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2019-09-04

歓喜の富士ゼロックスミネルヴァ シルバースターにチーム史上初勝利

アメリカンフットボールのXリーグは、下位「X1エリア」の第1節で富士ゼロックスミネルヴァAFCとアサヒビールシルバースターが対戦、ゼロックスが14-13でシルバースターを破った。ゼロックスがシルバースターに公式戦で勝ったのは初めて。

富士ゼロックスミネルヴァAFC○14-13●アサヒビールシルバースター(9月1日、富士通スタジアム川崎)

【ゼロックス vs シルバースター】第1クオーター、ゼロックスのRB廣澤のランを食い止めるシルバースターLBウォレス=2019年9月1日 撮影 小座野容斉

 ゼロックスが、シルバースターが犯したミスにつけ込んで、着々と加点し、最後は1点差で逃げ切った。ゼロックスは、第1クオーター(Q)QB鈴木貴史のパスで攻め込むと、WR/K河津俊介のフィールドゴール(FG)で先制。直後のシルバースターのオフェンスをパントに抑え込むと、シルバースターがパントをスナップミスしてボールがエンドゾーンを超えてしまい、セーフティーで2点を追加した。ゼロックスは、続くオフェンスでもQB鈴木のランとパスで、ゴール前まで攻め込み、タッチダウン(TD)は奪えなかったが、K河津がFGを決めた。シルバースターは直後のキックオフリターンでWRリッジ・ジョーンズがファンブル、リカバーしたゼロックスがまたもオフェンスとなり、FGで3点を追加し、11-0とリードした。

【ゼロックス vs シルバースター】第1クオーター、ゼロックスWR桑原がQB鈴木からのパスを好捕し25ヤードをゲイン=2019年9月1日 撮影 小座野容斉

 シルバースターは第2Q6分、RB柳澤拓弥のランTDで7点を奪って反撃、11-7とゼロックスリードで後半へ。ともに1本ずつFGを追加して、14-10で迎えた第4Q、シルバースターはRBジョナ・ホッジスのランでエンドゾーンまで20ヤードのレッドゾーンまで攻め込むが、攻めきれず、サイドラインはFGをチョイス、14-13と1点差とした。しかし、ゼロックスが、この後、残り6分52秒をほぼ使い切るオフェンスを展開。敢えて得点せず1点差のまま試合を終えた。ゼロックスが、チーム史上初めて、シルバースターを撃破した。

【ゼロックス vs シルバースター】第4クオーター終盤、最後までボールをキャリーし続けたゼロックスRB廣澤=2019年9月1日 撮影 小座野容斉

 かって0-91で敗れた相手に、会心の勝利

 ゼロックスが歴史的な勝利を挙げた。過去のシルバースター戦の戦績は以下の通りだ。

2017年8月26日 シルバースター○38-6●ゼロックス

2012年5月4日 シルバースター○91-0●ゼロックス

2010年10月9日 シルバースター○58-0●ゼロックス

2009年5月4日 シルバースター○68-0●ゼロックス

2008年9月23日 シルバースター○86-14●ゼロックス

 5試合中、3試合は完封負け。トータル341失点で得点はわずかに20。7年前には、0-91で大敗した強豪相手に、見事な雪辱を果たした。試合後のゼロックスサイドラインは歓喜に包まれた。シルバースターが、ファンブルロストや、反則など、ミスの連続だったとはいえ、序盤でつかんだリードを、堅固でミスのないフットボールによって、最後までしっかり守り抜いた。

【ゼロックス vs シルバースター】第4クオーター終盤、冷静にパスを決め続けたセロックスQB鈴木=2019年9月1日 撮影 小座野容斉

 特筆すべきは、第4Q残り6分52秒からのオフェンスだった。
 シルバースターは直前の4点ビハインドのオフェンスで、FGを蹴って、1点差とする選択をした。タイムアウトは3回残っていて、7分弱。ゼロックスのオフェンスをしっかり抑えられれば、十分に逆転の可能性があると踏んだからだった。
 このシリーズ、冒頭にいきなりディレイオブゲームで5ヤード下がり、自陣26ヤードの地点からのオフェンスとなった。しかしQB鈴木は落ち着いていた。
 自身のランで8ヤードをゲインすると、次のプレーでWR堀場康太へ29ヤードのパス。一気にシルバースター陣内に攻め込んだ。ランで時間を使いながら迎えたサードダウン10ヤード。鈴木はRB廣澤達也へ10ヤードのパスでファーストダウンを更新する。ゴールまで27ヤードというFG圏内、残り試合時間が2分半を切った。
 フィールド内でダウンするパスを続ける鈴木、時計は進む。シルバースターはたまらずにタイムアウトを使い始めた。フォースダウン5ヤード、ゴールまで22ヤード。残り時間は2分を切っていた。FGが決まれば4点差。シルバースターの逆転にはTDが必要となる。しかし、ゼロックスのサイドラインは、FGではなくオフェンスを続ける選択をする。文字通りの「ギャンブル」だった。
 鈴木はファーストダウンの地点に走り込んだWR和田優貴にパスを決めた。6ヤードのゲインでファーストダウン。ここでほぼ勝負は決した。

【ゼロックス vs シルバースター】第4クオーター終盤、ゼロックスのフォースダウンギャンブルで、WR和田がQB鈴木からのパスをキャッチし、勝利を決定的にするファーストダウン更新=2019年9月1日 撮影 小座野容斉.

 ゼロックスは、残り時間を使いきって、フォースダウン12ヤードを迎える。残り6秒、ここでもゼロックスはFGを選ばず攻撃に出た。鈴木がフィールドを逃げ回り、パス失敗、残り1秒で、オフェンスを渡した。
 1秒、1プレーだけが残されたシルバースターだが、ラグビーのようなラテラルオフェンスを狙ったと思われるQB安藤和馬のパスはあっさり失敗し、幕切れとなった。

【ゼロックス vs シルバースター】第4クオーター終盤、戦況を見据えるゼロックスの菅原HC(前列右)と長島アシスタントGM(前列左)。菅原HCは「最後の最後まで、勝ったとは思えなかった」という=2019年9月1日 撮影 小座野容斉

 ゼロックスの菅原伸一郎ヘッドコーチ(HC)は、「今年の2月から、今季のシルバースター戦を標的に定めていた。必ず勝つと決めて、準備をしてきた」と、興奮を押し殺して、沈着に語った。
 ゲーム最後のオフェンスシリーズ、2度のFGチャンスで、蹴らずにプレーした理由は「FGは、前半にも2度ブロックされて失敗していた。あそこでブロックされて、リターンされてしまったら元も子もない。オフェンスラインを信じてドライブしていくことを選んだ」という。
 そして「選手たち全員が参加して、自主的に作り上げてきたチーム。今季再構築したオフェンスで、まだ若いコーディネーターの松場 (智紀)君が、ほんとうに良いプレーコールをしてくれた」と称賛した。
 松場オフェンスコーディネーターは、今季就任。早稲田大学ではビッグベアーズに2年生で入部、アナライジングスタッフを務めてきた。アメリカンフットボールのプレー経験を持たないが、非常に勉強家だという。
 QB鈴木は、最後のオフェンスシリーズでギャンブルを決めたパスについて「自分が一番自信があったパス。松場がプレーを入れてきた瞬間に、思わずニヤリとしてしまった」という。
 鈴木は、法政大学時代はエースQBとして活躍、昨年まで2年間はシルバースターに所属し、安藤らとエースの座を争って来た。今季思うところあって、ゼロックスに移籍。大学の1年先輩・RB廣澤とのタンデムは、上位のチームにも十分に通用することを証明した。
 ゼロックスは、この試合TDこそなかったが、3&アウトは1回もなく、ボールコントロールでペースを握り続けた。タイムオブポゼッションは31分51秒で、シルバースターのほぼ2倍。ターンオーバーもなく、反則と罰退はわずか2回、10ヤードだった。ゼロックスが今季のエリア1の台風の目となるのは間違いなさそうだ。

   ◇       ◇

【ゼロックス vs シルバースター】第4クオーター終盤、ゼロックスに致命的なファーストダウン更新を許し、静まり返るシルバースターサイドライン=2019年9月1日 撮影 小座野容斉

 シルバースターは、新QBケダリアス・ハンフリーズが、出場できなかったのが痛かった。しかし、WR、RB、LBと3人の米国人選手がそろい、ゼロックスに対して、戦力的なビハインドがあったとは思えない。かって鎧袖一触で大勝してきた相手に対する侮りが、どこかにあったのではないか。
 ディフェンスはTDこそ許さなかったが、ゼロックスオフェンスにボールをキープされ、時間を使われた。オフェンスでも、新外国人ジョーンズが2度のファンブル、RBホッジスも昨年のキレがなく、頼みのQB安藤のパスは7/22で83ヤードだった。去年まで競い合った鈴木の14/22、174ヤードの半分の成績だ。
 この試合内容では、トップリーグ「X1スーパー」への昇格など、とても口にできる状態ではない。次戦はアサヒ飲料チャレンジャーズ戦。負けることはもう許されない。【写真/文:小座野容斉】

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