アメリカンフットボールのXリーグは、トップリーグ「X1スーパー」第2節で富士通フロンティアーズとパナソニックインパルスが対戦し、富士通がパナソニックを45-27で破った。
先制はパナソニック。第1クオーター(Q)6分、RBビクタージャモー・ミッチェルの1ヤードランでタッチダウンを(TD)を奪った。富士通は第2Q、オフェンス4シリーズ目のパントで、パナソニックリターンチームの捕球ミス(マフ)をリカバー。ゴール前からの好位置を得ると、QBマイケル・バードソンがWR森田恭平にTDパスを決めて同点とした。富士通は第2Q10分にもQBバードソンが、ルーキーWR松井理己にTDパスを決め逆転。さらに11分、パナソニックのファンブルをリカバーして得たオフェンスでバードソンから、新加入のRBサマジー・グラントにTDパスが決まり、富士通が21-7で後半へ折り返した。
第3Q、富士通はバードソンが2本のランTDでリードを広げるが、パナソニックは、QBアンソニー・ロウレンスのキャッチアップオフェンスで、2TDを返し再び14点差に。しかし、富士通はバードソンが3本目のランTD、さらにK西村豪哲のフィールドゴール(FG)でパナソニックを突き放し、試合を決めた。
第2Q終了前の2ミニッツでの得点が、フットボールでは重要だ。NFLなどでは、第4Qの2ミニッツオフェンスに注目が集まるが、リードしている側が保守的な試合運びになる第4Qに比べ、第2Qは、どちらも積極的に得点を狙う。だから、ターンオーバーなどをきっかけに大量点が入りやすい。
アジャストメントのスポーツであるアメフットは、正味10数分のハーフタイムで、前半の相手のプレーを分析して、自軍の戦い方を修正する。後半に向けて対策を練るサイドラインにとって、前半終了直前の失点、それもTDの7失点は大きな誤算になる。モメンタムの点でも、優位に立った状態でハーフタイムを過ごせるのは大きい。
4連覇した時代のオービックシーガルズは、この時間帯のTDが非常に多かった。そしてこの試合は、強豪・パナソニック相手に、富士通が同じようなフットボールを展開した。
第1Qは完全にパナソニックのペースだった。最初のオフェンスシリーズは、共に新加入のQBロウレンスのパスとRBミッチェルのランが競うように決まって小刻みに前進、ミッチェルのTDに結び付けた。13プレー75ヤードとなったこのドライブだけで、ファーストダウンを5回更新。強力な富士通ディフェンスでも、どうにも止められない状態だった。
ディフェンスでもパナソニックが優位に立った。デイビッド・モトゥ主将が率いる巨大で強力なDLが激しいパスラッシュをかけ、富士通のQBバードソンを追い詰めた。富士通のオフェンスは3シリーズ連続でパントに追い込まれた。ノジマ相模原ライズを開幕戦で完封した勢いが続いていた。
ターニングポイントは、第2Qだった。4回目のドライブもパントになった富士通だが、パナソニックのリターナー、WRダニエル・ワイズがマフ(パントの処理ミス)して、富士通がリカバーした。
さらにパナソニックは、エンドゾーン内でパスインターフェアランスの反則を犯す。ゴール前2ヤードからのオフェンスで、バードソンはエンドゾーン左奥、いわゆる「コフィンコーナー(棺桶の隅)」にパスを投げ込み、WR森田がきっちり足を残しながら捕球していた。
富士通オフェンスは第2Q終盤にも、たたみかけた。QBバードソンは自陣で、インサイドから割って入って来たパナソニックのモトゥ、松本英一郎の2人のタックルを振りほどくと、スクランブルで29ヤードをゲインする。バードソンはこのプレーで「スイッチ」が入った。次のプレーで、エンドゾーン奥に走り込んだWR松井に完璧なタイミングでTDパスをヒットした。
パナソニックは、逆転されて焦ったのか、次のオフェンスで、自陣で痛恨のファンブルロストを犯す。バードソンはこの機会も、一発で、RBグラントにTDパスを決めた。序盤、攻守で試合を支配していたパナソニックが前半を終わってみれば2本差でリードを許すという状況になった。
第3クオーター、流れは変わらなかった。パナソニックのオフェンスをサード&アウトに仕留めた富士通は、QBバードソンがRBグラントへのパスを軸に前進、最後は自らエンドゾーンに走り込んだ。バードソンは次のドライブでも、16ヤードのTDランを決め、35-7と試合前には予想できなかった点差となった。
しかしパナソニックも執念のキャッチアップを展開する。新加入のロウレンスは、昨年まで米NCAAのFCS、サンディエゴ大で4年間エースQBとして活躍、4シーズン49試合でパス12,628ヤード・120TD、昨年は12試合でパス4107ヤー・39TDという驚異的な成績を残したパサー。その能力の片りんを見せた。
WRワイズとエースレシーバー頓花達也を中心に、木戸崇斗や小山泰史にもパスを投げ分けてドライブ、頓花のへのTDパスであっさりTDを奪った。次のドライブでも頓花へのロングパスで前進すると、23ヤードをスクランブルで走り切って、自らTD、21-35とした。第4Q残り9分余りで2本差は、十分に逆転圏だった。
富士通は、いったんは下がっていたQBバードソンが、再び登場。RBグラントへのスクリーンパスで39ヤードをゲインして、一気にパナソニック陣に突入すると、最後はバードソンが、この試合3本目のランTDで再び、パナソニックを突き放した。残り4分余りで3TD差、試合はほぼ決着した。
流れを掴んだのは、前半終了間際、相手のミスを逃がさない、富士通のフットボールだ。ただ、後半になっても得点を重ねることができたのは、QBバードソンの決定力と、RBグラントのパスレシーブ能力が大きい。バードソンは、パスとランでそれぞれ3TD、グラントはラン52ヤード・パスキャッチ122ヤードと、ディフェンスにとっては守りようがない厄介な存在だ。
そしてそれを支えたのは、やはり大きく強い富士通のOL陣だ。
この試合、富士通OLの反則はホールディングこそ2回あったが、フォルススタートはゼロ。パナソニックの強力ディフェンス相手に、許したサックは第1Qの1回だけ。大黒柱のLT小林祐太郎、技と知恵のLG望月俊、C山下公平の不動のメンバーに、RGはTから転向の巨漢・佐嶋優輔、RTは機動力が持ち味の藏野裕貴、2015年の日本代表、斎田哲也や勝山晃が控えに回る層の厚さ、レベルの高さは他チームが最もうらやむ陣容だろう。そこにケビン・ライトナーOLコーチの厳しい指導が加わる。
山下は「ケビンさんは、決めたことは絶対守らせる。パスプロテクションもランブロックも細かい部分まできっちり詰める。日本では、OLの練習は、なあなあになってしまうこともあるが、ケビンさんは『アメリカでは、こうだ』と絶対なれ合いを許さない」という。
QBバードソンも「パナソニックはオービックと並んで、非常にディフェンスが強い。自分自身のミスもあって、序盤はプレッシャーにやられた。彼らは素晴らしい仕事をした。ただ、OLが非常に早くアジャストメントをしてくれて、3シリーズ目くらいから、ディフェンスを上回った。綺麗なポケットを作ってくれた。我々のOLはリーグ1だと思う」と話した。
また、37歳のパンター吉田元紀が、ビッグパントを連発したのも忘れてはならない。試合の流れを変えた、パナソニックのマフの場面は、追い風を読んだ吉田のパントが高く長く70ヤードも飛び、25ヤード付近にいたリターナーのWRワイズが15ヤード以上も戻ったため、バランスを崩して処理できなかったのだ。吉田はこの試合6回のパントで275ヤードだが、実際に飛んだ距離は273ヤードで1回平均45ヤードを超えた。日大、日産、富士通でQBとして活躍した、ゲーム理解の深いベテランがこのポジションにいるのは大きい。
山本洋HCの1年目に、キャプテンのWR宜本潤平と、昨年のMVP、RBトラショーン・ニクソンが、負傷で今季出場できないという非常事態となった。そして新リーグ体制による強敵との対決。この逆風下でも今の富士通は揺るがない。ストップをかけるチームはあるのだろうか。【写真/文:小座野容斉】
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