスが落ちる可能性があると考えられるので、短時間でパッと仕上げることが必要となりそうです。
 この実験における最大パワー、バネの能力、敏捷性の3つの結果を総合的に考えてみると、夏場における一般的ウオーミングアップは20分以内を目安にし、その後専門的ウオーミングアップ(キャッチボールやトスバッティングなど)に移ることが良いでしょう。

 一方、秋~冬の寒い時期には十分に一般ウオーミングアップの時間を取り、筋温を高めてから専門的ウオーミングアップを行うことが望ましいと考えられます。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー

文責◎ベースボール・クリニック編集部


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