今シーズンで勇退する関西学院大学アメリカンフットボール部の鳥内秀晃監督。選手たちの「負けない強さ」を育んだ指導力と、軽妙な大阪弁の語り口、厳しくあたたかい人柄で、多くの人たちを魅きつけてやまない監督の魅力を、長く取材してきた担当記者たちが綴ります。Vol.04は、讀賣テレビ放送株式会社編成局アナウンス部で、関西学生アメリカンフットボールリーグ戦の実況でおなじみの尾山憲一さんです。(上の写真:12月1日、立命館大を下して、甲子園ボウル出場を決めた試合の直後、選手たちに語りかける鳥内監督 写真提供:尾山さん)
仕事柄、結婚披露宴の司会を依頼されることがある。選手時代の取材で親しくなった関学OBに司会を頼まれることもあった。その際、主賓か乾杯で祝辞を述べる鳥内監督。司会者の私が鳥内監督を促し、マイクの前に立つと、その第一声で…
「話の前に業務連絡。OBが多いから言うとくわ。OB会費ちゃんと払ってや!」
場内大爆笑!! ドヤ顔の鳥内監督。
もはや吉本新喜劇ばりのお約束でつかみはOK! そこからの祝辞となる。
素顔は近所の居酒屋好きの典型的な大阪のおっちゃんだが、28年の監督生活でリーグ優勝17回・学生日本一11回(*)。学生団体スポーツが関東一極集中している中、言うまでもなく‘名将’である。関東圏以外で日本一になれるチャンスが多い学生団体スポーツがアメリカンフットボールであることを証明している。
そんな名将が監督を退くと自ら発表したのは、今年2月の甲子園ボウル優勝祝賀会での挨拶の時だった。司会をしていた私も突然すぎて初めは言葉を失ったが、「では、2019年シーズンは有終の美を飾らないといけませんね」と問いかけると、「そんなんどうでもえぇねん。学生自身がどうしたいのかだけや」と返答した。
一見ぶっきらぼうに見える鳥内監督だが、実は緻密でしかない。
試合当日の天気、会場の作り、日差しの方角、陽の傾き方と傾く時間など、細かな事を徹底的にチェックする。
立命館大との2013年リーグ最終戦。京大に敗れ1敗の立命館に対して、関学は勝つか引き分けでも単独リーグ優勝が決まる中、0-0のスコアレスドローで栄冠を手にした。ディフェンス合戦で両軍とも得点は厳しかったが、いろいろなリスクを想定し、敢えて地道なプレーで時間を消費。最終的に引き分けにして単独優勝したこともあった。そこまで考えて采配していたという。
だからこそ、28年の監督生活で一番の思い出は? と伺うと「勝たせてあげられなかった代のことやな」と即答した。頂点に立てなかった時、必ず「俺の責任や」と振り返る。
また、我々メディアとの距離感も絶妙である。
選手に危機感を与えるために「アカン…全然アカン…特に4年生がアカン…って書いといて(言うといて)笑」と我々に発する。このやり取りは試合後のお約束になっているが、そのキーワードが近年出なくなってきた。本当に‘アカン’のだと推測する。
そんなある日、突然携帯電話が鳴った…表示は「鳥内秀晃監督」…
電話に出ると 「お~ ‘あれ’ どないなってんねん!」
スポーツ報道に携わって四半世紀以上、数多くの名将に接してきたが、常にチームの事を考えている指導者の話に【主語】がないのは共通かもしれない。ちなみに、先ほどの ‘あれ’ は、話を進めるとなぜか阪神タイガースのことだったりする…
やはり大阪のおっちゃんだ。
(*)このコラムを執筆している時点で2019年の甲子園ボウルは行われていない。最終的には「学生日本一12回」になるかもしれない。先日の試合後「負けて終わるのは嫌や…」ほんの少し本音が出た。鳥内監督のラストイヤーはまだまだ続く….
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