11月1日にIOC(国際オリンピック委員会)が東京オリンピックのマラソンと競歩の開催地を札幌に変更すると決定したことを受けて、11月5日(火)に日本陸上競技連盟の強化委員会が会見を行った。麻場一徳・日本陸連強化委員会強化委員長、瀬古利彦・マラソン強化戦略プロジェクトリーダー、河野匡長距離・マラソンディレクター、山下佐知子・女子マラソンオリンピック強化コーチ、今村文男・男女競歩オリンピック強化コーチが出席した。

※写真上=会見に臨んだ瀬古氏、麻場氏、河野氏(左から)
撮影/編集部

 麻場強化委員長は「強化委員会にとってはあってはならない決定」と語り、河野ディレクターは「なぜマラソンと競歩の2種目だけ移転しなければならないのか。スポーツに携わる者として、テニスやビーチバレー、トライアスロンといった競技時間が長い競技がある中で、マラソンと競歩だけが『守ってあげる』という論調で移転するというのは疑問しか浮かばない」と強い口調で述べた。「なかなか行けない旅行、チケットも手に入らない旅行を計画されて、最終的に行き場所が変わった。子供たちに『こっちに行くんだよ』とかける言葉が見つからない」とも。

 IOCはアスリートファーストを掲げて札幌開催を決めたが、麻場強化委員長は「どの視点でアスリートファーストなのか」と疑問視する。「環境条件、気温が低いとか湿度が低いとかでアスリートに優しいと言ったのだと思います。強化の立場からすれば、選手が毎日血のにじむ努力をして代表を勝ち取って、サポートするメンバーも4年も5年も前からやってきた。その努力を無駄にしないというのがアスリートファーストだと思っているので、その辺の認識の違いが出ている。われわれの考えからすれば、IOCのいうアスリートファーストはわれわれにとってのアスリートファーストではない」と語った。

 瀬古リーダーは「IOCという力の前ではわれわれはどうにもできない。東京でやらなければと押し通したらオリンピックからマラソンはなしでいいと言われるのではという思いがあった」といい、「決まった以上は強化一丸となって、みんなで札幌でメダル取れるように、ワンチームでやっていきたいと思います」と決意を述べた。

 なお、マラソンと競歩の日程、時間、コースも現時点では決まっていない。「マラソンはオリンピックの花。過去の男子マラソンはだいたい最終日の最終種目であったと思います。できれば最終日にやっていただきたい」(瀬古リーダー)。「MGCをつくる上でかかった年数、労力を考えると、北海道マラソンのコースでできるのかなと。個人的な印象だが、IF(国際陸上競技連盟)のトレンドとしては、周回でやる可能性が高いのではと予想しています」(河野ディレクター)と見解を語った。

★出席者コメント(抜粋)

麻場一徳(日本陸上競技連盟 強化委員会強化委員長)
「あってはならない決定だと思います」

強化委員会にとってはあってはならない決定だと思います。4年も5年も前から現場の選手やコーチ、サポートスタッフ含めて準備をしていきているわけですから、この時期に覆るというのは極めて遺憾です。しかし決まったことは覆せない。愚痴を言っていくだけでは生産性がないと思いますし、現場の選手やコーチがどこを向いて進んでいっていいのか道に迷う可能性があります。メディアや国民の皆さんに応援していただけなければいい成果は挙げられないわけですから、これを機にしっかり前を向いて来年に向かっていかなければいけないと思います。愚痴やぼやきが強化のメンバーから出るのはある意味当然ですが、これを機に前向きに変えてやっていきたい。

瀬古利彦(マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)
「急に札幌と言われても切り替えられるわけではないが、
決まった以上は愚痴を言っても仕方がない」

私の頭の中では3年前から東京でやるんだということが刷り込まれております。急に札幌に行けと言われても、なかなか頭の中が切り替えられません。私の頭の中では55年前の満員の国立競技場で円谷(幸吉)先輩が銅メダルを取ったシーンをイメージしながら、今度のオリンピックでもう1回そういったメダルを取りたいとの思いでずっとやってきました。急に札幌と言われても切り替えられるわけではない。ただ決まった以上は愚痴を言っても仕方がない。もっと早くいろんな意見を言いたいとは思ったが、IOCという力の前ではわれわれはどうにもできない。東京でやらなければと押し通したらオリンピックからマラソンなしでいいと言われるのでは、という思いがあった。先日、服部勇馬(トヨタ自動車)に「瀬古さんのモスクワオリンピックのようにボイコットになるわけではないので、僕らは幸せです」と言われ、涙が出ました。なすすべもなく札幌になりましたが、決まった以上は強化一丸となって、みんなで札幌でメダル取れるように、ワンチームでやっていきたいと思います。

河野匡(長距離・マラソンディレクター)
「チケットが手に入らない旅行にようやく行けることになったのに、
最終的に行き場所が変わったようなもの」

メディアの論調を見ていると、誰も望んでない意見、合意ない決定をされて、われわれにとっては理解不能な決定だと思います。プロセス、理由が明確ではない。現場にどう説明していいのか言葉が見つからない。なぜマラソンと競歩だけ2種目だけ移転しなければならないのか。競技時間が長い競技がある中で、マラソンと競歩だけが「守ってあげる」という論調で移転するというのは、なかなか行けない旅行、チケットが手に入らない旅行にようやく行けることになったのに、最終的に行き場所が変わったようなもの。子供たちに「こっちに行くんだよ」とかける言葉が見つからない。瀬古さんが言うように、選手たちはけなげにも「モスクワのボイコットに比べたら」と言ってくれる。生涯、心から消え去ることはないです。

山下佐知子(女子マラソンオリンピック強化コーチ)
「開催日程、時間、コースも決まっていない状況で前向きなことを
言うのは難しく、無念という言葉が出てくる」

こういうところで前向きな言葉が述べれたらいいけど、開催日程、時間、コースも決まっていない状況で前向きなことを言うのは難しく、無念という言葉が出てくる。前田(穂南・天満屋)は暑さに強い選手。MGCで出した以上のタイムを東京オリンピックで出させてあげたかった。鈴木(亜由子・JP日本郵政グループ)も東京オリンピックを走らせてあげたかった。そのうち前向きなコメントも出させていただきます。

今村文男(男女競歩オリンピック強化コーチ)
「かけられたはしごが突然外された思いです」

ドーハ世界選手権では競歩は五輪の選考レースと位置づけ、メダル獲得者2名を東京五輪の代表に内定しました。その後1名も内定し計3名の競歩五輪代表選手がいますが、かけられたはしごが突然外された感じで、どういった環境でやるのか定まっていない。選手とともに来年のオリンピックに準備をしていく中で、どの程度対策するか。われわれが積み重ねてきた暑さの対策、データが無駄にならないように、札幌開催になっても、データ分析に基づきながら、これから選ばれる選手に関してもしっかり強化の方向性を確認しながら準備をしていかなければいけない。

構成/内田麻衣子(陸上競技マガジン)

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