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2018-03-08

[高校野球] タイブレーク制度 無死一、二塁の戦術④

番外編
タイブレーク新制度
採用の意義を考える

 3月23日に開幕する選抜高校野球大会ではタイブレーク制度が採用される。同点のまま延長13回を迎えた場合、その後は無死一、二塁からイニングを始めることになる(決勝を除く)。そこで、無死一、二塁の攻防について、同制度を採用する国際大会で日本代表チームを率いた小枝守氏(日本高等学校野球連盟技術・振興委員会副委員長)とともに考えていく。

 タイブレーク制度の採用により、延長15回を終えて決着がつかない場合も試合を続行することになった一方で、一人の投手が登板できるイニング数は15回が限度とされた。これまでの延長15回引き分け再試合からの変更点の意義を探っていく。

「高校野球に導入されることが決まったタイブレークですが、運用方式を含めてすべての人が100㌫納得いくものでないことは当然です。しかし、私としては高校野球にとって必要な流れだと思っていますし、国際的な目からは導入するのが遅かったと見られるものでもあります。高校野球をより良い形で次世代につないでいく観点から、今後も検証を積み重ねながら変化させていくべき制度だとも思います。

 その理由の第一は選手の健康管理です。夏の選手権ではグラウンドレベルで40度を超える中でプレーを行うことで、熱痙攣など熱中症の症状を訴える選手が後を絶ちません。「投手の肩・ヒジの障害予防」の以前に、その過酷な環境でプレーする選手の負担を軽減することが大切です。心情ではこれまでの方式で戦い抜きたいと思う選手もいるでしょうが、一方で心身へのダメージが大きいのも選手です。

 指導者の方々はもちろん、栄養面やコンディショニングについて学び、実践して試合に臨んでいるのでしょうが、それに任せているだけでは限界があります。まだ、大会中に大事に至るようなことは起こっていないものの、そこに留意した試合方式を主催側が提供していくのは当然のことです。年を追って気温が上がる傾向が今後も続けば、さらに制度を改善する必要も出てきます。

 今回の改定では、タイブレーク方式は12回終了までに決着がつかなかった場合、13回から運用されます。延長が最長で15回までとなった2000年以降の甲子園の試合結果のデータを見ても、延長に入った試合のうち12回までに決着がつかないケースは2割にも満たないことが「13回から」とする判断基準となったようです。選手の健康に留意しながら、できるだけこれまでどおりの方式で決着をつけてもらいたいとの思いの折衷案と言えるでしょう。私見ですがもう一つ、延長10~12回までの3イニングで、必ず打順がひと回りします。9回で決着がつかなくても、「もう一回り勝負ができる」と前向きにとらえることができると思います。

 また、2000年の春のセンバツ大会からは「投手の肩ヒジの障害予防」を目的に、それまでの延長18回打ち切りが15回に短縮され、これまで運用されてきました。タイブレーク制度では延長15回という制限がなくなり、降雨などで試合が続行できない状態にならない限りは16回以降も試合が続いていくことになります。そこに「一人の投手が登板できるイニング数については15イニング以内を限度とする」との規定が加えられました。これは、投手の障害予防の観点から最長イニングの短縮に至った前進を、タイブレーク制度の導入によって後退させるような矛盾のない、必要不可欠な規定だと思います」


 2017年に春季地区大会で採用されたタイブレーク制度は「チームは、タイブレーク初回の攻撃を開始するにあたり打順を選択することができるものとする(次回以降は前イニング終了後からの継続打順)」との“選択打順”の規則の下、行われた。今年の運用では、それが“継続打順”となったことが大きな変更点となっている。

「〝選択打順〟の下では、タイブレークが始まる際に〝選択打順申告用紙〟に先頭打者、一塁走者、二塁走者の氏名を記入し、両チーム主将が本塁上でその用紙を球審に提出、審判委員と両主将が確認する手順を踏む必要がありました。今後、延長12回を終えて同点だった場合、13回からタイブレークに入りますが、選択打順であれば延長戦に入って試合を左右する大事な局面の指揮を執りながら、13回以降のタイブレークを想定した戦略を練っておく必要がありました。昨年、春季地区大会などでそのような状況を経験した指導者からは、目の前の勝負に集中し切れないことの弊害があるとの声を聞くことがありました。

 私としては2017年のU-18ワールドカップのオーストラリア戦で延長10回無死一、二塁から〝継続打順〟で始まるタイブレーク制度を経験しています。そのとき、余計なストレスなく采配に集中できたこともあり、今回の制度の運用にあたって〝継続〟となったことは、好意的に受け止められることです。メンバー表交換などの手続きにかかっていた時間もなくなり、円滑な試合運営も可能になります。

 タイブレーク制度は選手の健康管理のために不可欠な制度であるとともに、単に「投げて、打って、守る」だけではない、野球の面白さの一つである駆け引きを浮かび上がらせてくれそうです。相手が打つ手を読み、それに対処する攻防で上回れば、身体能力でかなわない相手にも勝てることがあります。それこそ、日本の持ち味で世界にも通じるシンキングベースボールだと考えています」

こえだ・まもる/1951年7月29日生まれ。東京都出身。日大三高、日大を経て、76年から日大三高監督を務める。79年夏の甲子園に出場。81年に拓大紅陵高(千葉)の監督に就任し、春夏通じて9度、チームを甲子園に導いた。92年夏に全国準優勝など、甲子園通算10勝。2014年限りで勇退し、15年からは日本高等学校野球連盟技術・振興委員会副会長。侍ジャパンU-18代表監督として16年アジア選手権(台湾)優勝、17年U-18ワールドカップ(カナダ)3位の成績を収めた。

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