米プロフットボール・NFLの王座決定戦、第56回スーパーボウルが、現地2月13日午後(日本時間2月14日午前)、ロサンゼルス近郊のSoFiスタジアムで行われ、ロサンゼルス・ラムズ(NFC)が23-20でシンシナティ・ベンガルズ(AFC)に逆転勝ちし、1999年シーズン以来、22年ぶりの2回目の王者となった。MVPにはラムズのWRクーパー・カップが選ばれた。また、ラムズのショーン・マクベイヘッドコーチ(HC)は、史上最年少のスーパーボウル勝利HCの記録を更新した。(写真はすべてGetty Images)
第56回スーパーボウル(2021年2月13日、SoFiスタジアム)
ロサンゼルス・ラムズ 7 6 3 7 23
シンシナティ・ベンガルズ 3 7 10 0 20
史上最高のスーパーボウルだったかどうかはわからない。ただ、僅差の激戦が続いたプレーオフからの集大成にふさわしい素晴らしいゲームだったのは間違いない。「NFL史上最高のポストシーズン」だったと言っても良いのではないだろうか。その大団円の激闘を振り返りたい。
ラムズの「順調」崩したベッカムの「自爆」負傷
第2Q途中までは順調なラムズのペースだった。QBマシュー・スタフォードからWRオデル・ベッカム・ジュニア(OBJ)へのタッチダウン(TD)パスが決まり、先制。ベンガルズは、ラッキーボーイ、Kエバン・マクファーソンのフィールドゴール(FG)で3点を返したが、ラムズは直後のオフェンスシリーズで、スタフォードがOBJへ35ヤードのパスを決めて攻め込むと、エースWRクーパー・カップに11ヤードのTDパスを決めた。ラムズの両WRがうまく機能、ハイスコアオフェンスがそのまま回転し続けるかと思えた。
ただ、この2本目のTDの後のエクストラポイントが失敗した。これが、その後の展開に大きく響いた。
ベンガルズは、すかさず反撃した。RBジョー・ミクソンのランが出るようになり、ドライブを続けた。ミクソンのアウトサイドゾーンのランを続けたことが、伏線だった。
ゴール前まで攻め込んだ2ndダウンで、QBジョー・バロウは、ミクソンにピッチ。ミクソンは右のオフタックルを突くと見せて軽く右腕を振った。エンドゾーンに走り込んでいたWRティー・ヒギンズへの完璧なパス。ベンガルズがTDで3点差に迫った。
ラムズにトラブルが起きたのはその後のラムズのドライブだった。アクロスルートを走ったOBJがパスをキャッチし損ねた。OBJはグラウンドに倒れたまま起き上がれなかった。いわゆる「自爆」プレー。膝の関節、おそらくは靭帯を痛めたであろうことが分かった。
さらにラムズを逆風が襲った。この後のプレーで、エンドゾーンを狙った、スタフォードの強引なパスをベンガルズのSジェシー・ベイツがインターセプトした。
しかし、ここでベンガルズに思わぬ反則が出た。この試合ではインアクティブで、スタイルしていなかったベンガルズDBのバーノン・ハーグリーブスがインターセプトを喜ぶあまり、フィールドに入ってセレブレーション。アンスポーツマンライクコンダクトを取られてしまったのだ。
残り2分、自陣25ヤードからのオフェンスが、自陣10ヤードからとなった。結局このドライブ、ベンガルズはパントとなってしまった。
ベンガルズへの流れ、食い止めたラムズディフェンス 後半開始のオフェンスは、ベンガルズから。いきなりビッグプレーが飛び出した。1stダウンでQBバロウがWRヒギンズを狙ったパスで、マンツーマンカバーのCBジェイレン・ラムジーが転倒。ヒギンズはエンドゾーンに走り込んでTDとなった。ラムジーは反則をアピールしていたが、リプレーを見るとヒギンズがラムジーのフェイスマスクをつかんでいるのがはっきり写っていた。しかし、オフィシャルは気付かず、TDは認められ、17-13とベンガルズが逆転した。
ベンガルズへの流れは止まらなかった。ラムズは、スタフォードが1stダウンで投げたパスを、WRベン・スコウロネクが弾いて、それがインターセプトとなってしまった。
ゴールまで31ヤードのベンガルズのオフェンス。ラムズにとってこのゲーム最大の危機に、ディフェンスが奮起した。DTアーロン・ドナルドが2度のQBサック。特に2回目のサックは、自陣11ヤードの3rdダウン3ヤードから、9ヤードをロスさせた。このサックが無ければ、ベンガルズはあるいはTDを奪っていたかもしれない。ベンガルズは結局FGにとどまった。
後半、立て続けに得点を許したラムズだが、ディフェンスの破壊力はむしろ増していた。この後ベンガルズの3回のオフェンスでファーストダウンを1回しか許さなかった。前半とは違い、LBも加えて、スタンツなど変化を付けた多彩なパスラッシュでQBバロウを圧迫した
ディフェンスが流れを押し戻したとはいえ、ラムズオフェンスは苦戦した。第3QにFGで3点を返したが、16-20。エクストラポイントの失敗が大きくのしかかった。
WRカップが見せた真価 第4Q残り6分からのオフェンス。ラムズのマクベイHCは腹をくくった。スタフォードは
Hey, Matthew, you and Coop go get this thing done.
「おい、マシュー。お前とクープ(WRカップのこと)でこれをやり遂げるんだ」
と言われたという。
自陣30ヤードの4thダウン1ヤード。マクベイHCはギャンブルをする。プレーは、ベンガルズの意表を突くカップへのエンドアラウンド(ジェットモーション)だった。LBが上がってタックルすれば、あっさりロスをすることもある。文字通りのギャンブルだった。
マクベイは、今季レシーバーとして3冠でNFLの歴史に残るような成績を残したエースWRにすべてを託した。エースもそれに答えた。カップはタイミングよく縦に切れ上がり、ファーストダウンを奪った。ガッティコール、ガッティプレーだった。
ラムズはここからカップにボールを集中してゴール前まで攻め込んだ。4点差。とにかくTDを奪うしかなかった。
残り1分47秒ゴール前8ヤードからの3rdダウン、スタフォードがカップに投げたパスを、ベンガルズLBローガン・ウィルソンが叩き落とした。しかし、イエローフラッグが飛ぶ。ディフェンスホールディングの判定だった。ファインプレーと紙一重、ベンガルズには無情の判定だった。ゴールまでのハーフディスタンス前進、そして1stダウンからのオフェンスとなった。
ベンガルズは、この後もう一回パスインターフェアランスの反則。カップの捕球を明らかに妨害していた。ゴールまで1ヤードで1stダウン。残り時間と、TDを奪われた後の点差を考えれば、ここは故意にTDを許しても良いと思われた。ベンガルズの立場に、かってのペイトリオッツ&QBトム・ブレイディがいたなら、さっさとTDさせたのではないだろうか。
ゴール前1ヤードからの2ndダウンで、ラムズQBスタフォードはWRカップに逆転TDパスを決めた。エクストラポイントも決まって、23-20となった。
得点差は3点。ベンガルズのタイムアウトは2回。残り時間は1分25秒。ポストシーズンのFGはパーフェクトに決めているKマクファーソンが控えているので、約40ヤード進めばよかった。QBにとって最高の見せ場となる場面。しかし、ヒーローとなったのは、ラムズディフェンスだった。
QBバロウに2回のパスで自陣49ヤードまで進まれた。しかし3rd&1でRBサマジー・ペリンのランを、DTドナルドが執念のタックルで食い止めた。
残り39秒、4thダウン1ヤード。ドナルドが渾身のラッシュをかけ、ベンガルズのポケットを破壊して、バロウにつかみかかった。バロウが振り回されながら辛うじて投げ出したボールは、RBペリンが走り込む先に落ちた。4thダウンギャンブル失敗。
ラムズにとって、22年ぶりの2度目の栄冠がもたらされた瞬間だった。
ラムズD、スーパーボウル新記録の7QBサック 終わってみれば、ラムズディフェンスの強さが光った。ベンガルズのトータルオフェンスは305ヤード。後半最初の75ヤードTDパスと、第1Qのジャマー・チェイスへの46ヤードパスを除けば、20ヤード以上のビッグプレーは1回も許さなかった。
前半は1回だったQBサックも、後半は6回、計7回でスーパーボウル最多記録を更新した。DTドナルド、OLBボン・ミラーが2回ずつを記録した。
MVPのカップはパスレシーブ8/10、92ヤード、2TD、ラン1回7ヤード、パス失敗1回だった。
ショーン・マクベイHCは、史上最年少のスーパーボウル勝利HCとなった。1986年1月24日生まれのマクベイは、36歳20日。第43回スーパーボウルで、スティーラーズのマイク・トムリンHCが作った記録を303日更新した。
ラムズDTドナルド「ただ、この1試合のために」AP通信などが伝えたラムズのマクベイHCや主力選手のコメントは次の通り。
■ショーン・マクベイHC
「素晴らしい気分だ。このチームは、コーチも選手も弾力に飛んで回復力のあるチームだと思う。このチームを誇りに思うし、このチームに関われることを誇りに思う。」
「我々は常に偉大な競争心について話してきた。それは、ベストを求められた時にベストを尽くせるということだ。」
「オフェンスが勝利への道を見つけ、アーロン(・ドナルド)がそれを完成させることができた。詩的なことだと思う」
■QBマシュー・スタフォード
「これこそがハードワークであり、何時間もの共同作業だった。『マシュー、お前とクープ(WRカップ)でやり遂げろ』と言ってくれたコーチ・マクベイに感謝している。コーチはカップのためにプレーをコールし続け、カップにボールを持たせる方法を見つけ続けた。そしてカップは信じられないプレーをした。それが彼がやり遂げたことだ。」
■WRクーパー・カップ
「求められていることがどんなことであれ、自分の仕事が何であれ、自分の能力を最大限に発揮したいと思っていた。」
「(なかなかパスターゲットにならなかったが)ゲームが進むにつれて、僕にもチャンスが出てくると信じていた。そのための準備を怠らず、集中を切らさずにいた。」
「最後のドライブでは少しアップテンポにしたので、ベンガルズにゾーンコールをさせずに済み、そのおかげでマシューと僕はソフトスポットを見つけることができた。」
■DTアーロン・ドナルド
「執拗にならないといけない。何かを強く望んだのなら、それを手に入れに行かなければならない。それは目の前にあった。」
「とても欲しかった。夢にまで見た」
「オフシーズンの間のすべてのワークやトレーニング、キャンプ、そして長いシーズン。ただただ、この1試合のためだった。我々は最後に残ったチームなんだ。」
【得点経過】
ラムズ 第1Q 残り6:22 WRベッカム・ジュニア17ヤードTDパス←QBスタフォード[7-3]
ベンガルズ 第1Q 残り0:28 Kマクファーソン29ヤードFG[7-3]
ラムズ 第2Q 残り12:51 WRカップ11ヤードTDパス←QBスタフォード (コンバージョン失敗)[13-3]
ベンガルズ 第2Q 残り5:47 WRヒギンス6ヤードTDパス←RBミクソン[13-10]
ベンガルズ 第3Q 残り14:48 WRヒギンス75ヤードTDパス←QBバロウ [13-17]
ベンガルズ 第3Q 残り10:15 Kマクファーソン38ヤードFG[13-20]
ラムズ 第3Q 残り5:58 Kゲイ41ヤードFG[16-20]
ラムズ 第4Q 残り1:25 WRカップ1ヤードTDパス←QBスタフォード[23-20]