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2017-12-27

[日本野球科学研究会REPORT] 投手のコンディショニングと投球数制限 [前編]

投球障害予防の明確なガイドラインが
存在しない今だからこそ問われる指導者の姿勢と見識

12月16、17日に神戸大学にて「日本野球科学研究会第5回大会」が開催された。同研究会は野球競技の普及・発展に寄与するため「野球競技に関する科学的研究を促進すること」「会員相互および内外の関連機関との交流を図り親睦を深めること」「指導現場と研究者間での情報の流動性を高めること」を目的に設立されたもの。今回のテーマは「人生100年時代の野球文化を考える」。選手の健康管理の観点から高校野球でも2018年のセンバツ大会からタイブレーク制が導入されることが決まっているが、アマチュア投手を守り育てるのに必要な最新の研究知見が発表された。

高校球界、大学スポーツ
変革の2018年

 2018年、高校野球、また大学スポーツが大きな変革を迎える。まず高校野球では17年9月、日本高校野球連盟の理事会において、14年から議論を重ねてきたタイブレーク制を阪神甲子園球場で行われる選抜大会と全国選手権大会でも採用できるようにルール変更。3月に行われる第90回記念選抜大会から運用することが決まった。夏の第100回全国選手権記念大会でも導入される見通しとなっている。

18年春のセンバツからは延長13回以降、タイブレーク制が導入されることが決まっている

 タイブレーク制は高校生選手の健康管理、故障予防の観点から避けて通れない議論になっていた。大会史上最長の1933年夏(第19回大会)の中京商対明石中の延長25回の熱闘を契機に、再試合が設定されるようになり、延長イニングも18回から15回に減った。当初は14人だったベンチ入り選手枠も15、16、18人と増えていき、連戦を避けるための日程調整も行われている。93年(第75回大会)からは出場校の地方大会で登板した投手に大会前投手検診が実施され、肩肘関節機能検査と関節可動域測定で重度の障害が認められた投手は投球が禁じられている。そのほかにも、甲子園大会では試合後のクーリングダウンとアイシング処置など、特に投手の健康管理のためにさまざまな方策が取られてきた。

 また、大学スポーツに目を向けると、スポーツ庁は18年度中の「日本版NCAA」設立を目指している。現状、学生スポーツは大学が管理するものではなく、学生の自主的な活動として存在している。運営は学生やOBに任されており、その状態ではガバナンス(組織統治)やリスク管理(事件、事故、ケガなどへの対応)に問題がつきまとうのは当然のこと。そこで大学や学生競技連盟と連携・協力して大学スポーツの安全性の向上を目指して立ち上げを目指しているのが日本版NCAAだ。具体的には選手の健康管理、安全基準の設定や練習時間のルール設定を義務付ける案がある。

 この日本版NCAA創設に向けた関西地区大学スポーツ振興検討会幹事を務める高田義弘神戸大学大学院准教授は学生アスリートを守り育てる意義を語る。「学生の健康管理に留意することは当然として、学習支援やキャリア形成に配慮した大学スポーツのプログラムであることが重要。学業とスポーツを両立させることが選手の価値を高めることになります」。選手を不慮の事故から守る安全管理の徹底、学業成績の基準を設定することは両側面から学生の将来を考えれば必要なことだろう。

 大学スポーツの健全化が進んだ先には「高校生の意識の変化も表れるはず」と高田准教授。「大学でスポーツをするために学力が必要だとルール化されれば、スポーツ成績だけを評価した入試システムが機能しなくなります。甲子園に行ったチームの選手だから大学に入学できるということではなくて、高校時代から学業もスポーツも両立できている学生のあり方自体に着目すべきです。そうなれば高校の生徒を育てる姿勢にも変化が表れるのではないでしょうか」

 大学進学に際し、スポーツの結果による評価の度合いが小さくなるほどに、少なくともスポーツ成績によるキャリア形成の考え方が通用しなくなる。それにより勝利至上主義に走る必要がなくなれば、甲子園のタイブレーク導入の契機になったような投手の連投や投げ過ぎの風潮に歯止めがかかる流れが加速しそうだ。

日本野球科学研究会HP
https://www.baseballscience.net/

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