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2021-09-03

葛藤を続けるNOAH新世代のエース・清宮海斗、NOSAWA論外戦で雲は晴れるのか【週刊プロレス】

悩める清宮海斗

「今でもずっと悩んでますよ」

 8月28日、NOAH高岡大会の試合前、清宮海斗に話を聞いてみた。2年前“新しい景色”を見せ続けてきた方舟新世代の旗手は、現在、スランプを抜け出せずにいる。

 7・22後楽園で中嶋勝彦&征矢学との王者決定戦を制し、GHCタッグ王者になったので、てっきりスランプを脱出する糸口をつかんだかとも思われた。しかし、本人の中では「(マサ)北宮さんの力が大きかった。ボク一人ではまだ何も変えられてないです」とあくまでパートナーありきのベルト戴冠。こちらがポジティブな方向に話を進めようとしても「まだずっと雲がかかった状態ですよ」と神妙な面持ちのままだ。

  いつから歯車が狂ったのか。

 清宮の迷いや葛藤が表面化したのは今年5・22横浜である。NOSAWA論外とのシングルで大流血して、結果的にもリングアウト負け。試合後、赤いペイントをしているかのように鮮血で顔を染めながら「これがプロレスか!? これがNOAHのプロレスか!? わかんねぇよ! うぁああああああああ!!」と錯乱した。

「ずっとためてたものが全部あふれ出したというか。それまでも大事なところで全然勝てずに、武藤さんとのタイトルマッチあたりから狂ってた部分もあったんですけど、あの試
合で完全に弾けました」

 '19年はGHCヘビー級王者としてNOAHだけでなく、業界にもビュンビュンと新風を吹かせた清宮だったが、昨年1月に潮崎豪に敗れて同王座から陥落して以降は低迷。タイトル挑戦やNー1準優勝とあと一歩のところまではたどり着くものの、大きな結果は残せていない。

 今年3・14福岡では武藤敬司のGHCヘビー級王座に挑戦。試合終盤に脳震とうを起こしてからの記憶はまったくなく、気がついたら病院へと救急搬送されていた。

 GHCヘビー級選手権で敗北した悔しさよりもこみ上げてきたのは、記憶が飛んだままビッグマッチのメインを終えてしまった自分に対する怒り。後でその一戦を見返すのも怖かった。トラウマのような記憶になっている。

 明確なスランプに突入したのはそれからだ。歯がゆい自分に対する怒りをため込んでいた中で5・22横浜の論外戦を迎え、必死に抑えていた感情が形になってしまった。

「あんな怒りが出てきたのは初めてでした。それによって逆に闇に入ったのかもしれない。あの一戦の勝敗も納得がいっていないですよ。自分がやっていこうとしてたプロレスとまったく別世界だったので。そこも、もう一度NOSAWA論外選手と対戦したいと思った理由ですね。プロレスの本質を見つけたいし、疑問を抱いた試合ってアレが初めてで、その答えが見つからない限り、自分は前に進むことはできません」

 デビュー前から教わったプロレスの基礎を再確認した6・13TVマッチの小川良成戦、兄貴分のマサ北宮とベルトを奪取した7・22後楽園のGHCタッグ王座決定戦とチャンスは次々とやってきた。それらを生かせたのかどうかはわからない。自分自身の幅が広がっているのを実感しているのだが、どうしても引っかかっていたのが論外という存在だ。

 8・1広島でも散々やられ、因縁が深まった。同時にまたしても大流血に追い込まれ、最終的には感情の赴くままにグレート・ムタをイスで殴打。これまで真っすぐにプロレスに打ち込んできた清宮にとって、新たな一面が開いた瞬間だった。

「自分でも迷いはありましたよ。あの時はこっちがやらなかったら、やられちゃうって思ってやったんですけど、これをやっていいのかなって。感情の赴くままにいけばいいのか、それともコントロールした方がいいのか。まだ自分の中でその答えは出てないですよ。NOAHの試合で怒りは経験したことがなかったので」

 葛藤が続く中で8・15川崎では論外とのシングルマッチが組まれた。だが、コロナ感染者&濃厚接触者の疑いによる度重なるカード変更で消滅。魔流不死&論外vs小川良成&HAYATA戦では、小川組のセコンドとしてリングサイドに行ったら、自分の感情が抑え切れずに論外に突っかかり、結果的に試合にも介入…。

「NOSAWA論外選手の顔を見たら、自分の感情を抑え切れなかったです。そこまでためてきたものが出ちゃいました。あの時は周りも見えなかったです。それぐらい自分にとって衝撃的な試合だったので…」

 プロレスは包容力がありすぎるジャンル。5カウント以内の反則は許容範囲内だし、勝敗がすべてでもない。ゆえに面白いのだが、時にその出口のない迷宮にはまって抜け出せない者もいる。

「毎日プロレスってなんだろうって考えてます。悩んでたら、一日がすごいスピードで過ぎていく。すぐ夜になっていて、次の日が来て、また悩んで…ずっとその繰り返し。いろいろと試してはいるんですけど、これが答えだっていうのがまだ見つからないんですよ。何をやっても前に進まない。ちょっと前ならポジティブに考えてやっていたのでしょうけど、それが本当に正しかったのかもわからない。このままの状態でNー1が開幕したら、本当にひどい結果になるかもしれない…。9・3横浜でプロレスの本質が何かを見つけたい」

 シングルリーグ戦「Nー1 VICTORY」の開幕は9・12後楽園。9・3横浜における論外戦で因縁にケリをつけ、自身の前に広がっている厚い雲を振り払ってほしい。

井上光

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