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2021-04-01

「メンバー選びで全員に納得感はないと思う」今年4人のJリーガーを生み出した昌平高校の藤島崇之監督インタビューPart2

ポジション決定とコーチング
成功する選手起用と選手を傷つけないコーチングを考える


Part1に続き、昌平高の藤島崇之監督のインタビューをお届けする。大事な公式戦で出場する選手選びでうまくいかなかった事例、キャプテン、副キャプテンの決め方などを語る。

取材・構成/川端暁彦

――練習を取材させていただいた日もゲーム中心の練習でしたが、ゲーム形式のメニューが多いのでしょうか?

「多いですし、ウチの練習でゲームをやらない日はそもそもありません。その中で、試合に出られていない選手たちのパフォーマンスが高くて、控え組のほうが先発組を上回るようなゲーム内容になることも必然だと思って見ています。リーグ戦のゲームを使いながら、試合に出る選手を入れ替えることをやっていくのが基本線ですが、(コロナ禍の)20年度に関しては試合数が減ってしまったので、ちょっと難しい部分がありました」

――その中でも新しい選手が出てくるわけですね。

「やっぱり出てきます。20年度のチームで言うと、2年生で試合に出ているミッドフィルダーの平原隆暉は、新人戦のときはレギュラーどころか26人の登録メンバーからも漏れていた選手です」


新人戦の頃は26人の登録メンバー外だったが、その後に台頭したという平原隆暉

――平原選手はゲーム形式のトレーニングの中で浮かび上がってきたのでしょうか?

 「ウチの場合、そういう練習の中から、技術レベルの高い選手が出てくることがあると思います。平原はその水準が高かったわけです。トレーニングレベルの高いところに入れられても発揮できるスキルがあったということです」

 ――練習で浮かんできた選手を使うにしても、特長が違う選手がいる場合にはどちらを使うかで悩んだりしませんか?

 「そこは確かに難しい部分です。19年度のチームで言うと、来季からの福島ユナイテッドFC入りが内定しているボランチの柴圭汰は、守備の部分を優先する形でシーズン途中から先発に起用するようになった選手です。先発で使ったら、だんだんうまくなっていきました。ただし、大前提としてあるのは、チームへの貢献度を試合で発揮してくれるかどうかです。19年度のチームでは、鎌田大夢(現在は福島)も当初はレギュラーではありませんでしたが、試合で使ってみたら貢献度の高いプレーをしてくれました。それで、もう一回使ったら、また良かったんです。その繰り返しで定着していったということです」


京都橘の西野太陽にプレッシャーをかける昌平の柴圭汰

――選手が起用に対して公平性を感じられるかどうかが重要かもしれません。

「その意味で言うと、”競争はするけど、必ずしも入れ替わるわけではない”ということもはっきりと伝えています」

――極端に言えば、紅白戦でハットトリックしたから使うわけではないということですね。

「まさにそういうことです。貢献度を考えて起用を決めていますが、選手側からそこを見るのはなかなか難しいと思います。足りない部分を選手に伝えて成長を促すようにはしています」

――誰を起用するかをあらかじめ決めているわけではないですよね?

「2年後はあの選手が中心になるのかな、などと思って見ている部分はあります。でも、期待を裏切られても見込んだ選手だから使い続けるということはありません」

――「特待生だから試合に出ている」といった感じで捉えられるのは良くありません。

「それはダメですし、そういうことはないと思います。1年生に関してはちょっと猶予を与えようと考えていますが、逆に言うとそこだけです」

――チームを良くするため、試合に勝つための起用を行なうわけですが、指導者によっては、選手を傷つけてしまう怖さを感じる人がいるかもしれません。

「でも、そこは勝負の世界じゃないですか。指導者がやるべきなのは、選手をきちんと見極めてあげることだと思います。”俺はもっとできる”、”試合で使ってくれ”と思う選手が当然いるでしょうが、それはそれでいいと思っています。こちらはトレーニングレベルを高めることで成長を促し、そこで良いと感じた選手を使います。その見極めはしっかりしたいと考えてやっていますが、全員に納得感があるのかと聞かれれば、そうではないだろうとも思います」


卒業後、新潟に加入した小見洋太

――これは失敗したと思うような選手起用はありましたか?

「失敗という言い方とは違いますが、あれは正しかったのだろうかといまでも自問するような起用をしたことはあります。練習では良くなかったのですが、強い個性があって、一生懸命でもあったので、”何とかこの選手に頑張ってほしい”という感情を優先させて起用したことが、選手権の本大会(全国高校サッカー選手権大会)でありました。でも、やっぱり機能しませんでした」

――キャプテンはどのようにして選ぶのでしょうか?

「前年度のキャプテン、副キャプテンと話して決めています。私たち指導者から見えている選手たちと実際の選手たちとの間には絶対にギャップがあると思っているからです。指導者から見えないところを見ている者の意見を聞くのが一番だと思います。それこそ、年度最後の大会となる選手権で負けたあとのホテルとかで聞いています。やっぱり、先輩は後輩たちのいろいろな顔を見ているので、”誰々は副キャプテンに入れておいたほうがいいですよ”などとアドバイスしてくれますし、その意見を尊重するようにしています。そこは毎年変わっていません。監督が決めるチームもあれば、選手投票で決めるチームもあって、そこに正解はないと思いますが、昌平としてはそういうやり方です」

――それで失敗したという経験はありますか?

「まったくないですね。副キャプテンを含めて、ないと思います。19年度のチームは途中でキャプテンを変えましたが、それはキャプテンが目をケガしたからです。サッカーができずにストレスを抱えている中でキャプテンの重荷まで背負わせるのはどうかと考えたので、話し合いをして、キャプテン交代となりました。でも、それは本当に特殊なケースだと思います。後悔とかは別にありません。

――大会登録メンバーの絞り込みについてはどうでしょうか?特に選手権のような最後の大会のメンバー選考はすごく嫌な作業と言う監督が多いようです。

「あれは本当に嫌ですね。私はいつも、締め切り日まで選考しています。悩みます。スタッフの意見も求めて考えています。3年生のことがどうしても気になりますが、最終的にはシビアに見ます。ポジションのバランスも考えますが、最後は個を見ます。力のある選手を選ぶということです」

――どのように発表しますか?

「全体の前で全員に向かって言います。その場では、貢献度と継続力で選んだという話をいつもします。一発屋ではダメで、パフォーマンスを継続して出せるかどうかが重要だと常に言っています。やっぱり、トレーニングなんです。ウチはトップチーム以外も本当に高い質でやれていると思うので、そこを相手にどれだけ力を出せているかが評価になります。対外試合は相手次第のところも大きいじゃないですか。その意味では、練習が大きな材料になります。トレーニングレベルを上げた中で、選手を見極めるわけです。選手を選択する上で一番大切なのは、そこだと思っています」

※サッカークリニック2021年2月号掲載

写真◎BBM

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