「絶対不屈彼女」の愛称で人気を博す女子プロレスラー、安納サオリ。昨年12月に所属団体を退団し、フリーランスとして活動を始めた安納だったが、コロナ禍を受け、思い描いていた闘いはまるで実現できなかった。
それでも「コロナを理由にしたくない」と自分を奮い立たせた安納は、WWE入団が決まっているトップレスラー、Sareee戦(OZアカデミー12・30後楽園)、18歳の若さで団体のトップに立った鈴季すずの持つICE×∞戦(アイスリボン12・31後楽園)と2日連続の大一番を自らの意思で実現させた。「悔しかった」2020年を糧にし、2021年を最高の1年にするために――絶対不屈彼女、安納サオリに話しを聞いた。
「大嫌い」から「大好き」な自分に

――昨年12月でアクトレスガールズを退団。心機一転、フリーとして動き出した年でしたが?
安納 そうですねぇ…今日、話そうか悩んでいて。
――どういうことですか?
安納 暗くなっちゃうかなと思って。でも、お世話になってる週刊プロレスさんなので包み隠さず、いまの気持ちを言うと、2020年は…悔しかったです。
――悔しかった。
安納 はい。悔しいなって思う1年だった。チャンスがきてもうまくつかめなかったり、何もできない自分がいた。安納サオリを創り上げる作業が止まってしまったなって。すごく悔しい1年だった。
――フリー転向にあたって、いろいろなプランを考えていたと思います。
安納 すごく、すごく考えてて、ワクワクとか楽しみっていう気持ちしかなかったんです、それなのに…。応援してくださってる方たちのうれしい言葉や週プロさんの記事とか、すごくうれしいのに素直に受け止められなくなってた自分がいて。それはホント自分自身の問題。でも、今年の最後にそれに気づけて良かったっていう気持ちもあって。
――気づくことができた?
安納 この取材のお話をもらって自分自身、なんでだったんだろう…って考えたんです。その答えはまだ出てないけど、受け止められなかった自分、悔しい自分がいたんだなっていうことには気づけた。だからこそ、踏み出さなきゃなって。
――もう止まってられないと?
安納 止まるの、飽きた(笑)。いっぱい休んだだろって、休もうと思って休んだわけじゃないけど。
――やはりコロナの影響がは大きかったですか?
安納 コロナを理由にしたくないので。ホントに自分自身の問題。だってコロナなんてみんな同じ状況だったわけで。動いてらっしゃる方は動いていたし、チャンスをものにしてる人はものにしてる。そこで止まってしまった自分が、悔しい。
――変な質問なんですけど、安納さんは自分自身に対して厳しい方なんですか?
安納 …どうだろう、厳しいのかな。とらえ方は人それぞれなんでしょうけど、私は私よりもっと厳しい方たちを見てるので。私なんてまだまだなのに、それでも動けない自分がいま嫌い。大嫌いです。
――大嫌い!
安納 私は自分が大好きじゃなかったら他人に大好きになってもらえないと思うタイプなんです。だから、また自分を大好きになって、大好きになってもらいたい、てか、もらう!(笑)
――では大好きになってもらうためには?
安納 そのための12月30日、31日なので。この1年悔しくて、何もできなかったからこそ最後ぐらい思ったこと、やりたいこと、全部やったろうと思って。
Sareee戦は女子プロ界に響かせる試合

――OZアカデミー12・30後楽園ではWWE入団が決まっているSareee選手と一騎打ちです。
安納 無謀だっていう人、いると思いますよ。タイトルマッチ(12・31、vs鈴季すず)を前に、いまノリにノッてるSareee選手とのシングルなんて。でも、それが私のしたかった試合。だから尾﨑(魔弓)さんに言って、実現した一戦なので。この2連戦で何か残したい。そしたら、何か見えるのかなってちょっと思ってて。あとは自分へのムチかな。
――自分へのムチにしてはだいぶ強烈ですね(笑)
安納 ねぇ(笑)。他人にもムチ振ってるから、自分にも振ろうかなと。
安納 Sareeeさんとは初シングルなんです。タッグで試合したことや組ませていただいたりはありましたけど。私、Sareeeさんのファンなんですよ。
――…ファン?
安納 そうそう。いままで言ったことないですけど(笑)。
――ちなみになぜですか?
安納 まず顔が大好き。
――確かにカワイイですが…。
安納 カワイイとかそういう次元を超えてて、メチャメチャ好きで。目の前にするときゃってなっちゃう(笑)。
――そんなことあります?(笑)
安納 けっこうある(笑)。そんなSareeeさんはいまWWEカウントダウンっていう形で1試合1試合を刻まれてるなかで、そのひとつに安納サオリを刻みたいという思いがあって。
――Sareee選手は1から10まで強烈な選手ですが?
安納 ホントにそう思います。すごいですもんね、ホントにすごい。でも、だからこそ学ばせていただきたいという気持ちがあるし、すごく楽しみ。緊張もあるし、何かここでつかみたいっていう安納サオリの思いもある。
――あの強烈なエルボーを何発も食らうハメになると思いますが?
安納 私、いい顔するんじゃないですか、フフフ。技を食らったら燃えるタイプなんで。絶対不屈彼女なので、私は。名前を出した以上、弱気な発言をするつもりはないんで。やってやりますよ。
――Sareee選手からの金星をつかみとりたいところです。
安納 もちろん。でも、勝ちと同じぐらい何か残したいですね、女子プロレスの試合としても。いまね、メチャメチャ見てるんです、Sareee選手と鈴季すずを。動画でも記事でもコラムでも何でもめっちゃ見てる、フフフ。恋してる時並みに見てますよ。私、けっこうオタク気質なのでトコトン調べるんで、。誕生日から好きな食べ物まで全部調べてますから。
――ちなみに闘ううえで怖さや不安はないですか?
安納 怖さは不思議とないんです。いまの自分の状況で、ノリにノッてるSareeeさんと闘う。怖いのかなと思ったけど、怖さはない。むしろ、楽しみ。たぶん、自分が決めたことだからかなって。
――自分の意思で決めた試合だから。
安納 そうだと思う。だからこそ勝って、自信につなげて、12月31日もやったぞ!と言いたいので。
鈴季すずを知りたい、感じたい、倒してみたい

――Sareee戦の翌日にはアイスリボン12・31後楽園でこちらもいまをときめく18歳のICE×∞王者、鈴季すずと対戦します。
安納 鈴季すずも魅力的ですからね、とっても魅力的。だから挑戦表明したので。18歳にして、あの落ち着き、情熱、背負ってるものの凄さ。私が18歳のときってギャルで「怖いモンなんて何もないぜ~」「楽しけりゃそれでいいじゃん」みたなタイプだったんですよ。私とはまったく違う18歳。だからこそ知りたいし、感じたい。闘いたいし、倒してみたい、すずのベルトが欲しい。好きだから好きみたいな、シンプルな理由なんです。鈴季すずに関しては。
――11・23横浜であの藤本つかさに勝つという実績を携えての挑戦表明でしたが、すず選手への挑戦表明は早い段階から考えていたんですか?
安納 もちろん。ただ(参戦し始めた10月に)いきなり言っても出しゃばりかなと。何かちゃんと結果だったりを残さなきゃ言えないなって。だから、あのタイミングで新技も出したし、藤本つかさ選手から勝てたっていうのも結果的にそうなったし。
2人でグシャグシャになろうぜ

――ちなみに藤本さんを倒した新技の名前は?
安納 …まだ決まってない(苦笑)。候補はあるんだけど、まだ決めきれずにいて。今日質問されたらどうしようとは思ってたら、されちゃった(笑)。でも決めとく。年内には決める。
――言葉にしないと決めないままいきそうですしね。
安納 任せて。大みそかには決めとくから。
――あの技(=写真)はインパクトありますよね。
安納 ありがとうございます、フフフ。お家のベットで抱き枕かかえて、何回練習したか(笑)。(すず戦でも)最後にボン!と決めてやりたいなと思いますね。
――すず選手とはどんな試合になる?
安納 彼女がデビューしたての頃(※デビュー11カ月)、1回シングルをしてるんですよ。その時といまじゃまったく違う。彼女を何が変えたんだろうって。
――昨年、激動に見舞われたアイスリボンで、キャリア1年にも満たない当時のすず選手はトップに立って自分が団体を盛り上げると宣言。それを有言実行した形ですが、ここまでやるとは誰も予想してなかったと思います。
安納 ホント凄いと思う。彼女を変えたものってベルトだけじゃないと思うんです。だけど、ベルトもひとつの材料ではある、そう思った時、それを奪ってやろうかなと。ホント興味が尽きないですね。メチャメチャ興味がある。いまの鈴季すずだからやりたい。
――そんなすず選手は「安納サオリのきれいな顔を過去最高にブサイクにしてやる」と言っていました。
安納 キレイな顔でとかスカしてとかホメ言葉、ありがとうって。彼女はいま試合中の顔がブサイクって言われてるんですよね? じゃあ私がもっとブサイクにさせてあげるし、私も顔がグチャグチャになるぐらい出していきたいですね。
――ブサイクな感じになってもいいと?
安納 私のなかで100%の状態は入場だけ。そこから先は化粧が崩れようが、髪の毛がグチャグチャになろうが、どうぞって。大晦日は2人でグチャグチャになろうぜって感じ。
私、今どきじゃないのかも(笑)
――お互い、ジャーマン・スープレックスを得意技としています。
安納 彼女のジャーマンもすごいのはわかってる。でも、私も投げまくってきたからね。あと週プロさんのツイッターかなんかで、新技を考えてるとか言ってましたよね? おっと思ってニヤリとしてました。
――SNSでのやり取りもちょっとした話題になってます。
安納 普段、私、SNSそんな好きじゃないので。けっこう放置しがちなんだけど、鈴季すずのおかげでいま見てますから。
――今どきの若い人はSNS好きなんだと思ってました。
安納 私、今どきじゃないのかもしれない(苦笑)。あんまわかんなくて。
――そんな安納さんですら、すず選手絡みのSNSをチェックしていると?
安納 フォローはしてないけど、のぞき見はしてます。
――フォローしましょうよ(笑)。
安納 タイミングで、フフ。
――いちいち探すの面倒じゃないですか?
安納 その一連の流れも私のなかで楽しくて。鈴季すずって言葉を一回入れてから探すっていう。フォローしちゃうとタイムラインとかで流れちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、フフフ。
――そんなすず選手からベルトを奪ったあとのイメージは?
安納 したいなって思うことはあります。それ言わなきゃダメ?
――ぜひお願いしたいのですが…?
安納 …それはおいおい喋ります。また取材に来てください、フフフ。
自分に自信を取り戻すために

――フリーとしての参戦。結果が出なかった場合、この先はどうなるんでしょう?
安納 もしベルトを取れなかったら、出させてもらえないのかな?
――フリーランスってある意味シビアな部分がありますから。
安納 ホントにそう思う。でも、フリーで参戦してるのに、いいカードを組んでいただいてるなっていうのはアイスリボンさんには感謝ですね。いつだったか週プロさんでユキさん(雪妃真矢)が「サオリがメインに組まれてることを所属選手は悔しがってほしい」みたいなことをおっしゃっていて、なんかうれしいなって素直に思いました。
――大晦日後楽園はアイスにとって年間の二大イベントのひとつです。そのメインイベントですからね。
安納 そこに出られる感謝はあります。だからこそ、そこに甘んじるんじゃなく、勝って、結果出さなきゃなと思ってますから。
――安納さんがベルトを取ったらほかの選手は黙ってないでしょうし、すず選手なんか「もう一回!」って言いそうです。
安納 めっちゃ言いそう(笑)。でも、そうじゃなくちゃ。よし! 元気出てきたぞ。
――元気が出てきた?
安納 私、あんま弱音を吐きたくないタイプなので。今までも話してはいたけど、強がってきた。でも、今回ちょっとだけ弱音吐いて、それ以上に前向きな話したら元気出てきた。ありがとうございます。
――そう言っていただけると、取材させていただいた側としてもありがたいです。
安納 いつも買ってますから、週プロ。
――買っていただいている…!
安納 マジで買ってますから。探してないときはプレミアムで読んでます(ドヤッ)。
――自分がどう扱われているかとかあまり気にしないタイプなのかと勝手に思ってました。
安納 って思われがちなんですけどね。好きなものは好き、興味ないことに対しては無ですけど(笑)。
――興味ありありのSareee戦、すず戦と駆け抜けてステキな2021年を迎えたいところですね。
安納 自分に自信をまた取り戻したいなって思うから。…あれ、今日の私の話、暗くない?(苦笑)
――いや、そんなことはないと思います(笑)。むしろ前向きかと。
安納 私、スーパーポジティブなんですよ。だけど、今年はちょっとだけ(弱い部分が)あった。だからSareeeさんとのシングル、鈴季すずとのタイトル戦、この2つでまた安納サオリを大好きになって、2021年踏み出していく! 残り数日、しっかり自信を味方につけて、リングに立ちたいと思います。
<プロフィル>安納サオリ

本名非公開。1991年2月1日、滋賀県大津市出身。2015年5月31日、プロレスデビュー。類まれなビジュアルと泥臭いファイトのギャップで人気を博す。2019年12月でアクトレスガールズを退団。2020年からフリーランスとして活動している。絶対不屈彼女。160センチ、55キロ。