所属、国籍、性別の垣根を越えたトレーニンググループであるTWOLAPS TCを率いる横田真人コーチ。現在、注目のプロフェッショナルコーチの思考に迫る後編。今回は選手を導くためのコーチングにとどまらず、代表としての経営的視点、チームの将来像にまで話が広がった。

上写真/現役時代には日本選手権800m優勝6回、ロンドン五輪出場を果たした横田コーチ(撮影/椛本結城・陸上競技マガジン)

自分で決めさせる

 TWOLAPS TCには、チームとしての約束事がほとんどない。集合時間も決まっていなければ、朝練習も義務付けられていない。トレーニングへの参加も個々の選手の判断に委ねられている。いつ、どこで、何を、どのように、何のために――。そこには選手の自立性を育むだけでなく、さらに一歩踏み込んだ横田コーチの思いがある。

横田 選手にはトレーニングに来なくてもいいと、いつも言っています。別の場所でできるのであれば、そこでやってもらって構いません。僕の前でやりたいということは、動きを見てもらいたい、進捗を確認してもらいたい、ディスカッションをして微調整しながら進めたいなど、いろいろ理由があると思うんです。でも、今日はしっかりメニューができればいいというときも絶対にある。それは僕の前でなくてもできます。それらを含めて自分で考えてスケジュールを決めたらいいんじゃない、というのが、僕のスタイルです。

 選手たちは自分で選んでこのチームに来ているはずですし、自分で決めるということが自身の内的なモチベーション、『自分はこうなりたい』というモチベーションを高めるんです。人からあれやれ、これやれと言われると、外的なモチベーションは高まりますが、それは持続しませんし、自立性はなかなか育まれません。将来を見据えた指導をする以上はやはり自分で物事を考えて、行動して、責任を取る。この当たり前の一連のプロセスを学んでくれれば僕はいいと思っています。その意味で、『自分で決める』というのが非常に大事なキーワードです。それは選手自身が定めたゴールに至るためにも切り離せません。

選手の能力を引き出すために

 昨年度の実績が確かな指導力を物語る。卜部蘭(積水化学)が日本選手権800m、1500m二冠を達成し、新谷仁美(積水化学)はドーハ世界選手権10000m11位、ハーフマラソン日本新記録を樹立した。この2人に限らず、選手たちの力を存分に引き出すために重視していることは何か。

横田 話をすること、それに尽きます。競技における選手とのコミュニケーションのクオリティーが何で担保されるのかというと会話だと思うんです。例えば、人となり、話し方、タイミング、アイコンタクト、そういったコミュニケーションの方法だけではなくて、その背後にも大事なものがあります。例えば、僕とストレングスコーチが選手に同じことを話したとします。ウェイトに関しては、ストレングスコーチの話の方が絶対入ってくる。でも走るメニューやキャリアの話だったら、僕の方がすんなり入ってくるわけです。

 その違いは何かといったら、バックグラウンドなんですね。その人がどう生きてきたか、何を学んできたのかというものが大事。コミュニケーションの後ろには、その人が生きてきた人生が必ずありますし、その人が培ってきた知識が絶対にある。コミュニケーションのクオリティーを上げていくためには、知識量を増やしていくこと、経験を豊かにすることも大事です。それが選手の力をより引き出すことにつながると考えています。

 その意味で、僕は未熟でもっと勉強しなければいけませんし、経験も少ないと思います。そこで、うちのチームでは知識なり経験をより豊かにする努力を常に怠らないという文化をつくりました。僕は常に学び続け、スタッフにも同様のことを求める。求めるからには、その仕組みを会社としてつくっていかなければなりません。勉強会を開くのもその一つ。うちのマネジャーはそれまで保険会社に勤務していたので、分からないことも多かったはずです。ですから仕事として、ほかの実業団や違う競技のマネジャーさんの話を聞きに行っておいで、と。そういった支援をしています。

 これらは僕らのためでもあるし、選手に対しての、これだけ成長しているというアピールでもある。選手が成長しているのに、スタッフが成長しないわけにはいきません。逆に僕らの成長に追い付いてほしい、お互い高め合っていくというチームのメッセージです。

 はた目からは成功と思える実績を残していても、決して満足することはない。それは、過去の経験からくる強い危機意識があるからだ。それこそが常に成長を追い求め、変化を求め続けるチームの原動力となっている。

横田 僕らは反骨精神でやってきていて、エリートだと全く思っていません。僕や卜部や新谷など、このチームに最初からいるメンバーは、常に結果が出ていないと言われてきましたし、僕ら自身もそう思っています。出した結果に対して誇りは持っていますが、これではダメだとずっと思っている。それが僕らの原点なんです。だからこそ常に成長していかなければいけない、変わり続けていかなければいけないという意識でいる。僕らはまだ若いんだよ、まだまだなんだよと、常におごることなくいたいと思います。

 うちにはTWOLAPS TCにいることに誇りを感じてくれる選手がいます。とてもありがたいことですし、うれしいのですが、それよりもトラックに立って結果を出すことに対してプライドを持ってほしい。それが本質じゃないですか。その積み重ねでTWOLAPS TCが魅力的になるだけであって、ここで何かをすることが魅力的になるわけでは決してない。この気持ちはチームとしてこれからもずっと持ち続けていかなければいけません。

 選手に成長しろと言いながら、そのときに合ったことをしっかりやっていくだけですけどね。ですから、ある選手が競技以外にこういうことをしたいと言ってきても、ノーという場合もあります。3年後ならいいけど、今はまだそのタイミングじゃないよと。何かやればいいわけではなく、今、本当にやらなければいけないことかということです。その選手の将来にとって、プラスにならないと思えば、それははっきりと言いますね。

2019年日本選手権女子800m、1500m二冠を達成した卜部(右)(写真/TWOLAPS TC)


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