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2021-01-15

【プロレス】内藤哲也が飯伏幸太に語り掛けた言葉

内藤は飯伏の手を上げて称えた

 新日本プロレス1・4&5東京ドーム大会の軸となったのは、IWGPヘビー級&IWGPインターコンチネンタルの“2冠王座”を巡る闘いだった。最終的には飯伏幸太が初日に王者の内藤哲也を下し、2日目はジェイ・ホワイトの挑戦を退けて、見事にドーム2連戦の主役となった。DDTでデビューしてから約17年、紆余曲折を経てついに飯伏がIWGPヘビー級王座に到達したドラマ性の一方、東京ドーム2日間でもっとも印象に残った場面を創出したのは内藤だった。

 1・4ドームのメインで敗れた試合後、内藤はみずから飯伏にベルトを手渡した。自然な形で新王者に寄り添い、さらに手を上げて称えると、歓声が制限された広い会場内から観客の大きな拍手が起こった。普段の人を食ったような内藤の言動とは釣り合わない、潔い行動の裏にはどんな思いがあったのか?

 内藤哲也にとっての1・4、そして1・5東京ドームに迫った。
(以下は週刊プロレス1月27日号に掲載)
                  
「自分がいない東京ドーム大会を見ているのは悔しかったし、あのときああすれば良かった、こうすれば良かったって、次から次に頭に浮かんできましたね」

 1・5東京ドーム。内藤哲也は人目につかないように1塁側ベンチ奥に座り、リング上を見つめていた。

 自分のいないリング上。もし前日に…という仮定は無意味とわかっていながらも、悔しさを噛みしめながらベルトを争う2人の姿を視線の先にとらえていた――。

 1・4東京ドーム。内藤は飯伏幸太に敗れて2冠王座から陥落した。みずから対戦相手に指名してのタイトルマッチで、シングル対決は約1年半ぶり。前哨戦から感じていた飯伏の変化は、1対1で肌を合わせるなかで確信となった。

 飯伏は“引き算”ができるレスラーになっていたという。

「いままでの飯伏はタッグだとケニーであったり、棚橋であったり、割と引っ張ってもらっている印象があったんですよね。でも、今回の前哨戦ではSHOとタッグを組んでいて、うまい、ヘタは別として、飯伏から引っ張ろう、引っ張ろうという姿勢が見えていたんです。いままでの飯伏とちょっと違う雰囲気を感じていて、実際に東京ドームで試合をしてみて、やるプロレスがちょっと大人になったというか。

 以前は飛び技とかも含めて割と派手なプロレスをしていたのが、そういうのを極力、最小限に抑えていて、必要なものしかやらない。ある時期からレスラーって、いままであったものから削いでいくことが多いんですけど、必要なもの以外を削いでいく飯伏を感じたんです。シングルで対戦するのは1年半ぶりで、久々に闘ってみてそのあたりの変化は感じましたね。だからG1も連覇できたのかなって」

 試合後の内藤の行動は意外なものだった。レフェリーからベルトを奪い取るとみずから飯伏に手渡し、勝者の手を上げて称える。ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンの一員としてではなく、いちレスラーとして同世代のライバルを素直に称える潔さは、2人の特別な関係性をあらためて浮き彫りとさせた。

 今年のドーム2連戦のなかでも、もっとも印象に残ったと言ってもいい象徴的なシーン。内藤はなにを思いあのような行動を取り、そして飯伏にどんな言葉を語り掛けたのか?

「オレが逆の立場で、権利証を失ったのに情けみたいな形で指名をされて、タイトルマッチというのはちょっとイヤなシチュエーションですよね。100%、対戦相手だけを見るのは難しい状況だったと思うけど、でも飯伏はあの日、あのリング上ではオレだけを見ていてくれた気がした。その感謝と、あとはオレに勝ったんだから、明日も防衛しろよっていう気持ちを込めてですね。一番にあったのは敬意、感謝です。掛けた言葉? あのときの素直な気持ちを伝えただけです。いま言ったような感謝と、こんな試合をして明日も大変だろうなっていうエールみたいなものですよ」

 ベルトを落としたとはいえ、少なくとも4日の時点では内藤の心はスッキリとしていた。しかし、時間とともに悔しさは込み上げてきて、冒頭で記したように翌5日、試合が組まれていない東京ドームへと足を運んだ。選手、スタッフともほとんど顔を合わせず、全試合を1塁側ベンチから見守った。

 ドーム前のインタビューで内藤は「このままじゃ飯伏は1・5流で終わる」と口にしていた。はたして、2冠王者となったいま、飯伏は一流になったのか? 内藤の答えは「まだ1・5流」というものだった。

「2009年から東京ドーム大会に出ていて、2013年の1・4はヒザのケガで欠場しましたけど、それ以外で出られる状況なのに出られないというのは初めてだったし、自分がいなくても新日本プロレスが進んでいく状況がスゴく悔しくて。でも、その悔しい状況をしっかりと目に焼きつけておかないといけないんじゃないかと。だから足どりは重かったけど、今後の自分のためにも、悔しいけどこれを見ておかなくちゃいけないんじゃないかなと思ったんです。

 これは負け惜しみではないけど、確かに飯伏は結果を残した、じゃあ結果以外の部分でどうか?っていうのは、これからスゴく見られていくと思う。ドームで2連勝して、いまチャンピオンではある。でも、チャンピオンになるこれまでが大事だったように、チャンピオンとしてのこれからもスゴく大事になってくる。それ次第ではオレより前に行く可能性はあるだろうし、コケる可能性もある。これは難しいところだけど、やっぱり結果だけじゃ一流にはなれない。だからオレのなかではまだ、飯伏は1・5流です」

 敬意、感謝のち、悔しさと自負。試合をしたのは1日だけでも、内藤の起伏に富んだ感情は東京ドーム2日間を通して凝縮されていた。
<週刊プロレス編集部・市川 亨>

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