BBMのプロスポーツカメラマンが撮影してきた数え切れないほどの写真…。その中から貴重なカットを紹介する好評連載は今回、大相撲から。モンゴル出身力士の歩みをお届けします。フィルムに刻まれた歴史を感じてください。
文◎橋田ダワー
時の流れは待ってはくれない。しかし、そこここに跡は残る。草原を駆け抜ける風に乗り、波が遊ぶ海を渡り、霧の中から姿を現す山々目指して飛ぶ渡り鳥のなく声に、遠く過ぎ去った青少年時代がよみがえる。
東西冷戦時代の終期、1992年2月に、大島親方(元大関・旭國斗雄)はモンゴル国首都ウランバートルを訪れた。応募者160人の中から新弟子6人を選ぶためだ。そうして入門させたのがいまから28年前。当時、大相撲ではハワイ出身力士の活躍や若花田、貴花田(その後、史上初の兄弟横綱となる第65代横綱貴乃花、第66代横綱若乃花)が新星として注目を集めていた。来日した6人は、平成4年3月場所で初土俵をふんだ。
弊社写真部で、昭和・平成とレンズを通し土俵を見つめてきた吉田二郎氏と坪井宏之氏が、それを記録している。初のモンゴル人力士たちの初々しい貴重なフィルムを紹介しよう。
来日から1カ月で前相撲を取る6人。前列左から旭獅子、旭雪山、旭嵐山(旭天山)、後列左から旭鷹、旭鷲山、旭天鵬(現・友綱親方)。初土俵を踏んだ大阪場所支度部屋で。
入門当初は通訳がついていたが、通訳の帰国後は言葉も通じず、気候、文化、食事などさまざまな壁にぶつかり、ホームシックから来日半年で旭嵐山を除く5人は部屋を脱走。在日モンゴル大使館に駆け込む事件が起きる。親方や女将さんとともに旭嵐山が大使館まで迎えに行き説得したが、旭鷲山だけが戻り、残る4人は帰国してしまう。
入門から1年3カ月後の3人。左から旭天鵬(現・友綱親方)、旭鷲山、旭嵐山(改名し旭天山)。この時は、とにかく3年間、相撲を取って帰国するという口約束を親方と交わしたという。日本語も少し理解するようになり、日々の生活に慣れてきた頃。
入門から3年目となる平成7年1月場所。旭鷲山は東幕下9枚目で臨み、7戦全勝で幕下優勝を遂げる。新十両へ昇進し、昇進会見ではチンギス・ハーンの肖像の前でポーズ。
モンゴル人初の関取となった旭鷲山。来日直後には、自動販売機に向かって「オレンジジュースください」と声に出して頼んでいた、という逸話のある彼の成長ぶりは著しかった。当時モンゴルに自動販売機はなかった。
業師として頭角を表し、「技のデパート」と呼ばれ、その後、小結まで昇進。平成18年11月場所で引退する。
入門から3年目の5月場所後に帰国する旭天鵬。草原にて。
1月場所を西幕下9枚目で7戦全勝し、十両昇進する旭天鵬。旭鷲山から丸1年遅れで大島親方と昇進記者会見に臨んだ。
会見では親方が、入門から半年で部屋を脱走し帰国した旭天鵬を、平成4年の冬にモンゴルまで連れ戻しに行った経緯を語り、「説得して連れ帰り、結果的に関取まで昇進することができてうれしい。将来が楽しみです」と感慨深く語った。
平成19年11月場所で旭天山は15年間の土俵人生を終えた。髷にはさみを入れる旭天鵬。2人は入門当時からともに歩んで来た親友で、いままでの思いが込み上げ、涙を流す。
モンゴル人力士第一号として来日してから20年となる平成24年5月場所。西前頭7枚目で臨んだ旭天鵬が、史上最年長37歳8カ月で初優勝を果たした。
優勝パレードでは、同郷の大横綱・白鵬が、先輩のために旗手として同乗、前列席に太田武雄氏(元師匠の大島親方、大関・旭國斗雄)
友綱親方(元関脇魁輝)の65歳定年にともない、元旭天鵬が年寄名跡を交換して、江戸時代から続く年寄、友綱を継承する。モンゴル出身力士では初の部屋師匠、親方となった。
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