アメリカンフットボールの「Xリーグ」は6月2日、東日本社会人選手権「パールボウル」トーナメントの準決勝2試合があり、第1試合では、IBMビッグブルーがノジマ相模原ライズを延長タイブレークで振り切って決勝に進出した。6月17日、東京ドームの「パールボウル」で、もう一方の準決勝を勝ち上がったオービック・シーガルズと対戦する。
4年連続、パールボウル準決勝での対戦となった両チームだが、一進一退の攻防を制したのはIBMだった。
ノジマ相模原は、第2クオーターに、WR伊藤雅恭の71ヤードパントリターンタッチダウン(TD)や、QBジミー・ロックレイからWR八木雄平へのTDパスなどで、優位に立った。IBMは、前半終了間際、QBケビン・クラフトからWR鈴木隆貴へのTDパスで、差を4点に詰めて13-17で折り返した。
第3クオーター、IBMはK佐藤敏基の2本のフィールドゴール(FG)で一旦は逆転するが、第4クオーター、ノジマ相模原がRB宮幸崇のTDランで再びリード。しかしIBMはQBクラフトが自ら走ってTDを奪って再逆転。ノジマ相模原は、第4クオーター残り1分41秒から、時間をしっかり使ってFGを決め、26-26で2年連続の延長タイブレークにもつれ込んだ。
タイブレーク1回表、ノジマ相模原は、RB宮幸のランで着実に前進、ゴール前5ヤードからQBロックレイが5ヤードのパスをTE藤本遼に決めた。その裏、TDを取るしかないIBMは、QB政本悠紀がWR近江克仁に23ヤードのTDパスを決めて同点に。2回表は続けてIBMのオフェンスとなり、QBクラフトがゴール前2ヤードからTEジョン・スタントンにTDパスを決めた。その裏のノジマ相模原のオフェンスを封じて、逃げ切った。
QB政本の「冷静」、WR近江の「闘争心」、主将・DB中谷の「責任」が、IBMに勝利を呼んだ。
延長タイブレーク1回裏、ノジマ相模原が7点をリードしてのディフェンスで、IBMをフォースダウンロングに追い込んだ。ノジマ相模原DLが、そこまで3回のオフェンスでIBMのQB政本に強烈なプレッシャーをかけ、一歩も進ませないという気迫を見せていた。
サイドラインの須永恭通ヘッドコーチ(HC)からは「これを守ったら勝ちだぞ」と檄が飛ぶ。加藤慶ディフェンスコーディネーター(DC)は、タイムアウトを取って、入念にディフェンスの詰を確認した。
IBMにとっては絶体絶命の窮地に見えたが、フィールドのQB政本は落ち着いていた。WR近江へ、練り上げていたパスを投げた。「5ヤードフックからもう一度前に走り10ヤードでカムバックするというトリプルムーブ的な動き」で近江はパスをキャッチすると、マンツーマンカバーのDBリー・ハイタワーを振り切って、そのまま快足を飛ばしてエンドゾーンに走り込んだ。近江自身にとってこの試合168ヤード・9本目のパスキャッチとなった起死回生のTDだった。
次のオフェンスでは、政本がランでゴール前に迫ると、QBクラフトがすかさずスイッチで入り、ホットラインのTEスタントンにあっさりTDパスを決めた。
一度失った流れを、ノジマ相模原は取り戻せなかった。QBロックレイはセカンドダウンでLB大滝達也の強烈なブリッツを受け、パス失敗。フォースダウンでエンドゾーンに投げたパスはオーバースローとなってゲームは終わった。
タイブレークでTDを決めたフォースダウンの場面、政本は「追い込まれたという意識はなかった」と振り返る。「ああいう場面で、もっとヤバいと思わなければいけないのかもしれませんが」という政本。QBとして最大の強みは、どんな状況でも、頭に血が上らず冷静に普段通りのプレーができる点だ。
冷静さだけではなく、政本には、近江と練習で練り上げたパスが通るという確信があった。
近江は「今日はずっと、あの7番の米国人選手(ハイタワー)とマンツーマンで勝負できていた。どんなプレーをコールされても『捕るぞ』という自信があった」という。立命館大では主将としてアニマルリッツの猛者を率いてきた若きリーダーだけに、気の強さ、闘争心ではだれにも負けない。それが勝負所で発揮された。
今のIBMは、「青年将校」がチームをけん引している。オフェンスでは25歳の政本、23歳の近江、24歳の鈴木ら。ディフェンスでは、25歳のLBコグラン・ケビン、24歳の大滝、25歳のDB森岡良介。さらに25歳のK佐藤といった面々だ。
鈴木は正確なルートランでパスレシーブ76ヤード1TD。佐藤は51ヤードを含む4本のFG、コグランと大滝は6タックルと活躍した。
近江、鈴木、コグランは副将。そして彼らを率いるのが27歳の主将・中谷祥吾だ。
本業はSだが、CBとしてもプレーする中谷は、第2クオーター8分にエンドゾーン内でパスをインターセプトした。パスが決まっていればノジマ相模原の3連続TDとなり、18点差となる局面。主将の責任がビッグプレーとなって表れた。
中谷は「ライズがしっかり対策していた。前半は、オフェンスもTDを取り切れず、自分たちのモメンタムを掴めない。そういう時にこそ流れを変えるプレーを自分がやらなければならない」と思っていた。
このターンノーバーから、IBMオフェンスが第2Q11分32秒のTDにつなげた。後半へ4点差で折り返す意味ある得点。IBMが「チームとして機能し始めた」局面だった。
中谷は「しんどい勝負になるのはわかっていた。精神力が試される戦いになると思っていたが、本当にその通りだった」という。
主将として中谷が目指すのは、「接戦を勝ち切る勝負強いチーム。肉体的にも精神的にもタフなチーム」だ。その理想に一歩、また一歩と近づいている。
パールボウルの相手は、3年連続でオービックシーガルズとなった。タフなことにかけてはXリーグ随一のオービックに、「青年将校」たちが勝負を挑む。【写真/文:小座野容斉】
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