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2017-12-27

[日本野球科学研究会REPORT] 投手のコンディショニングと投球数制限 [後編]

投球障害予防の明確なガイドラインが
存在しない今だからこそ問われる指導者の姿勢と見識

12月16、17日に神戸大学にて「日本野球科学研究会第5回大会」が開催された。同研究会は野球競技の普及・発展に寄与するため「野球競技に関する科学的研究を促進すること」「会員相互および内外の関連機関との交流を図り親睦を深めること」「指導現場と研究者間での情報の流動性を高めること」を目的に設立されたもの。今回のテーマは「人生100年時代の野球文化を考える」。選手の健康管理の観点から高校野球でも2018年のセンバツ大会からタイブレーク制が導入されることが決まっているが、アマチュア投手を守り育てるのに必要な最新の研究知見が発表された。

小中学生時代に抱えた故障が
高校、大学で露見する

 高校野球で新たに導入されるタイブレーク制が投手の故障を防ぐ万能薬であるはずがない。17年の春夏の甲子園に当てはめても、センバツ2回戦の2試合、4チームが対象になるのみ。当日のうちに決着をつけられるため、日を改めて登板するよりは負担が軽減すると考えられる程度だ。高野連の竹中雅彦事務局長も「医師の意見も参考にすると、故障予防の理想は投球数制限」とコメントしている。しかし、その投球数制限が投手の故障予防につながることに明確なエビデンスはこれまでに示されていない。

 そもそも、どのようなデータを示せば高校生、大学生投手の障害を予防する方策が明確になるのかも明らかになっていない。その点では指導者と研究者が集う情報交換の場であるこの日本野球科学研究会の場で、こうしたテーマで議論されることに意味があるとも言える。「この会の英知を集めて、そのようなデータ蓄積の流れをつくりたい」と高田義弘神戸大学大学院准教授。野球生命を奪うことにもなりかねない起用を指導者がしない、指導者にさせないガイドラインづくりが野球界の課題に挙げられる。

 一つのヒントになるのが阪神タイガースのチームドクターを務める正富隆行岡病院副院長の中学生選手の実態調査結果だ。「肩ヒジの障害で起こりやすいのはヒジを痛めた後遺症が肩にも出ること。ヒジの骨形成は高校生になるころにはほぼ終了しており、多くは中学生までに痛めたものの影響を受けます。中には痛みを感じることがなく投げることに影響はないものの、骨が傷んでいる障害もあるので注意が必要です」。小中学生時代からの予防も非常に重要なテーマだ。

 解決策にはやはり、この時期からの投球数制限が挙げられるが、パフォーマンスレベルや運動持久力に差もあり、一概に言えるものではない。それでも「パフォーマンスを上げることも必要な要素の一つではあるが、成長期であるからには登板過多は絶対に避けるべき」と正富医師。「投手と捕手を兼任している中学生選手は故障を抱えている可能性が高い」とのデータもあるという。

 臨床スポーツ医学会が1995年に出した「青少年の野球障害に対する提言」では各年代の全力投球数(日/週)は以下を超えないこととされた。

小学生 50/200
中学生 70/350
高校生 100/500

 パフォーマンスアップを目指す日々の練習、大会を中心とした試合日程を考慮すれば、特に複数の投手が存在しないチームには実態に合ったものではないかもしれない。しかし、投手を守るガイドラインが存在しない今だからこそ、各年代を教える指導者の姿勢と見識が問われている。

1988年夏(第80回大会)準々決勝の横浜対PL学園は延長17回に決着。この試合で横浜・松坂大輔が250球を投げるなどしたことが延長15回制に移行するきっかけとなった

日本野球科学研究会HP
https://www.baseballscience.net/

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