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2023-11-08

変形性ひざ関節症教室 第26回 変形性ひざ関節症の治療法① 保存治療―運動療法と薬物療法

中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。今回から数回にわたり、変形性ひざ関節の治療法を取り上げてきます。まずは、手術をしないで痛みをなくする保存療法のうち運動療法と薬物療法について紹介します。解説はひざの専門医・田代俊之ドクターです。

 治療の目標は痛みをなくすこと

  ひざ痛教室に参加した患者さんから「軟骨は治らないのに、変形性ひざ関節症は治るのですか」という質問を多数いただきます。確かにすり減って変形した軟骨、半月板、骨が元通りになることは難しいと思います。こう答えると、患者さんは「では、病院に行っても治してもらえないのですか」となります。

 変形性ひざ関節症のみなさんが一番困っている悩みは「痛み」です。痛いから歩けない、痛いからスポーツをあきらめる、痛いから旅行に行けない。この痛みに対しては、いろいろな方法で対処することが可能です。つまり治療の目標は、痛みなく生活を過ごせるようになることで、この点に関してはまったくあきらめることはありません。


保存治療と手術治療

 治療は、「保存治療」と「手術治療」に大別されます。いきなり手術治療になることはほとんどなく、まずは保存治療のうちの運動療法がメインの治療となります。

 予防・治療で最も大切なことは、適切な運動で、筋力を落とさない、体重を増やさない、関節を硬くしないように心がけることです。したがって、痛みが強ければ薬や注射をすることもあります。こうして、いくつかの治療法を組み合わせて炎症や痛みを改善していきます。

 手術治療は、保存治療では十分な効果が得られず、痛みで日常生活が困難になった場合に選択する治療です。末期で歩行制限がでてくれば手術を検討します。手術治療にもいくつか選択肢があります。今回から、各種治療法について説明していきます。



運動療法で好循環が生まれる

 ひざが痛くなって安静にしていると、筋力が低下し体重が増えてきます。この結果、ひざにかかる負担が増え、軟骨のすり減りや炎症が増加し、痛みが増えるという悪循環に陥ります。一方、ひざが痛くても適切な運動を行えば、炎症は治まり、筋力が増加し、体重も減少します。この結果、ひざにかかる負担が減少し、軟骨も保護され、痛みから解放されるという好循環がもたらされます。

運動療法の種類

【筋力トレーニング】特に大腿四頭筋を鍛えて、ひざにかかる負担を減らします。ひざが悪い人は、ひざに負担がかからないように、関節を動かさないやり方で筋力を鍛えます。

【ストレッチング】変形性ひざ関節症が進行すると関節可動域が制限されてきます。ひざが硬くならないように、ゆっくり関節を動かして可動域限界のところで少し頑張る感じで、硬くなりかけた関節包、腱、筋肉などを伸ばします。

【有酸素運動】ウォーキング、水中歩行、水泳などの有酸素運動を行うことは、体力、筋力を維持するのと同時にダイエットとしても有効です。



薬物療法の主役は痛み止め

 運動療法を続けるとひざ痛が軽減していきますが、痛みが強くなると薬を使うこともあります。現時点で直接的に軟骨を治すクスリはありませんので、痛みを抑えることが、薬を使用する目的です。

 変形性ひざ関節症の薬には、消炎鎮痛剤、オピオイド(鎮痛薬)、湿布・塗り薬、鎮痛補助薬(デュロキセチン)などの種類があります。

 また、使い方によって内服薬、外用薬、座薬などがあります。塗り薬や貼り薬などの外用薬は有効成分が皮膚から吸収され、ひざに直接届きます。外用薬は副作用が少ない分、効果も限定的なので、十分な効果が得られない場合には、内服薬に変更されます。座薬は即効性が高いので、痛みが強いときに用います。

 いずれにしても薬物療法は対症療法です。また、長期的に使うことは、副作用の点などからも注意が必要です。薬で痛みを抑え、運動療法を行えば、だんだんと薬の量を減らしていけることもあります。

薬物療法の種類

【消炎鎮痛剤】ケガをしたときや歯が痛いときなどに使う、いわゆる痛み止めです。副作用としては胃腸障害が現れたり、長期間使うと腎臓を悪くしたりすることがあります。

【オピオイド(鎮痛薬)】より強い痛み止めで、特に痛みが慢性化したときに使います。脊髄から脳への痛みの伝達をブロックします。便秘や吐き気などの副作用があります。

【湿布・塗り薬】湿布のほとんどは痛み止めの成分が入っています。湿布は局所に作用させるので、全身的な副作用は少ないですが、効果も限定的です。また、かぶれなど皮膚症状に注意が必要です。

【鎮痛補助薬(デュロキセチン)】うつ病の薬として知られてますが、最近は慢性の変形性ひざ関節症の治療薬としても使われことがあります。疼痛感作(痛み刺激の繰り返しによって少しの刺激でも神経が反応して痛みが増強される現象)に対し効果があると考えられています。

【座薬】急性期の強い痛みに効果があり、即効性もあります。胃腸障害の副作用があり、長期間使用すると腎臓や肝臓を悪くする恐れがあります。

※薬は痛みがなくなったら使用を中止しましょう。


プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。

 

この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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