21日、東京・後楽園ホールで行われたWBOアジアパシフィック・スーパーフライ級王座決定戦12回戦は、同級2位のフローイラン・サルダール(30歳=フィリピン)が6位の村地翼(22歳=駿河男児)を巧みなヒット&アウェイでコントロール。8回50秒TKOでサルダールが勝利した。
終わってみれば、やはり“キャリアの差”がそのまま表れた試合だった。
これまで34戦30勝(21KO)3敗1分のサルダールと、わずか4戦(4勝3KO)の村地。単純な試合数だけではなく、戦ってきた相手も、潜ってきた中身も段違い。井上拓真(大橋)には判定負け(2016年9月)、当時WBOフライ級王者だった木村翔(青木)には6回KO負け(昨年7月)と、日本選手には結果を残せていなかったサルダールだが、それは彼らが世界のトップレベルにあったから。
西宮香風高校から東洋大学と、アマチュアの名門で腕を磨いた村地だが、アマのトップレベルにあったわけではない。しかも、昨年5月にプロデビューしたばかり。WBC世界ライトフライ級王者・拳四朗(BMB)をはじめ、“チャンピオンメーカー”として注目されている三迫ジムの加藤健太トレーナーに師事を仰ぎ、同ジムで1ヵ月間学んだというが、それも期間として物足りないと言わざるをえない。
初回、右の相打ちに勝ってサルダールからダウンを奪った村地だが、この右一撃に賭けるしかなかった。サルダールはぽんぽんと左ジャブを放ったかと思えば、一転して右を叩きつけ、さらに軽い右ストレートから強い左フックを返したり、綺麗な右ストレートを突き刺してきたりと、村地を幻惑する攻撃を仕掛け続ける。
この試合の前に戦った谷口将隆(ワタナベ)とは逆のパターン。接近戦での攻防一致を示した谷口に対し、サルダールは距離をとっての攻撃的アウトボクシング。アプローチの仕方は違ったが、スタイルは同様。谷口が、フローイランの弟ビックと対戦したことでヒントを得た戦い方だったというのもおもしろい。
村地は決して悪いボクサーではない。ジャブも右ストレートもスピードがあってシャープ。しかし、距離とフットワーク、さらにボディワークも備えているサルダールに対し、防御のあらかたはガードのみ。これでは、多角的に打ち込んでくるサルダールの攻撃に翻弄されてもしかたなかった。
ジャブで顔面をのけ反らされる“危険な兆候”も再三。4回には左フックで倒され、7回には今度は右の相打ちで効かされ、さらに右の追撃でダウン。ダメージは深刻で、立ち上がった村地の足は揺れていたが、レフェリーは続行。続く8回、村地も必死に攻撃を仕掛けたが、サルダールの左フックから右ストレートをまともに受けて大の字に。キャンバスに頭を打ちつけたのを見て、レフェリーがノーカウントで止めた。このラウンドは、はっきり言って無用だった。
ジム初のチャンピオンを早く誕生させたい。その気持ちもわかる。が、先を急いで将来性のある選手にダメージを与えてしまっては元も子もない。相手が巧かった、相手が悪かった、ではなく、村地自身のボクシングをもっともっと洗練させてほしい。キャリアを積ませてほしい。ストレートパンチに魅力のある選手だから、なおさらそう思う。
文_本間 暁
写真_馬場高志
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