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ある年の夏、軽井沢の別荘に内村祐之先生をおたずねし、近くの星野温泉へ参りまして、そこで、私は内村鑑三先生のお書きになった"善遊善学"という額を拝見いたしました。

いままで、よく学びよく遊ぶという語呂にはなれておりましたが、よく遊びが先に出ていたのは、初めて見ました。それと同時に、スポーツというものの意味が、内村鑑三先生のお書きになった文字を通して、私の胸になにか突きささるような感動を与えました。

それ以来、日本のスポーツ、体育の分野で少しでもお役に立つような仕事をということで、書籍の刊行をつづけて参りました。ローマの後の東京オリンピックを迎えるころには、ソビエト連邦をはじめ東欧諸国を訪ねて、日本には比較的なじみの薄いスポーツ、体育の研究に関する書籍を探し求めたこともありました。それがどれほどの効果があったかよくわかりませんが、今日の日本におけるスポーツ、体育の大衆化というものを見るにつけ、私たちの努力が決して無駄なものではなかったと思っています。

広く知識を海外に求めて来ましたことも、第2次世界大戦という不幸な出来事のために、日本のスポーツ、体育の分野が、その科学的研究に大変な後れをとっていると教えられたからであります。たくさんの書籍を出し、それがよく売れまた売れつつあるということ、またそれと共に日本のスポーツ、体育の世界が、いよいよレベルをあげつつある現状を見ますと、精神一到何事か成らざらんの感を深くするものであります。

表紙の"善遊善学"の文字は、鑑三先生の御令息祐之先生のお書きになったもので、特にお許しを得て掲載させていただきました。先生は昭和55年9月17日にお亡くなりになりましたが、私たちの社に対し、言葉では言い表し得ない数々の御厚情をたまわりました。その意味で先生の"善遊善学"の教えにおこたえできますよう、更に覚悟を新たにいたしたいと思います。どうか皆様の限りなき御指導と御鞭撻を伏してお願い申し上げます。

株式会社 ベースボール・マガジン社
創業者 池 田 恒 雄