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2020-10-21

インタビュー:ジェイソン・マロニー 「ベストに勝った者だけがベストになる」

プロモーターのトップランクが用意した宿舎で。マロニーは終始、リラックスした表情だった

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11月1日(現地時間10月31日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで、井上尚弥(大橋)に挑戦するジェイソン・マロニー(オーストラリア)は10月上旬には早くも現地入りし、準備を進めている。そのマロニーを直撃インタビューした。ボクシング・マガジン11月号に掲載されたものだが、誌面の都合もあり、大幅にカットされている。今回はほぼ全文を掲載した。カットされていた経歴などの部分も大幅に復元している。インタビュアーはニューヨーク在住の杉浦大介記者。メジャーリーグの取材先フロリダからベガスに飛んでもらった。

試合までには完ぺきに仕上げる

――10月2日に渡米し、MGMグランドから車で10分ほどの場所にトップランクが借りたこの家で井上尚弥戦までの時間を過ごすと聞いています。あと1ヵ月弱はどんな日常になるのでしょう?

マロニー 試合当日に完璧な状態で臨めるように準備していくつもりです。井上との試合は米東部時間でだいたい夜8時ごろからなので、毎日、夜8時にトレーニングします。そうやって私の体内時計を合わせ、試合当日の夜8時に疲れや眠気を感じないようにするんです。食事、昼寝などもその時間に合わせ、体を作っていきます。練習は1日に2度。朝はランニング、水泳、コンディション調整、夜はスパーリングを軸にしたボクシングのトレーニングになります。スパーリングは火、木、土曜と週3回。それぞれタイプが違い、それでいて井上のスタイルを模倣できるスパーリングパートナーを準備してもらいました。

――試合開始時間を軸に体内時計を合わせるという作業は、6月にラスベガスで行った前戦(レオナルド・バエズ戦)でも行ったんでしょうか?

マロニー 前の試合の際も4~5週間前にラスベガス入りし、同じことをやり、おかげでコンディションは素晴らしいものに仕上がりました。今回もそうするつもりです。

――今回のスパーリングパートナーの名前を教えていただけますか?

マロニー ひとりはフィラデルフィアから招待し、明日(10月4日)到着します。あとはすでにキャンプに同行してくれているチリ人のアンドレス・カンポス(9戦9勝2KO)、オーストラリア人のベガス・ラーフィールド(2戦2勝)。彼らはともに井上と身長がほとんど同じです。それと同時に、彼らには井上のフィルムをよく見るようにと話しています。スパーリングでも井上の動き、スタイルを真似してもらい、可能な限り必要な練習が詰めるようにしていくつもりです。

――最終的にどのくらいの量のスパーを行う予定ですか?

マロニー それはトレーナーのアンジェロ・ハイダー次第です。彼が私のコンディションを見極めながら必要な量を準備してくれます。好調な日には12ラウンドやるかもしれませんし、疲れが見えたり、短い時間をハイペースで戦うのが適切だと思ったら、その日のラウンドは少なくなるでしょう。体調、調子次第で、8、10、12ラウンドとラウンド数は変わってきます。アンジェロは僕の調整を上手にやってくれるので、これまで試合当日はいつでもベスト状態でリングに立ててきました。今回もキャリア最高のコンディションが作れるはずです。

――井上に勝つために、これから自分の戦力のどこを高めていかなければいけないと考えていますか?

マロニー 自分がベストの状態であればバンタム級の誰にでも勝てると信じています。もちろんこの試合が究極のチャレンジであることは理解しています。勝つためには、これまでで最高のパフォーマンスが必要。ミスは最小限にし、試合をコントロールしていく必要があります。だから、どこを鍛えるというより、とにかく最高の自分を作っていくこと。それができれば勝てるという自信はあります。

今年6月のラスベガス初登場ではレオナルド・バエズにTKO勝ちを収めた

多才であることが僕の重大な長所

――2018年10月、当時IBF王者だったエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に挑戦し、敗れたもののその経験から多くを学んだという話をしてくれました。具体的に何を学び、以降、どこを強化してきたのでしょう?

マロニー あの試合に敗れ、世界王者になれなかったことで大きなショックを受けましたが、一方で自信をつけたのも事実です。ロドリゲス戦での自分のパフォーマンスはベストとは思っていませんが、それでも評価の高い王者を追い詰めることができました。あれから僕はボクサーとして10倍は強くなっています。ロドリゲス戦で貴重な経験を積んだことで、より賢明に戦えるようになったと思いますし、スピード、パワー、フィジカルといった面も向上しています。敗北はつらかったですが、おかげで自身の戦力を見つめ直すことができました。自分がどれだけ世界王者になりたいかをあらためめて痛感し、以降はこのスポーツに臨む姿勢も変わったと思っています。それまで以上に、“もっと強くなりたい”と感じるようになったのです。

――井上はロドリゲスをあっさりとKOしていますが、それについて思うことは?

マロニー 井上はロドリゲスを2回で片づけたのだから、マロニーも同じように倒してしまうだろうと考えている人は多いのでしょう。ただ、ボクシングはそういうふうには運びません。あの試合後、私はこれまでと比べ物にならないくらい向上しています。それを試合で示せるのを楽しみにしていますよ。

――あなたはリング上でさまざまなことができるのをこれまで示してきましたが、その中でも井上まで含めてこれだけは誰にも負けないと思う自身の長所は?

マロニー 多才であることは私の重要な長所だと考えています。相手のスタイルによって、アウトボクシングができますし、一方でバンタム級としてはフィジカルに秀でているので、接近して胸をつけての打ち合いも望むところです。その適応能力がゆえに、対戦相手は私がどう挑んでくるのかわからないでしょう。また、勝利への強烈な意志を持っていることも私の武器だと考えます。私は精神的な意味でハングリーだし、決意を胸に秘めています。

――最も得意なパンチは?

マロニー 顔面とボディへの左フックですね。それが好きなパンチ。ボディ打ちが大好きなので、ひとつ挙げるとすれば左フックのボディ打ちです。

宿舎のプールの前で。マロニーは笑顔を絶やさない好青年だ


井上がナンバー・ワンだからこそ、戦わなければいけない

――対戦が決まって以降、井上の試合はたくさん見ていると思いますが、そのボクシングをどう分析していますか?

マロニー
 言うまでもなく、偉大な選手です。とてつもないパワーを秘めた爆発的な選手。スピードもあるし、クイックネスも備えています。同じボクサーとして井上のことを尊敬していますし、簡単に勝てると思って今回の試合に同意したわけではありません。2つのベルトを持っている彼こそがバンタム級のナンバーワン・ ボクサー。自分がたどり着きたいと思っている場所にいるからこそ、私は彼と戦いたいと思ったんです。ベストになりたければ、ベストの選手に勝たなければいけません。だから私は井上と戦い、倒さなければいけないんです。

――明かせる範囲でいいので、あなたが考える井上の長所と短所を教えてもらえますか?

マロニー 最大の長所はどんな相手でもKOできるパワー、爆発力でしょう。 短所として挙げられるのは、あれほどのパワーがあり、アグレッシブでもある選手がゆえに、ときに無鉄砲に打ち合い、ガードが開くこと。パワーに自信があり、攻めの気持ちを持っているからこそ起こることです。私としては、井上のガードが開いたところにつけ込めるようにしておかなければいけません。

――トニー・トルジ・マネージャーに聞いたのですが、あなたは井上が2017年9月にアントニオ・ニエベス(アメリカ)を相手に行ったアメリカ・デビュー戦(井上の棄権TKO勝ち)を会場で見ていたそうですね。

マロニー 私は大のボクシングファンでもあり、井上の試合もライトフライ、スーパーフライ級で戦っていたころからよく見ていました。仰る通り、ニエベス戦もスタブハブセンターで生観戦しました。印象的な戦いぶりでした。パワーとスピードを持ち、アグレッシブに攻めるので、見ていても本当に面白い選手です。その一方で、あの夜、井上の試合を見ながら、「いつか彼と戦いたい」と心底から思いました。会場を訪れた多くのファンは井上が目当てで、エキサイトしながら彼を見ていました。そんな選手と戦い、自分を試し、自身がどの程度のものかを知りたいと感じたんです。時は流れ、その時に思い描いたチャンスがここで訪れたというわけです。

――先ほど左ボディが得意なパンチという話がありましたが、井上の方もボディ打ちには定評があります。やはり警戒すべきパンチと言えますか?

マロニー 井上のパンチはどれでも強いので、まともに受けてもよいものなどありませんが、なかでもボディブローは強いですね。ただ、ボクシングは戦いなので、どこかでパンチを浴びなければならないことをもわかっています。私は打たれ強さには自信がありますし、私のほうにもパワーはあります。彼のパンチ力を恐れすぎてはならないし、自分の戦力を信じなければなりません。

私はアンダードッグの立場が好きなんです。みんなが間違っていたと証明したい

――あなたは実際にかなりタフですが、これまでにダウン経験は?

マロニー キャリア4戦目で1度だけダウンしたことがあります。ただ、フラッシュノックダウンであり、ダメージを受けたわけではありません。すぐに立ち上がり、次のラウンドで倒し返しました。私はタフですよ。試合でも、スパーリングでも、これまで深刻なダメージを受けたことは一度もありません。

――今戦では圧倒的不利との下馬評でリングに立つことになりますが、その評価をどう感じていますか?

マロニー そんな立ち位置を気に入っていますし、エキサイトしています。みんなが井上は無敵だと思っていて、私が勝つと思っている人など存在しません。ただ、私はアンダードッグの立場が好きなんです。みんなが間違っていたと証明したい。試合後、「マロニーがこんなに強いとは思わなかった」と言わせたい。そのために私はハードワークを続け、このスポーツに身を捧げてきました。これまで長い間、多くの時間を犠牲にしてきたのは、こんな時のためだったんです。

――オーストラリアでも絶対不利の予想は同じですか?

マロニー あんな強い選手に挑むなんて、オーストラリアの人々も私がクレイジーだと思っています。実際に私はクレイジーなのでしょう(笑)。ただ、私は平均的な人間で終わりたくはありません。ナンバーワンになるために、普通の人はやらないことをやらねばならないのです。私は誰も恐れないし、みんなが間違っていたと証明したいと思っています。

――この試合に勝ったら、世界は大きく開けます。その後にやり遂げたいことは?

マロニー 勝ったら私の人生は変わります。今の目標は井上に勝つことだけ。ただ、なぜ井上に勝ちたいかといえば、世界最高のバンタム級ボクサーになりたいからです。井上に勝つことができたら、向こう6、8、10年くらい、現役でいられる限りバンタム級最高の選手であり続けたいと思い描いています。引退するまでキング・オブ・バンタムでいたいですね。

――今後、バンタム級で戦い続けるのであれば、WBO王者ジョンリール・カシメロ (フィリピン)もライバルのひとりになるのかと思います。9月26日に行われたカシメロ対デューク・ミカー(ガーナ)戦をどう見ましたか?

マロニー フルファイトを見たわけではなく、KOシーンだけです。カシメロもすごいパワーを備えていますね。ただ、今回の彼の対戦相手は戦績こそ良かったですが、ハイレベルな選手と戦った経験はなかったんじゃないかとは思いました。おかげでカシメロは快適に戦い、決着は早かったんじゃないかと。バンタム級の頂点にいる選手と戦わない限り、カシメロの真価もわからないでしょう。

――井上対カシメロ戦がキャンセルとなり、カシメロが別の相手と戦ったことには驚かされましたか?

マロニー 何があったのかは私にもわかりませんが、驚かされたのは確かです。無観客試合になるため、カシメロは割安の報酬を提示されたという話も出ていましたね。それが原因で彼の方がキャンセルしたのであれば、私には驚きです。一方、そのおかげで私にチャンスが来たのだから、幸運だったと感じています。ハッピーだし、カシメロには「サンキュー」と言いたいです(笑)。すべてのことは理由があって起こる。ふり返って、もしも私が2017年にロドリゲスに勝っていたら、もっと早い段階で井上と対戦することになっていました。しかし、あそこで負けたことで、2年間練習を積んでより向上した状態で井上と戦えることになったんです。2年前の私では準備はできていなかったかもしれません。しかし今、ナンバーワン選手と戦うのにタイミング的にはパーフェクトだと感じています。

双子の弟アンドリュー(右)も前世界王者。兄はイノウエ戦で兄弟世界王者を狙う


アマ時代の目標はロンドン五輪出場だった

――少し昔をふり返って、アマチュア時代の戦績を教えてもらえますか? 

マロニー 80試合し、60勝20敗くらいだったと思います。最初の3戦は敗れ、その後もキャリア開始当初はいくつか負けました。徐々に向上し、複数の国際大会を制することができましたが、五輪には出場していませんし、私のアマチュアキャリアは最高級とはいえないと思います。ただ、多くの経験を積み、海外の強豪と戦えたのは現在に生きていると思っています。

――アマ時代からいずれプロでやりたいという意識はあったんですか?

マロニー
 アマ時代の目標は2012年の五輪に出ることでしたが、果たすことができず、その後はプロでの活躍に目標を変えました。アマで戦っていたころから、「おまえのスタイルはプロ向きだ」とよく言われていたんですよ。プロの試合を見るのも大好きだったので、アマで長く戦い続けることに興味はありませんでした。プロ入りし、世界王者になることが私の新たな目標になったのです。

――弟とともにプロで戦うことに特別な思いはありますか?

マロニー 双子の弟とともにプロで活躍し、どちらもトップレベルのボクサーというのはすごいことですよね。いつも一緒に練習できますし、互いを高めあっていけるのはアドバンテージ。弟と刺激し合っていることで、向上できている部分は確実にあるはずです。スパーリングでも彼の方が上回る日があれば、私が上回る日もあり、毎日そうやって競い合うことで私たちは強くなっているのでしょう。井上の弟も世界レベルのボクサーなので、彼にも私の気持ちがわかるんじゃないでしょうか。私の弟も11月に世界タイトル戦を予定しており、彼がそこで王座を取り戻し、私も勝ち、オーストラリアに3本のベルトを持って帰れたら最高でしょうね。

――プロ入り後、転機というか、自分には世界が目指せると自信が持てた試合はありますか? 

マロニー プロ転向した後、すぐに世界王者を真剣に目指すようになりました。そんななかでもロドリゲス戦は敗れたものの、私にとって重要な試合になりました。先ほども話したとおり、あの日の私はベストではなかったですし、それまで世界トップレベルの相手と戦ったこともなかったですが、それでも自分が勝っていたのではないかと思えるほどの戦いができました。結果として、自分には世界王者になるだけの力があると感じることもできたのです。特にアメリカでの初試合でプレッシャーに負けなかったという意味で、自信がついた試合でもあります。ビッグステージでどんな戦いができるかはやってみないとわからないもの。今の私は舞台が大きい方が力が出せると信じてリングに立つことができています。

――トルジ・マネージャーから、あなたは婚約者との間に一女がいて、「結婚式を挙げるつもりだったが、世界王者になるまで延期した」と聞いています。その他、家族構成について話してもらえますか?

マロニー 双子の弟アンドリュー以外に、1歳半年上の兄ジョシュがいます。ジョシュもボクシングは上手だったんですが、長身だったので、バスケットボールを一生懸命にやっていました。実は私の両親は離婚し、再婚したので、かなり年齢の若い腹違いの弟がひとり、妹がふたりいます。全員合わせるとかなりのビッグファミリーですね。

空手を習って、怖くなって泣いてしまった(笑)

――ボクシングを好きになったきっかけは、10~11歳の頃のクリスマス・プレゼントでボクシンググローブをもらい、兄弟たちと殴り合って遊んでいたことだと以前に話してくれました。それ以前から格闘技には興味があったんですか?

マロニー 格闘技に初めて興味を持ったのは、6、7歳の頃に映画『空手キッド』を見たときでした。その映画を見たあと、兄弟たちと一緒に母親に「空手を習いたい」と頼み込んだんです。そうやって空手道場に連れて行ってもらったのですが、ただ、その道場の先生は大きな声で「ああ!」とか「おお!」とか叫びながら技を繰り出す人で、私たちはすぐに怖くなってしまった。アンドリューはレッスンが始まって10分、私もその5分後には泣き出したんです(笑)。兄のジョシュはもう少し頑張ったのですが、結局泣き出し、誰もレッスンを完遂できませんでした(笑)。

――後にトップレベルのボクサーになる子供とは思えないエピソードですね(笑)

マロニー 思い返すと笑えますが、それが初めての格闘技体験でした。実は最近、その先生に会うことがあって、「覚えているよ。10分で泣き出した子だろ」と言われてしまいました(笑)。そんな子供がこれから世界最高のバンタム級ボクサーに挑もうとしているんですからね。今、思えば、あれがすべての始まりでした(笑)。

――子供のころはオーストラリアン・フットボールもやっていて、ボクシングを選んだということですが、フットボールを続けていても成功できたと感じますか?

マロニー うーん、そうは思わないですね。もともと本格的にボクシングのトレーニングをスタートさせた理由は、当時プレーしていたオーストラリアン・フットボール用に体を作るためでした。私と弟はオーストラリアン・フットボールのプロなるつもりでしたが、それを成し遂げるためには少なくとも6フィートの身長がないと厳しいというのが現実です。これまでどんなスポーツもこなせたんですが、サイズ的に私がプロフットボール選手になるのは難しかったでしょう。ボクサーになるというのは適切な選択だったと思っています。

――同じオーストラリアの元世界王者アンソニー・ムンディンも フットボールの下地がありますよね。

マロニー ムンディンは元ラグビー選手ですね。彼は身長もありました。フットボールとラグビーはオーストラリアでは大人気のスポーツで、多くの少年たちがそのどちらかをプレーします。残念ながらボクシングは人気スポーツとはいえず、今後にそれが変わっていけば良いと願っています。誰かが世界王者になり、オーストラリアでビッグファイトを行えば、ボクシング界も盛り上がるでしょう。そうなればフットボールだけでなく、ボクシングをやりたいと思う子供も増えるはずです。

――ティム・ジュー、ジェフ・ホーン、そしてあなたたち
マロニー兄弟といった選手たちが台頭し、オーストラリアのボクシングは盛り上がってきているという印象だったのですが、そうとも言い切れないんですね。

マロニー 若い選手たちの活躍で、少しずつ大きくなっているのは事実です。ただ、まだ人気スポーツとはいえず、テレビは試合はあまり放送されないですし、新聞でボクサーの記事を見かけることも少ないのが現状です。私たちがそれを変えていきたい。そのために必要なのは、オーストラリアの人々がサポートしたいと感じるような強い選手になることです。母国の子供たちに、オーストラリア人でも世界的に有名なボクサーになれるんだと示していきたいですね。
――ジューやホーンといった同世代の選手たちにライバル意識はありますか? 

マロニー いえ、階級が違い、対戦の可能性もないので、ライバルという意識はないです。ジューも上昇中のボクサーで、彼にも良いキャリアを築いてほしいと願っています。さっきも話したとおり、オーストラリアのボクシング界を盛り上げるためには、世界の舞台での活躍が必要です。僕とアンドリューが先陣を切り、他の選手たちもアメリカで戦い、世界王者になれば、いろんなことが変わっていくと思います。

スタッフとともに車でドライブ。気分転換も必要だ

プライベートジムで練習を重ねたから、パンデミックの影響はない

――新型コロナウイルスによるパンデミック下では世界中の多くのボクサーが苦労してきましたが、オーストラリアの状況はどうでしたか? 

マロニー 個人的にはそれほど大きな影響を受けずに済みました。プライベートジムを所有しているので、一般のジムが閉まっている間も私とアンドリューは練習できたんです。世界中のボクサーたちと同様、オーストラリアでも多くのボクサーが影響を受け、2020年はリングに立てない選手がたくさんいますが、私たちは幸いにもトップランクと契約していたため、重要な試合をこなすこともできています。タイトル戦かそれに準ずる試合が組めていなかったら、オーストラリアからの出国も叶わなかったでしょう。年齢的にも全盛期にいる今、1年間を無駄にせずに済んだことは幸運でした。

――前回、話した時に、井上対マロニー戦を1960年代に行われたファイティング原田対ライオネル・ローズ戦と比較する記事がオーストラリアでは出ているという話がありました。ローズはランキング1位のヘスス・ピメンテル(メキシコ)が試合をキャンセルしたため、チャンスが回ってきた代役挑戦者だったことはご存知ですか?

マロニー そうなんですか? それは知らなかったです!

――あなたもカシメロのキャンセルによって機会を得たということで、因縁めいたものを感じますか?

マロニー 今回の試合と原田対ローズ戦には本当に多くの共通点がありますね。原田対ローズ戦はオーストラリアのボクシング史上でも特別なファイト。オーストラリアでは誰もがローズのやったことを覚えていますし、母国史上でも最大級の勝利です。私が似たことをやり遂げたとすれば、同じように歴史的な勝利となり、永遠に語り継がれるはずです。ここでぜひとも自身の力で新たな1ページを開きたいと願っています。(取材/10月3日)

文◎杉浦大介 写真◎杉浦大介、ゲッティ イメージズ

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