4日、大阪・堺市産業振興センターで行われたWBO女子世界ライトフライ級タイトルマッチ10回戦は、チャンピオンの天海ツナミ(36歳=山木)が、挑戦者の東洋太平洋同級王者でIBF2位の緒方汐音(32歳=寝屋川石田)から2回にダウンを奪い、終始圧倒。ジャッジ三者とも100対89のフルマークをつける判定勝利で、3度目の防衛に成功した。なお、WBOはかねてから女子ランキングを発表しないため、緒方の同ランクはない。
天海(右)のアッパーカットがクリーンヒット「ストップとかのTKOではなく、ちゃんと倒して勝つKOをしたかった」。勝利者インタビューでうな垂れる天海。これだけ圧倒していたのだから──という、観客の意見もあろう。が、チャレンジャーの豊富な練習量と、この試合に懸ける想いを感じさせる心身のスタミナ、気迫を褒めたたえるべきだろう。
それにしても、天海のディフェンスぶりは相変わらず惚れ惚れとさせる。いや、この日はいつも以上に魅せたように思う。それは、緒方のスピーディな連打があったからこそ。両腕を伸ばしてカットする。前後左右への体の“ずらし”でかわす。ノーガード状態でヘッドスリップ、スウェーバックでかわす。緒方のパンチが来るのを読み切り、数秒前からガードを上げて待っていることさえした。
緒方のシャープな右ストレート。だが、天海は完璧に見切って小さな動きで外す 単発ブローをよけるのではなく、連打をすいすいとかわしまくるテクニックは、女性選手どころか、男性選手でさえも、なかなかできる芸当ではない。男女合わせても、国内ではトップクラスと断言してしまってよい。
まるで、あのフロイド・メイウェザー(アメリカ)のパフォーマンスを見ているような感覚に誘われた。これはファンだけでなく、選手たちもぜひ見て、参考にしてほしい。
2回のダウンシーン。緒方はここからよく粘ったのだが… 天海は「ディフェンスに徹すれば、一発ももらわない自信がある」と、以前の取材で豪語していたが、この日はそればかりでなく、左フックのカウンター、右フックを何度も何度もヒットさせた。2回には、ロープを背負った状態から左フックをカウンタ―し、さらに右から左フックを決めて、緒方に尻もちをつかせた。その後も、同じような展開が延々と続いていった。
手を出せばよけられまくり、カウンターを合わされる。普通なら、手を出せなくなる。が、緒方は速いテンポで最後までパンチを出し続けていった。信じられないスタミナ、精神力だ。終始、一方的な展開だったが、これではレフェリーは止められない。
10回終了ゴングと同時に、緒方は気絶するようなかたちで天海にもたれかかった。疲労とダメージによって、天海に支えられなければ倒れ込んでいるような状態だったのだ。最後まであきらめない姿勢は、それもまた感動的だった。
納得いかない表情の天海 天海ツナミという選手の凄さを、さらに認識させられる試合だった。それを引き出したのはチャレンジャーの戦いぶりだった。天海には、もっともっと異次元の世界に向かってほしい。そして緒方には、決して引き立て役で終わってほしくない。一方的な展開だったものの、世界タイトルマッチにふさわしい、素晴らしい試合だった。
ランカー対決は、冨田に軍配
試合途中で切り替える上手さを見せた冨田(左) セミファイナルは、ライトフライ級日本ランカー同士の一戦。元WBOアジアパシフィック王者で、日本同級2位の冨田大樹(23歳=ミツキ)と、同14位の浅海勝太(26歳=ハラダ)のフライ級8回戦は、77対75が二者、76対76の2-0で冨田が判定勝利。
左右ストレートボディで立ち上がった冨田は、それを読んで右を狙ってきた浅海のパワーに3、4回は気圧されたものの、5回からは、いわゆるフットワークを使わずに、ステップをすり足に変えて、左フックのカウンターと強い右ストレートで跳ね返しにかかった。
「反省点ばかり。採点は10点」と表情を曇らせた冨田だが、パワーに優る浅海を恐れて下がっていたら、思うつぼだったろう。踏みとどまって、対抗した精神力と決断は見事だった。タイトルマッチでの2度の敗戦は、着実に生きている。