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2021-07-13

【ソフトボール】東京五輪ソフト代表の山田恵里(1)「本番まで、1日1日をやり切りたい」

今季は集中して挑めているという山田恵里。日本リーグ前半戦では.344の高打率をマークした(撮影/桜井ひとし)

五輪でのソフトボール競技は2008年の北京大会を最後に正式種目から除外されていたが、2020年東京五輪で追加種目としての採用が決まり、強化を進めてきた。ソフトボール・マガジンWEBでは、3大会ぶりとなる東京五輪で金メダル獲得を目指す15名の選手たちを、順々に紹介していく。

山田恵里(デンソー/外野手)
使命を全うする思いで(1)

北京五輪の決勝でアメリカのキャット・オスターマンから値千金の本塁打を放った。 あれから13年、山田もまた日本代表の歴史を紡ぐために、ただひたすらにソフトボール選手としての道を歩み続けてきた。 集大成となるであろう東京五輪は、多くの人の思いを背負って挑む。(取材は5月12日、全文はソフトボール・マガジン8月号掲載)

東京五輪イヤーは
新チームで再スタート
 
──リーグ前半戦が終了。振り返ってみていかがですか(取材は5月12日)。
山田 2019年シーズン、20年シーズンと結果を残せていない中で今季を迎えました。そういったことに最初は不安もありましたが、初戦の大垣ミナモ戦でいいスタートを切れて、それ以降も大きく崩れることなく5節まで戦 えたのではないかと思っています。目標としていた打撃率「4割以上」を達成できなかったのは残念でしたが、総合的に見てしっかり集中して打席に立てていたことが、この結果(打撃率.344)につながったのだと思います。
──以前、不調の要因に集中力の低下を挙げられていました。集中力を高めるために取り組んだことはありますか。
山田 気持ちの浮き沈みがないように、一定に保つことは意識していました。 調子がよくなかった昨年もバッティングの形自体は悪くなかったんですよ。集中できているか、できていないかで、ここまで結果って変わるんだなということを実感しています。
──日立からデンソーへ移籍。新チームではコーチの役割も担っています。
山田 シーズンに入ってしまうと、自分の結果を出すことに集中してしまって、若い選手たちにそこまで伝えることはできなかったので、そこは反省ですね。なかなか調子が上がってこない選手もいましたし、もっと声を掛けられたんじゃないかと。ただ、いい雰囲気をつくっていこうという意識は持って、取り組めたと思っています。
──第3節の茅ヶ崎大会では、古巣との対戦もありました。
山田 会場が私の地元で、日立の本拠地でもある神奈川だったので、持ってるなと思いましたね。でも、やじられるんじゃないかと不安もありましたよ。ただ、試合の日が近付くにつれ、こうして神奈川で戦えることがありがたいことだと思えるようになっていきましたし、自分が結果を出すことが日立への恩返しになるんだと思えるようになりました。意識し過ぎて結果は出なかったんですけどね(苦笑)。それでも日立のみんなの成長を感じられてうれしかったですし、みんなが頑張っているのを見て、私ももっと頑張らなければと思いました。チームは変わっても、ずっと応援したい存在ですね。
──前半戦を終え7勝4敗の2位。チームとしての手応えや反省点を教えてください。
山田 良かったことは0点の試合が一度もなかったことと、負けた試合もすべて1点差だったこと。それから特定 の選手だけでなく、いろいろな選手が打っていたことには手応えを感じられました。反省点は、一つうまくいかないことがあると、悪い流れがずっと続いてしまうこと。それが敗戦の原因にもなっているので、きちんと切り替えができれば大量失点から負けることはないかなと思っています。攻撃ではあまり悪いところはなかったので、やっぱり守備ですね。嫌な流れを断ち切れなかったのが、今後の課題かな。
──若いチームゆえの課題ということになるでしょうか。
山田 試合の流れを読んだり、悪い流れを断ち切るには経験がすごく大事になってきますよね。もちろん全く分 かっていないのではなく、分かっていながらも変えられないことってあるんですよ。でも、変える方法はいくらでもある。例えば声を出すとか、表情がこわばっていたら無理やりにでも笑うとか。そういうところをもっと伝えていけたら良かったなと思います。
──チームの雰囲気はどうですか。
山田 いいと思います。田上(美和)監督もとにかく元気よく、思い切ってやろうと言ってくださいますし、若い選手たちも力を発揮しやすい環境だと思います。あとは、たとえ自分がうまくいかなかったとしても負の感情を出さず、周りに気を遣わせないようにしようという話が若い選手たちの中から出てきているので、そういうのを見てもいい雰囲気だと感じますね。

1日1日をやり切ることで
自信を持って本番へ

──さて、山田選手自身は7月に3度目の五輪が控えています。本番に向けて、どのように調整していこうと考え ていますか。
山田 本番に向けてこうしたいというよりは、1日1日をちゃんとやり切る ことを意識して練習をしていきたいです。今日は調子が悪かったという日をつくらずに、今日も大丈夫、明日も大丈夫といった感じで、毎日を後悔なくやり切りたいです。
──これまでは、カナダカップやUSAカップで調整して五輪本番へという流れが多かったと思いますが、新型コ ロナウイルス感染症の関係で海外チームとの試合は難しい状況です。
山田 もちろん試合はできたほうがいいけれど、それは仕方のないことですし、慌てるものでもありません。こういう状況の中でできる準備を全力でや るしかありません。日本リーグでは各国の代表選手や外国人選手と対戦する機会もあったので、そのことはプラスになっていると思っています。みんな試合勘は持っていますし、一人ひとりが本番で100に近い状態を出せたらと思っています。
──100に近い力を出すために、大事になってくることは何でしょう?
山田 準備しかありません。これだけやったというものがあれば、自信を持って試合に臨むことができます。こ れだけやったんだから、と開き直れるぐらいがいいと思う。あとは、今の時代はSNSを開けばいろんな情報が入ってきてしまうので、そういったものを入れないこと。気にならない選手はいいけど、気になる選手は気を付け たいですよね。中傷のような、自分にとってプラスではない情報が入ってくることもあるかもしれません。万が一目にしてしまったら、惑わされないことが大事。上手に流して、とにかくソフトボールに集中すること。これは、プレッシャーに対しても言えることで、金メダル、金メダルと気負い過ぎてもいいことはありません。自分の力を出すことだけに集中することが大事です
──若い選手はより気持ちのコントロールが難しいかもしれませんね。山田選手が若手のころはどうでしたか。 山田 私が若いころは、周りから情報が入ってくるということが少なかったので、自分のプレーに集中しやすかったかもしれません。あとは若いときから負けず嫌いだったので、たとえ批判されるようなことがあっても、それを跳ね返すことができていました。リーグの前半戦を振り返ったとき、日本代表候補の中には本来の力を出し切れていない選手も見受けられましたし、少なからずプレッシャーは感じているのかなと思いましたね。でも、実力があるから選ばれたわけだし、自信を持ってプレーしようと伝えたいと思います。やっぱり、最後は自分を信じるしかないんですよ。自分が自分を否定してしまったらダメ。自分のことを認めてあげることが大事だと思います。
──今回は山田選手を含めて3人の五輪経験者が選ばれました。初出場の選手たちに伝えておきたいことはありま すか。
山田 伝えると言っても、経験がない選手に自分の経験を伝えようとしても、 共感を得ることは難しいと思うんですよ。ただ、五輪経験はなくても日本代表歴が長い選手は多いので、そこまで心配する必要はないのかな。知ったらプレッシャーになってしまうこともあるので、のびのびやってくれたらいいかなと思います。自分にできることは、チームや個々がうまくいっていないときに声を掛けたり、みんなが力を出し切れる雰囲気、環境をつくることですかね。それが一番重要だと思います。
──アメリカを含め、海外のチームとの対戦は楽しみですか?
山田 どのチームも強いので、対戦は楽しみです。ただ、5節のビックカメ ラ高崎戦(5月9日)で、藤田(倭) と上野(由岐子)さんと対戦したとき に、相手を意識し過ぎて打てなかったんですよね(苦笑)。相手を意識し過ぎたらどうなるか、五輪を前にいい経験になりました。アメリカには、北京五輪でも戦った(キャット・)オスター マンや(モニカ・)アボット(トヨタ自動車)がいますけど、自分がやるべきことに集中していきたいですね。
──ワクワクが先に来てしまったんですね。
山田 そうなんですよ。勝負できることがうれしいなと思っていたら、全然集中できなくて……(苦笑)。(つづく)

【山田恵里PROFILE】
やまだ・えり/1984年3月8日、神奈川県生まれ。165cm59kg。左投左打。外野手。厚木商業高-日立
(2002年~20年)-デンソー(21年~)。日本リーグでは、これまで首位打者に4度輝き、19年には前人未踏の400安打を達成。日本代表ではアテネ、北京と2度五輪の舞台に立ち、北京では金メダル獲得に貢献。 東京五輪に挑むチームの主将を務める。今季リーグ成績(5節終了時点):11試合、37打席、11安打、1本塁打、4打点、1盗塁、打撃率.344

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