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2018-07-19

安全にプレーするために もう一度確認したい 熱中症の症状と予防策

 岐阜県多治見市では5年ぶりに40度の気温が計測されたが、今年の夏は全国的に猛暑が続いている。現在、高校野球地方大会が行われているが、選手らの健康状態を配慮して大会の運営方法を見直すべきときが来ているのだろう。

 もちろん、大会だけではなく普段の練習から安全への配慮が必要だ。先日、滋賀県の中学校でソフトテニス部の生徒が顧問の教員から罰走を命じられ、熱中症で救急搬送される事故が起きた。幸い命に別状はなかったが、熱中症は病院に運ばれ処置を受けたとしても、症状が進んだ場合には死亡する恐れがある。

 近年はその危険性への認識が進んでいるが、あらためて熱中症の症状と指導現場における対策を確認しておきたい。

※夏季の練習は特に熱中症への注意が必要(写真はイメージ)
写真:ベースボール・クリニック

熱中症とは…

 暑熱環境下における身体適応の障害により起こる状態の総称を熱中症と言う。体内の水分が足りなくなると同時に塩分のバランスも崩れることで、人間が本来持っている体温の調節機能が効かなくなる。その結果、体内に熱が溜まり、体温がどんどん上昇していく。

 熱中症は重症度分類がされており、めまいや立ちくらみといった熱失神や、こむらがえりなどの熱痙攣などの症状が軽いものがⅠ度、頭痛や吐き気、倦怠感などがⅡ度、意識障害や全身の痙攣、高体温などの重い症状がⅢ度とされている。

参考:厚生労働省「熱中症を防ごう」(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/dl/h0616-1b.pdf)

 上記のとおり、重い症状になると病院で処置を受けても命を落とす危険性がある。そのため、早い段階での処置が大切だ。
 症状が進むと、水分を取りたいと思ってもうまく飲めなくなってしまう場合がある。また、倦怠感や脱力感で動けなくなっている選手に対し、「休んでいるだけか」と見逃してしまうケースもある。指導者、保護者は「水分を取れ」「休憩しろ」と声を掛けるだけでなく、熱中症の症状が出ていないかしっかりと見定めるように注意したい。

 意識がないといった重症の場合だけではなく、怪しいと思う段階で救急車を呼び、対応することも必要となる。

熱中症の予防策

 独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が1975年~2012年に行った学校管理下における熱中症死亡事例の発生傾向の調査によると、野球部活動中の死亡事例が最も多かったという。

 熱中症研究の第一人者として知られる川原貴氏はその要因の一つとして、高温多湿の環境でユニフォームなどの熱のこもりやすい服装でプレーすることを挙げている。発汗効果の高い素材であっても、汗で濡れた状態では効果は不十分になる。特に夏季の練習はTシャツなどの涼しい服装で行い、頻繁に着替えることが熱中症の対策となる。
 
 そのほかの予防策としては、スポーツドリンクや経口補水液などで水分と塩分をこまめに補給すること、日陰を利用することが挙げられる。また、暑さ指数(WBGT)を指標に、練習内容や時間を変更したり、休息、水分摂取のタイミングを取り決めることも予防につながる。
 
 WBGTとは熱中症予防を目的に1954年にアメリカで提案されたもので、人体の熱収支への影響が大きい①湿度、②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、③気温を取り入れた指標のこと。近年はWBGTを測定できる温度計などが販売されているので、チームに一つ持っておきたい。

参考:(公財)日本体育協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2013)

 熱中症に対する知識があっても、実際に症状が見られたとき、とっさに正しい判断を下すのは難しい。そういったときにはJSCのホームページ(https://www.jpnsport.go.jp/anzen/default.aspx?tabid=114)や、環境省の熱中症予防情報サイト(http://www.wbgt.env.go.jp/)の熱中症対応のフローチャートを参考にできる。このフローチャートを印刷し、指導時に手元に置いておくことで迅速な対応ができるだろう。

 スポーツを行うときには、安全な環境が整えられていることが大原則。指導者も含め、野球にかかわるすべての人の健康を守る意識が大切である。

※本文はベースボール・クリニック2018年3月号掲載の記事を抜粋・再編集したものです。

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