「攻撃のスイッチを入れる」という表現はよく聞かれるが、高校のサッカー部で「攻撃のスイッチ」をどのように指導しているのか。今年の高校選手権を制した山梨学院高の長谷川大監督に、2019年にサッカークリニック誌で行ったインタビューをお届けする。
PROFILE長谷川大(はせがわ・だい)/ 1973年5月10日生まれ、秋田県出身。現役時代はMFとして秋田商業高校と中央大学でプレー。96年に秋田商業高校に赴任し、監督を務めた。全国高校サッカー選手権大会に6度出場。2014年から神奈川大学で指揮を執り、伊東純也(日本代表)や金子大毅らを指導した。18年は山梨学院大学のヘッドコーチを務め、19年に山梨学院高校の監督に就任。同年にチームをプリンスリーグ関東に昇格させ、20年の第99回全国高校サッカー選手権大会で優勝に導いた――「攻撃のスイッチ」をどのように理解していますか?
長谷川 私は、攻撃においても守備においてもサッカーで大切なのは「鋭さ」だと思っています。「鋭さ=相手への恐怖」という認識です。ですから、攻撃のスイッチで重視すべきなのも相手の「守備のスイッチ」を入れさせないほどの鋭さだと考えています。ボールの近くにいる選手はもちろん、ボールから離れている選手も動けないような鋭さを有した縦パスやドリブル、そしてそれに周囲の選手が連動する、その開始が攻撃のスイッチになります。逆に言えば、相手に誘導されて出すような縦パスは攻撃のスイッチではありません。
――では、攻撃のスイッチを選手に具体的に伝える上で大切にしている点はありますか?
長谷川 とりわけ強い相手に挑み、倒すためには攻撃のスイッチが必須だと考えています。それは高校に限らず、指導する際にはすべてのカテゴリーで必要な考え方だと思っています。この点において重視すべきなのはボールを奪って守備から攻撃に切り替えた際、つまりトランジションのときに攻撃のスイッチを入れられるようにすることです。これは、神奈川大学で指導していたときにJリーグのチームと天皇杯などで対戦するときにも注意を払った点でもあります。そして相手を倒すという目的の実行に向けては、臆おくせずに攻撃のスイッチを入れることも大切な要素になります。現在率いる山梨学院高校で取り組んでいるのもこの点の改善です。
トレーニング1「5対5」+「FW対2CB」
進め方:フィールド内にエリアAを設けて「5対5」。GKが守るゴール前にFWと2人のセンターバックを配置。指導者の配球によって「5対5のポゼッション」を開始し、FWにパスを入れられたら攻守のエリア制限を撤廃してゴールを目指す(図3。「『6対7』+GK」。守備はクリアして終了)。ポイント:A=グリッドの位置を目的に合わせて変更(例:中央やサイド、あるいはゴール付近、ハーフウェーライン付近。図4)。B=指導者の配球も目的に合わせて変更、工夫。選手は配球に合わせてプレーを変更。C=攻撃のスイッチを入れること、入れさせないことを意識。入れられたときには瞬時に対応するオプション:「4対4」+「2FW対2CB」――イメージの共有がポイントになりそうです。
長谷川 私は、『浅いスイッチ』と『深いスイッチ』があると考えています。狙い通りにスイッチを入れたと思っても、相手が想定済みのスイッチであったならば、狙い通りの効果は得られないでしょう。ですから狙い通りの効果を得るには、スイッチを入れるタイミングやスイッチ方向をコントロールしなければならないのです。そして、相手の矢印やベクトルを折ることや、さらに浅いスイッチと深いスイッチを意図的に使い分ける必要があります。その上で相手のウイーク・ポイントを一気に、しかも鋭く攻めたいのです。
守備から攻撃への切り替え時がスイッチの入れどきの一つになりますが、ボールを保持しているときにスイッチを入れられることも大切です。そのためには、相手を意図的に誘導し、自分たちの強みを発揮できる場所に鋭く進入できるように相手をコントロールできることが必要になります。
2020年12月31日に行われた第99回全国高校サッカー選手権大会1回戦の米子北戦でパスコースに顔を出すように味方に求める山口丈善⑱長谷川:強いチームの選手は一人ひとりが優れたサッカー観を持っているものです。それは、先を見通す能力と言っていいでしょう。技術や身体能力だけでなく、そうした能力によってチーム力は格段に向上します。ですから私は、選手たちのサッカー観に磨きをかけることが必要だと考えています。
――イメージを共有するためにはサッカー観をすり合わせることが欠かせないと思います。
長谷川 攻撃のスイッチは相手を攻略するための戦略だと思うのです。ですから、攻撃のスイッチの入れ方は「相手によって違う」とも言えるでしょう。自分たちのスイッチの入れ方と相手のウイーク・ポイントをマッチさせなければいけないと思うのです。そのために、攻撃のスイッチを効果的に入れるには、攻撃の練習だけでなく、ボールを奪うところから練習しないといけないと思うのです。「相手のウイーク・ポイントに合った形でスイッチを入れるために」です。
例えば、キーパーからスタートしてビルドアップし、攻撃のスイッチを入れようとしたとしましょう。当然、相手は攻撃のスイッチを入れさせないようにします。それでも入れられるのが理想だとしても、なかなか入れられないものです。そのトレーニングをするにしても、「それだけ」では不十分でしょう。試合を分析すると、セットプレー後にチャンスが生まれることも少なくありません。となれば、セットプレー後に攻撃のスイッチを入れるトレーニングもしておくべきでしょう。
――いい形でボールを奪うことも攻撃のスイッチを入れる上では大切になりそうです。
長谷川 縦パスやサイドに展開するのが攻撃のスイッチとしましょう。しかし、相手が厳重に警戒してきた場合、なかなかスイッチを入れられなくなります。膠着状態を打破するためにも、得意の形でスイッチを入れられるようにするのと同時に、相手を誘導してスイッチを入れられるようにすべきだと思うのです。サイドに自分たちの攻撃のスイッチがあるなら、相手の攻撃をサイドに誘導してボールを奪えばスイッチを入れやすいと言えます。こうしてひっくり返すのです。これは戦略であり、積極的な戦い方だと思います。
Part2に続く
【サッカークリニック2019年6月号掲載記事を再編成】