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2021-01-28

【プロレス】寡黙という“こだわり”を持つSANADAへの期待

SANADAはみずからのペースを崩すことなく、飯伏と対峙する

新日本プロレスは現在、シリーズの真っ最中で、1・30名古屋、2・10&11広島でのビッグマッチに向けての前哨戦が連日、展開されている。

 最終戦2・11広島大会ではIWGP2冠王座戦がおこなわれる。昨秋の『G1 CLIMAX』で2連覇を達成し、今年1・4東京ドーム大会でIWGPヘビー級&IWGPインターコンチネンタル王座を奪取した飯伏幸太に、SANADAが挑戦。両者のシングルは昨年のG1優勝決定戦以来で、ベルトを懸けての対戦は今回が初めてとなる(対戦成績は飯伏の2勝1敗)。

 ともに口が達者ではなく、SANADAに関しては試合後にコメントを出すことは稀。ゆえに、いわゆる“舌戦”とはなりづらく、王者の飯伏はなかなか胸の内を見せない挑戦者に対して「もっとしゃべりたい。なにか話してください」と、さらなる対話を求めた。

 SANADAはデビュー当時から口ベタで、全日本プロレス時代に征矢学(現フリー)と“es”というタッグチームを組んでいたときは、ともに控えめな性格ということもあり、インタビューでもかなり苦労した記憶がある。

 ただ、SANADAは口ベタではあるが、決して言葉を持っていないわけではない。あまり物事を軽々しく言わず、ありきたりな表現も避ける傾向にある。どちらかというと“瞬発力”が求められる試合後のコメントには、不向きなタイプと言える。

 SANADAにとって、IWGP王座への挑戦は一昨年10月(対オカダ・カズチカ)以来、1年4カ月ぶり。オカダから“ライバル”認定され、シングルプレーヤーとして大きく躍進。踏まえての2020年は、さらなる飛躍が期待されたものの、コロナ禍で勢い、流れは寸断された。

 SANADAは自身を「マグロみたいなタイプ」と語る。いわば、常に動いていることで“生の実感”を得ていく。身動きが制限されるコロナ禍では生きた心地がしないことも多かったが、一方で不自由さのなかに長く身を置くことで、気づくこともあった。

 SANADAはいま断捨離にハマっているという。生活スタイルが変化したなかで、物質的にも、生きていく上でも「いらないモノ」が多くあることに気づいた。さまざまなものをそぎ落としていくシンプルな思考は、プロレスにおいても同様。クラシカルなファイトスタイルはもちろん、あまり多くを語らずに闘いを構築していくことも――いまどきではないかもしれないが――信念に基づいたものと言える。

 今回の2冠王座戦を控えて、王者・飯伏は2本のベルトの「統一」を口にした。かねてSANADAはIWGPヘビー級王座へのこだわりを説き、かつて2冠王座に関しても「あくまでも形式上のことで、両方を巻いたら一石二鳥という感じがしない」とも語っていた。

 今一戦を前に、あらためてSANADAに「2冠統一」について聞くと、「シンプル・イズ・ザ・ベスト」という言葉でみずからの見解を示した。

「コロナが起きる前までは、なんでも吸収するというか。世の中的にもどんどん広げていくようなところがありましたけど、もうそういう時代ではなくなった。この1年でスゴく時代が変わって、余計なものはいらないなって。これはプロレスに限らず、シンプル・イズ・ザ・ベストが一番残っていくと思うんですよね。(それは自身のファイトスタイル的なものも含めて?)そうですね。それは前からずっと言い続けていることですから。だから、時代がようやくオレに追いついてきた…まあ、図々しいですけど(笑)。オレのなかでは、ベルトは1本でいいと思っているので。1本にしか興味がないです」

 SANADAは以前から「チャンピオンにならないと見られない景色があるはず」と語っている。1・25後楽園大会の試合後の「一番輝ける場所、光を探している」とのコメントも、いわば“頂上”へのあこがれを表現したもの。いまだ手の届いていない場所はそれだけ価値のある場所であってほしい、という願望も込められている。

 その上でSANADAは、いま頂上に立つ飯伏が常々口にしている「もっとプロレスを(世間に)広めたい」という発言に疑問を投げかける。

「チャンピオンとして、もっとプロレスを(広めたい)みたいなことを言ってますよね? ああいうことを言っているうちは、それを達成することはできないと思うんです。じゃあたとえば、サザンオールスターズがそんなこと言うと思います? 言わないですよ。それは当たり前のことであって、訴えるならもっと違うものがいいと思う。自分自身に発信力があれば、そんなことを言う必要はないし、自然とそうなっていくと思いますから。結局、ああいうことを言っていると、プロレスはいま(世間的に)低いんだなっていう認識になる気がするんです。なんかそういうのを聞くと寂しくなっちゃうというか、そんなにプロレスって小さいものなのかなって。飯伏さんのああいう発言はそれを認めているようなものだし、それはちょっとどうなのかなって」

 確かに言葉による発信力という点では、SANADAは乏しいかもしれない。ただ、“軸”となる考えは持っているし、プロレスラーらしい野心も抱いている。饒舌になれとは言わない。むしろ、師匠である武藤敬司のように言葉を的確に操るレスラーを目指す方がいい。いまだ新日本マットでシングルベルトの戴冠はないが、SANADAに対するファン、関係者の期待値は常に高い。これまでの常識が見つめ直されつつある世の中で、これまでにない寡黙という“こだわり”を持つ王者が誕生すれば、新日本マットにおける一つのニューノーマルを形作ることになる。

<週刊プロレス・市川 亨>

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