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2021-01-03

【ボクシング】貴公子ライアン・ガルシア、逆転KOで暫定世界王者に

ダウンを挽回し、パワフルなパンチで挽回していったガルシア(左)

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 WBC世界ライト級4位のライアン・ガルシア(アメリカ)が1月2日(日本時間3日)、アメリカ・テキサス州ダラスで同3位のルーク・キャンベル(イギリス)を7回1分58秒KOで下し、WBC暫定世界王座を手に入れた。もともと正規チャンピオンのデビン・ヘイニー(アメリカ)が肩の負傷、休養中だった昨夏に設定された暫定王座決定戦で、コロナ禍による延期を経て開催に至ったもの。

2ラウンドに喫した痛烈なダウン

 アイドル的な人気者ライアン・ガルシアが重要なテストマッチで、ロンドン五輪金メダリストのキャンベルを左ボディ一撃でノックアウト。キャリア初のダウンから立ち上がっての骨太の勝利を披露した。

 22歳のガルシアはスピードと当てカンを武器にセンセーショナルなKOを重ね、この2年は世界4階級制覇者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の参謀として知られるエディ・レイノソに師事。自信を深め、自ら“キング”と称してきた。必要だったのは世界レベルの実力の証明。

 キャンベルはそれにふさわしい相手だった。地元ロンドンで開催されたオリンピックでバンタム級金メダルを獲得した英雄で、プロではふたりの世界3階級制覇者、ホルヘ・リナレス(帝拳/ベネズエラ)とワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に挑戦。いずれも敗れたが、長身サウスポーの利を生かし、心身のタフネスもみせてフルラウンドを戦い切っている。

 大きな注目が集まる一戦で、御輿(みこし)に乗りド派手にリングインしたガルシアは立ち上がりから、距離をとりたいキャンベルを左右の速射でロープへ追った。しかし、2回、積極的に仕掛けるガルシアをよく見ていたキャンベルは、左フックでその顔面をとらえて痛烈にノックダウン。自信満々の若者に初めてフロアを這わせてみせる。

 ガルシアは落ち着いていた。「調子づいたところを突かれてしまったけれど、心配しなかった。相手は前に出ることに慣れていないからね。ただ、しっかりガードに気をつけようと思った」

2ラウンド、キャンベルの左を浴びてガルシアはキャリア初のダウンを喫した

計算しつくしたパンチで痛烈に倒す

 ガルシアはキャンベルの右ジャブに対して左フックを狙い、キャンベルはガルシアのコンパクトな強打の前で攻め急がず、緊迫のやりとりが続く。そして5回終了間際に左フックをクリーンヒットしたガルシアが、ここから勝利を引き寄せていった。何度か左フックでキャンベルの顔面を狙い、意識をそこへ集中させたうえで、7回、ガードを上げてがらりと空いたキャンベルの脇腹に、左フックをめり込ませた。完璧な一撃。一瞬おいて苦悶の表情でひざまずいたキャンベルは、立ち上がることができずにテンカウントを聞いた。

「神様が言ってたんだよ、ボディで終わるって。そのとおりになった。神に感謝する」、小顔に大きすぎる冠をかぶってそう喜んだガルシアは、21戦全勝18KO。「彼のパンチは重かった。最後の一打は、過去最高にきいた」と脱帽したキャンベルは24戦20勝(16KO)4敗。プロキャリア初のKO負けだった。

「今のライト級ではボクが一番強い」と勝者

花盛りのライト級でもスター性はピカイチ

 いま世界ライト級シーンは花盛り。無敵を誇ってきたロマチェンコに判定勝ちし、実質4団体統一王者となったテオフィモ・ロペス(アメリカ)、スーパーフェザー級と2階級の王座を保持するWBA王者ジャーボンテ・“タンク”・デービス(アメリカ)、負傷から復帰、防衛中のWBC正規王者ヘイニー。勢いのある若手チャンピオンがずらりと並ぶ。独自に格付けし、

「一番はオレ、次がタンク、テオフィモ、ヘイニー」と試合前から豪語していたガルシアは、華やかさ、スター性では隋一。この勝利で実力もトップサークルに入ることを証明した。自身は「次はタンク!」とデービス戦を望んでいるが、WBC暫定王座として正規王者ヘイニーとの統一戦は義務づけられており、動向が注目される。また、年末のラスベガスでフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)を大逆転KOし、強烈な印象を残した中谷正義(帝拳)がこのトップ戦線にどう斬り込むかも、日本のファンにとっては今年の大きな楽しみのひとつになる。

 アンダーカードでは、ライアン・ガルシアの実弟ショーンもリングに上がり、レネ・マルケス(メキシコ)との4回戦で2-0の判定勝ち。1年5ヵ月ぶりの実戦で、階級は初めてのライト級とあってか体は緩かったが、これで5戦5勝2KOと無敗を守った。

アルバラード兄弟の弟、フェリックス(右)は力強いパンチでTKO防衛

兄のレネはほぼ勝利を掌中にしながら、最終回に不覚のダウンを喫して敗北

アルバラード・ツインは1勝1敗

 またこの日はニカラグア初の双子世界チャンピオン、IBF世界ライトフライ級王者フェリックス・アルバラード、WBA世界スーパーフェザー級王者レネ・アルバラードがそれぞれ防衛戦を行った。

 先陣を切ったのは弟フェリックス。IIBF3位の指名挑戦者ディージェイ・クリエル(南アフリカ)を10回1分39秒TKOに下した。開始から精力的に攻めるアルバラードは、元IBFミニマム級王者の南アフリカ人から2回と4回に左フックでダウンを奪った。下がりながらクリエルが出す細かいパンチを浴びて右目が腫れたものの、終盤に再び南アフリカ人を攻め立てて、レフェリーストップを呼び込んだ。

 弟におくれて2019年11月、アンドリュー・カンシオ(アメリカ)を打破して世界王座に就いた兄レネは、今回が初防衛戦。「兄弟同時防衛戦の夢がかなってうれしい」という弟に続く勝利を目指したが、同級3位の挑戦者、ロジャー・グティエレス(ベネズエラ)に判定で敗れた。3回、大柄な強打者グティエレスに2度のダウンを奪われた後、打ち終わりを狙い打ってポイントを挽回していたが、最終回に左ショートフックでダウンを追加された。このポイントが勝利を決した。採点はジャッジ3者とも113対112だった。

文◎宮田有理子 写真◎Tom Hogan-Hoganphotos/Golden Boy

ボクシング・マガジン 1月号

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