close

2026-06-05

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第38回「子煩悩」その3

平成31年初場所で初優勝した玉鷲。長男のテルムン君をヒザに乗せて記念撮影

全ての画像を見る
季節が過ぎ去るスピードって速いですね。
時間が過ぎるのと一緒で、あっという間に移ろっていきます。
5月の野山は若葉色に染まり、空には鯉のぼりが泳いでいます。こどもの日ですね。
土俵の上では死闘を繰り広げている力士たちですが、土俵を降りれば良きパパ、良き父親って力士もたくさんいます。
ご存じですか。令和4年春場所、初優勝した若隆景は、まだ27歳なのに1男3女のお父さんですよ。
あの優勝の活力源はきっとかわいい子供たちだったに違いありません。
力士たちは、地方場所などで離れている時間が多いこともあってみんな子煩悩なんです。
そんなパパたちの子供とのホットな結びつきをにじますほのぼのエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

廻しに息子の名前

あなたは物事にこだわる派ですか、それともこだわらない派ですか。現在、幕内最年長の玉鷲は後者、こだわらない派のようです。
 
平成31(2019)年初場所、当時34歳2カ月だった玉鷲は、初日から力強い突き押しでおもしろいように勝ち星を重ね、ついに13勝2敗で初優勝した。旭天鵬(現大島親方)の37歳8カ月に次ぐ史上2番目の高齢優勝だった。
 
翌春場所、玉鷲は思い出深い水色の廻しを紺色に新調した。力士が廻しを取り替えるのは昇進したときや、負けが込んで気分を一新したいときなどが多い。こんなふうに優勝した直後に新調するのは珍しい。

「どうして?」
 
という報道陣の問いに玉鷲は逆に、どうしてそんな質問をするの、と言わんばかりの顔でこう答えた。

「物にゲンがいい、悪いはありませんよ。もし悪いとしたら、自分ですから」
 
いかにも乗りに乗っている力士の、自信にあふれた答えだ。しかし、ちょっぴりゲンを担いだ。折り返しの見えない部分に「てるむん」「えれむん」とひらがなで2人の息子の名前を入れたのだ。次男のエレムン君は、優勝を決めた前場所千秋楽の朝に生まれたばかりで、年齢がなんだ、オレはこの息子たちのためにまだまだがんばる、という玉鷲の決意のほどが盛り込まれていた。
 
5日目、玉鷲は大関取りを目指していた東関脇、22歳の貴景勝(現湊川親方)との激しい押し合いを制して、真っ向から押し出した。これが2勝(3敗)目。肩で息をしながら引き揚げてきた玉鷲は、

「まだ若手には負けたくない。なんて言ったら年寄みたいだけど。これで少しは(場所の)いい盛り上げになったかな」
 
と胸を張った。この意気、37歳(現在は41歳)になった現在も少しも衰えていない。さあ、拍手を贈りましょう。

月刊『相撲』令和4年5月号掲載

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事