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2021-03-01

【第93回センバツ出場校の指導法】仙台育英高 Part1 「走・投・打」の基礎能力を測る年4回の測定会

時代の移り変わりとともに活用できるテクノロジーの進化もあり、現在の高校野球には「根拠に基づく指導」が求められている。何より選手たち自らが、求める情報に容易に触れられる現代社会において、指導者が取り組みの理由を明確にすることは何よりも必要なものだろう。3月19日に開幕するセンバツに出場する仙台育英高では、あらゆる指標を数値化し、選手の能力や成長を可視化している。選手評価に数値を用いる手法とともに、その理由と効果について話を聞いた。



須江 航<仙台育英高監督>
すえ・わたる/1983年4月9日生まれ。埼玉県出身。仙台育英高-八戸大( 現・八戸学院大)。高校時代は2年秋から学生コーチを任され、3年春夏の甲子園に出場。センバツでは準優勝。大学時代も学生コーチを務めた。2006 年に仙台育英学園に赴任し、秀光中等に軟式野球部を創設。14年夏に全国優勝。18年1月に仙台育英高の監督に就任。18年夏、19年夏の甲子園に出場。20年秋は2年連続で東北大会を制し、21年春のセンバツ出場。情報科教諭。

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「日本一からの招待」をチームのモットーに掲げて、その座にふさわしいと認められるだけの取り組みを目指している仙台育英高。その過程では「日本一激しいメンバー争い」と言うとおりの戦力の見極めが行われている。まずは、年4回行う測定会で、「走・投・打」の現状の基礎能力を測る方法を紹介する。

基礎力を客観視するフィジカルとスキルのベースライン

 選手の評価に測定数値や実戦で得られるスタッツを活用するのは、選手それぞれが目指すものを明確にするためです。その土台となるのが、シーズンの節目ごとに年に4回(1年生入部時、新チーム移行時、冬季練習開始時、冬季練習終了時)行う測定会で、走力、投力、スイング力を数値化しています( 図1)。



 主な測定項目には高校野球で勝っていくチームのメンバーになる上で、最低限必要だと考えられる数値を示しています。そのベースラインを超えて初めて、選手選考の土俵に上がることができるわけです。また、ベースラインのレベルをCとすると、チームの上位層に位置付けられるB、大学、社会人、プロと次のカテゴリーで活躍できるだけのレベルをAとして明示し、自分が現時点でどこを目指した取り組みをしなければならないかを分かりやすくしています。


2020年10月20日、東北大会決勝で二塁ベースを回り三塁に向かう八巻真也

 具体的には、走力と走塁スキルは、単純なスピードを測る「一塁駆け抜け」と「二盗」に加えて、実戦で必要となる一塁から三塁、二塁から本塁という塁をまたぐ走塁の技術を測るために「二塁打走」を行います。走タイムはすべて光電管のセンサー測定機を用いて計測します。

 一塁駆け抜けは、本塁から一塁までの27.431メートルの純粋なスピードを知りたいので、打撃動作は行わず、走者時のリード姿勢から自分のタイミングでスタートします。ベースラインは3.8秒で、トップクラスは3.6秒を切ります。

 二盗は決められたリード幅(左足が365センチ)からスライディングして二塁触塁までのタイムです。3.30秒が最低ラインで、トップレベルは3.05秒を切ります。このタイムが分かっていれば、相手バッテリーの投手がモーションを起こしてからキャッチャーの送球が二塁に到達するまでのタイムとの比較で、二盗の成功確率が見えてきます。

 二塁打走は一塁駆け抜けのタイムとの比較で、適切な走路を取れているかどうかを評価するためのものです。日ごろの走塁練習では、このタイムが最も速くなる走路を探求してもいます。


高校1年時からプロのスカウトに高く評価されてきた伊藤樹は140㌔台のストレートを持つ

 投力と投スキルの測定では、投手、野手にかかわらず、全員がマウンドからの投球をスピードガンで計測します。これは純粋な投力を測るもので、ベースラインは130キロ、それ以上投げられれば、どのポジションに入っても「肩が弱い」という評価にはなりません。逆に130キロに満たなければ、守備の評価ができないので、スターティングメンバーに入る可能性は低くなります。上のカテゴリーで活躍するには野手でも140キロ以上が必要になるでしょう。

 そして、実戦的な送球スピードを測定するのが「対角送球」で、本塁でボールをキャッチした時点から、送球が二塁に届くまでのタイムを測ります。これはベースラインが1.7秒で、1.5秒を切るとトッププレーヤーだととらえられます。球速とともに動作の速さが明らかになるので、「内野手向き」などという見方をすることにつながります。


右翼・島貫丞がダイビングキャッチ

 また、投力とは別に守備の特性を見極めるために、前後・左右・斜め前・斜め後ろの8方向へのタイムを測る「マルチラン」という項目もあります。これを測ると、走り出す方向の得意・不得意が見えるので、例えば、右方向への動きが苦手でも、左方向や前方向の動きが得意であればサードには向いているなどと考えることができます。

 そして、スイング力は「打球速」と「飛距離」から評価します。打球速は斜め45度からのトスバッティングで測り、ベースラインは145キロ、トップレベルは160キロが目標になります。この数値が高いほど三塁線、左翼線、左中間、右中間、右翼線、一塁線を抜ける確率が高いと考えられ、長打力が期待できる打者だと評価することができます。

 同様の考えで、飛距離も評価項目とします。これは斜め45度からのトスを打つロングトスを行い、80メートル以上を1点、90メートル以上を3点、100メートル以上を5点として点数化します。900グラムの金属バットとノックバット形状のバットでそれぞれ10球ずつ打ち、100点満点で順位を競います。


東北大会決勝で本塁打を放つなど長打力を見せた吉野連

 この測定会は、選手としての基礎力を客観視するものという位置付けです。フィジカルとスキルのベースラインをクリアできているかどうかを確認します。毎年、同時期に実施することで先輩たちの数値との比較ができ、自分の成長度を測る指標にもできます。

 さらに、この後に説明するスタッツとの比較によって、選手の課題を明確にするという狙いもあります。例えば、二盗タイムが速いのに実戦で盗塁成功率が上がらない場合、スタートの悪さが原因だと考えられます。体力要素としてスピードはクリアしているわけなので、その理由は戦略的なものなのか、精神的なものなのか、技術的なものなのかを明らかにすることで、課題を解決する精度を上げることが可能になります。

Part2はこちらから

【ベースボールクリニック2020年11月号掲載】

写真◎BBM

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