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2021-07-03

【ボクシング】伊藤雅雪が復活のTKO勝ち「やりたいボクシングができた」

伊藤(左)は細川を終始スピードで圧倒した(写真/菊田義久)

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 3日、東京・後楽園ホールで開催されたライト級ノンタイトル10回戦は、元WBOスーパーフェザー級王者の伊藤雅雪(30歳=横浜光)が元日本スーパーライト級王者の細川バレンタイン(40歳=角海老宝石)を8回1分17秒TKOで下し、7カ月ぶりの再起戦を白星で飾った。

 先手を取ったのは身長で11cm上回る伊藤だった。1回から長い左腕をぐっと伸ばし、小気味いいジャブでリズムをつかむ。左で細川の動きを止め、中間距離から右ストレートを打ち込んでいく。確実に試合を支配しながらも、ペースを上げずに慎重に試合を進めた。右の相打ちを警戒し、脈絡なくもらう一発にも神経をとがらせていた。「何が起きるか分からない。このまま安全運転でいいかな」という思いもよぎった。

 それでも、ギアを上げたのは6回。セコンドにハッパをかけられたのだ。「ここで倒すか、倒さないかは違うぞ」。その言葉に背中を押され、前へ前へ出ていく。細川は左腕をだらんと下げて、捨て身のノーガードだったが、距離を詰めてお構いなしに右を振る。7回には渾身の右フックでぐらつかせた。スイッチが完全に入った状態で迎えた8回、一気に勝負をかける。ロープ際に追い詰めて、すかさず連打。反応が鈍くなった細川に左から右ショートアッパーに右ストレートを次から次に打ち込むと、レフェリーが間に割って入り、試合終了のゴングが鳴り響いた。その瞬間、伊藤の感情が爆発。雄叫びを上げ、笑顔が弾けた。

 昨年12月、前OPBFスーパーフェザー級王者の三代大訓(ワタナベ)に判定負けを喫し、一時は引退も考えたこともあった。リング上でマイクを握ると、負けられないプレッシャーからふっと解放された。
「勝って、安心しています」
 後楽園ホールに集まった774人から大きな拍手が送られた。チケットは2日間で完売。ノンタイトルマッチでは異例の注目を集めた試合で復活を印象づけた。
「やりたいボクシングができた」
 30歳。ようやく殻を一つ破った。大きなことを言えないと前置きした上で、はっきりと口にした。
「世界との差は少し」
 ここから大舞台に向け、再出発することを誓った。
 OPBF東洋太平4位、日本ライト級3位の伊藤の戦績は31戦27勝(15KO)3敗1分。

 一方、東洋太平洋・WBOアジアパシフィック・日本のライト級3冠王者、吉野修一郎(三迫)に敗れて以来、10カ月ぶりのリングで再び黒星を喫した同級7位細川の戦績は37戦25勝(12KO)9敗3分。試合前日に「距離を詰めて殴り合うしかない」と話していたが、思うような展開には持ち込めなかった。伊藤に恐怖を与えていた右の一発は沈黙したままだった。レフェリーに試合を止められ、セコンドに抱きかかえられてコーナーへゆっくりと戻った。逞しい肩をがくっと落とし、椅子に座り込む姿には、疲労とダメージが色濃くにじんでいた。

文/杉園昌之

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