2018年12月、6年ぶりに陸上界へ復帰し、その9カ月後に女子100mハードルで日本記録を更新した寺田明日香選手(パソナグループ所属)。現在は5歳の娘を育てながら、東京オリンピック出場&決勝進出を目指しています。

引退、大学進学、結婚、出産、7人制ラグビーへの挑戦を経て、陸上界にカムバックし、2019年のドーハ世界選手権に出場した寺田明日香(写真/Getty Images)

 高3時にインターハイ3連覇&三冠を達成するなど華々しい活躍の裏で、「負けるのが怖い」と周りの目が気になるように。次第にレースで他の選手の背中を見つめるようになり、陸上の話をすることもつらかった日々を経験。そんな寺田選手が、優勝した選手に「おめでとう」と言えるようになるまでの心の変化をつづります。

文◎寺田明日香

10代の私が今の状況を経験していたら

 練習場所も少しずつ確保しやすい状況となり、本格的に部活動やチームの練習も始まりつつあると思いますが、以前と同じ練習スタイルは取れていない方が多いのではないでしょうか。

 新しい生活様式とともに、新しい練習スタイルも求められ、困惑することも多いと思いますが、自分の目標や信念を見失わずに今できることを継続することこそが、成長へのカギになると考えて毎日を過ごしたいところです。

 10代の頃の私が今の状況を経験していたらどう思うのかと、よく考えることがありますが、きっと自分がどうするかよりも、他の選手たちが何をして過ごしているかばかり考えて過ごしているのではないかなぁと思っています。
 あ、今の私そうかも……と思った選手、いませんか?

 練習環境や指導者に恵まれ、あまり人の背中を見て走る経験が少なかった10代後半の私は、“勝つのは当たり前”で、それ以外はなんの意味も持たないと思っていました。優勝してもタイムが悪いときの自分の走りや、一緒に走った他の選手のことに関しては、“興味がないフリ”をしていたのです(負けたレース、記録が悪かったレースの映像は全く見ませんでした)。

 高1でインターハイを制してからは追われる立場として過ごすなかで、心の底ではジリジリと背中を追いかけてくる選手たちの圧を感じていて、「負けるのが怖い」と思っていました。実は練習中に他の選手の姿が頭によぎることは、少なくなかったです。

 その感情を隠すべく、“近寄らないで”という空気を身にまとっていたような気がします。今考えると、本当に嫌なやつです……(笑)。

 そして、そうしていたツケが20代に入った頃にやってきました。ケガから始まり、自分の体質の変化への不適応や体調不良なども重なり、今まで他の日本人選手の背中を見たことがなかったのに、予選や準決勝で敗退するようになっていきます。

 勝ち続けていたときの過去の自分を捨てられず、謎のプライドと負けることへの羞恥心を背負って過ごす毎日。周りはどんどん前に進んで行くのに、自分だけが後退していくような劣等感。自分が出場できなかった日本選手権や世界の舞台を直視することはできず、陸上競技場に行くのも陸上の話をすることもつらくなっていきました。

 そんな状況になって初めて、勝つことの難しさと、“自分の目標”に目を向けることの大切さ、そのための過程の重要さを考えることができるようになりました。

 もちろん競技は誰かと競うものなので、他の選手のことが気になるのは当たり前の心理です。しかし、他人がどうなるかは自分がコントロールできる問題ではありません。
 なので、他の選手が何をしているか、何を考えているかに目を向けても、自分は一歩も前に進んでいけないのです。

 自分に足りないこと、自分のやるべきことにしっかりと目を向けられるようになったとき、成長への大きな一歩となりますし、他の選手へのネガティブな感情は消えるのではないかと考えています。


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