close

2021-09-10

【NFL】開幕直前の備忘録 エースQBのシャッフルを追う(1) 「チームを出たい」と言った理由は

2020年シーズン最終戦のタイタンズ戦の後、僚友のJJワットとフィールドを去るQBワトソン(右)=photo by Getty Images

全ての画像を見る
まもなくNFLの2021年シーズンが開幕する。年々、エースQBのシャッフルが激しさを増すNFLだが、昨シーズンから今シーズンにかけての動きは、目まぐるしいものだった。シーズンに入る前の備忘録として、リーグを代表するスターたちの身に何が起こったのかをまとめた。

【NFL】備忘録  エースQBのシャッフルを追う(2)「期待」「失意」「再起」5,6年目の3人の場合

【NFL】備忘録  エースQBのシャッフルを追う(3)栄光の男たちに迫る落日


トレード要求、性被害で被告に、そして・・・テキサンズQBワトソン
2020年シーズン最終戦のタイタンズ戦でプレーするテキサンズQBワトソン=photo by Getty Images

 オフに、NFLで焦点となったのがヒューストン・テキサンズQBデショーン・ワトソンの「トレード要求」問題だった。

 ワトソンは2017年1巡12位で入団、2年目から3シーズン連続でプロボウルに出場。NFLを代表する若手QBだ。4年目の20年シーズンは、パス4833ヤードでNFL1位。33タッチダウン(TD)、7インターセプト(INT)でQBレーティングは112.4。いずれもキャリア最高となる数字だった。

今回の騒動の発端は、テキサンズの新GMニック・カセリオの就任だった。公式サイトNFL.comが、ワトソンがGM選考過程に関与できなかったことに不満を持っていると伝えたのだ。

 テキサンズは昨年3月にGM兼任HCだったビル・オブライエン(当時)が、エースWRのディアンドレ・ホプキンスをアリゾナ・カーディナルスにトレードした。ホットラインを組んでいたホプキンスのトレードをワトソンはツイッターで知ったという。
 ワトソンは、ロッカールームの意見を伝えるために、新HC、GMの選考にあたっては関与を申し入れ、キャル・マクネアオーナーもそれを了承していた。

 しかし、ワトソンは、カセリオ就任濃厚のニュースを知ったのは、またしてもツイッターだった。ワトソンはカセリオの人選に不満があったのではなく、約束が反故にされたことを問題にした。

 以降、球団に決定的な不信感を持っており、トレードを求めているという報道が、なされるようになった。

 テキサンズは当初、この報道を否定したが、ワトソンは1月29日、初めて「トレード要求」を公にした。テキサンズは一貫してトレードを拒否し、カセリオGMもカリーHCも「QBはワトソン」と主張し続けた。

この間に、ディフェンスの大黒柱で、テキサンズの顔でもあったDEのJ.J.ワットが放出を求め、チームがこれを認めてカージナルスへ移籍するなど、激震が続いた。

 ワトソンが昨年9月に結んだ4年契約の中にトレード禁止条項が含まれ、希望チーム以外に対しては本人の拒否権もあるという。

 3月中旬、新たな問題が持ち上がった。ワトソンからわいせつ行為の被害を受けたというマッサージセラピストが、民事訴訟を起こしたのだ。

 同様の被害を受けたという女性からの訴訟が合計22件起こされた。事態はますます混迷を深めたが、一方でトラブルを抱えた選手を獲得するリスクを考えたのだろうか、ワトソンを獲得したいという球団の噂は下火となった。

 ワトソンは移籍せず、裁判はそのまま継続しているが、NFLが、選手の個人行動指針の観点から、法廷での結果に関係なく、ワトソンに出場停止などのペナルティが科すといった事態には至っていない。新HCのデビッド・カリーは、ワトソンの状況については、基本的に話すことを拒んでいるために断定的なことは言えない。

 ワトソンは6月のチーム合同練習(OTA)に不参加。夏季キャンプも冒頭一週間は参加しなかったが、これは負傷によるものという。その後ワトソンは、プレシーズンゲームにもすべて出場せず。ファイナルロースターカットを経た53人には残ったが、今季はプレーする意思がないことを明確にしているという。

 チームは、オフに獲得したQBタイロッド・テイラーを先発として開幕を迎えることを発表している。

圧倒的成績のMVPが突き付けた「このチームを出たい」・・・パッカーズQBロジャース

2020年シーズンは、圧倒的な成績でMVPを受賞したパッカーズQBロジャースだったが・・・=photo by Getty Images


 ワトソンの問題と入れ替わるように話題をさらったのが、グリンベイ・パッカーズのQBアーロン・ロジャースだった。4月29日、ドラフト会議の1巡指名が始まる数時間前に、パッカーズの関係者やファンにとっては冷水を浴びせられたようなニュースを米スポーツ専門局ESPNが報じた。ロジャースが「もうパッカーズではプレーしない」としてトレードを要求したというのだ。

 マット・ラフルアHC、ブライアン・グーテクンストGM、マーク・マーフィー球団社長と面会し、自身の将来に関して話し合ったという。

 当初は、前年のドラフトの1巡でパッカーズがQBジョーダン・ラブを指名したこと、そしてそれについてロジャースに事前の連絡が無かったことが、問題の原因とされた。そしてロジャースはグーテンクーストGMの解任を求めているとも言われた。

 ただ、ロジャース自身は、ラブの指名が原因という見方を否定し、長年にわたって、球団上層部とやり取りをする中で生まれてきた不信感が原因だという見解を、ESPNの番組で述べた。

 また、サンフランシスコ・49ERSがドラフト前に、ロジャースのトレードを求めたという報道もあった。49ERSは、元々はロジャースの意中の球団だったが、2005年のドラフト全体1位でロジャースではなくアレックス・スミスを指名したという過去の経緯もあった。49ERSは今年のドラフト全体3位でトレイ・ランス(ノースダコタ州立大)を指名して、この動きは収束した。

 しかし、先発QBの弱さを指摘されるデンバー・ブロンコスへのトレードされるのでは、という観測は根強く、SNS上では有名メディアのSNSアカウントを装った悪戯でロジャースのトレードが決まったというフェイクニュースも流れたりした。

 ロジャースはNFL16年目の2020年シーズン、圧倒的なパフォーマンスを見せた。パス成功率70.7%、4299ヤード、48TD、5INT)、レーティング121.5を記録した。パス成功率、TD数、被INT率(1.0%)、レーティングはリーグトップ。特にパスTD数はキャリアハイで、40本以上も通算3回目。被INT率は3年連続リーグ最少で、レーティングは自身の持つNFL記録(122.5)に迫る史上2番目の成績だった。自身3回目のシーズンMVPも受賞した。

 プレーオフでは、NFCチャンピオンシップで、QBトム・ブレイディのタンパベイ・バッカニアーズの前に敗れたものの、パッカーズにとってロジャースのいないチームは考えられなかった。

 ロジャースはOTAなど、夏季キャンプ前のチームの公式行事にはすべて参加せず、ほとんど発言することもなかった。この流れの中で、ロジャースのNo.1ターゲットであるWRのダバンテ・アダムスとの契約交渉も、難航した。 

 アダムスは、2021年が最終契約年。2020年には2試合を欠場しながらパスレシーブ115回(リーグ1位)、1374ヤード、18TD(リーグ1位)という成績で、4回目のプロボウラーとなり、初のAPオールプロにも選出されたアダムスは、ロジャースと同様、球団の自分に対する扱いに不満を漏らした。

 アダムスとの契約が不調のまま、ロジャースがキャンプに参加するかどうかが焦点となっていた。7月29日、ロジャースとパッカーズは契約再構築で合意し、2021年シーズンに向けてチームに戻ることが決まった。伝えられる条件では、金額面での増減はなく、今季の年俸がボーナスに振り替えられたという。また、当初2023年まであった契約は、実質的に2022年までとなったとも報道されている。

 ロジャース自身は、パッカーズに対する強い愛着を持っているものの、キャンプ前の一連の交渉で、球団に対する不信が払しょくされたとは言い切れないようだ。アダムスの契約延長にも至らないまま、パッカーズはシーズンに突入する。ロジャースにとって、今季がパッカーズ最後のシーズンとなるのかどうか、それは誰にもわからない。

初の1巡1位QBのトレード「ブロックバスター」が起きた理由・・・ゴフとスタフォード

ゴフ(左)とスタフォード(右)。共に全体1位指名QBのトレードを米のメディアは「ブロックバスター」と形容した=photo by Getty Images

 1月30日、デトロイト・ライオンズのQBマシュー・スタフォードとロサンゼルス・ラムズのQBジャレッド・ゴフのトレードで、両チームが合意に達した。スタフォードは2009年、ゴフは2016年のドラフト全体1位指名で、1位指名選手同士のトレードはNFL史上初だ。

 ラムズが、ゴフに加え、今年の3巡、2022年と2023年の1巡という3つのドラフト指名権を出し、ライオンズのスタフォードと交換する。

 米メディアが「ブロックバスター」と表現した大型トレード。7歳も年齢が若く、スーパーボウル出場経験もあるゴフが、2年分の1巡指名権などを付加されて、スタフォード1人との交換となった。ラムズの代償が大きすぎたという見方は米でも強い。

 2019年4月にラムズとゴフが結んだ4年1億3400万ドル(約140億円)の契約のため、ゴフが2021年もラムズに在籍した場合のキャップヒットは2782万5000ドル。

 仮にゴフがこのオフに、解雇・放出された場合は、残りの契約年数分がまとめて2021年に計上されるため、6520万ドルが「デッドマネー」となる可能性があった。

 3年目にスーパーボウルに出場以降、ゴフは成績が悪化していた。インターセプト率は、2年目に1.5%を記録して以来、年々数字が悪化。2020年は2.5%でリーグ24位だった。

 決定力でも課題があった。2018年に32本だったパスTDが、19年は22本、20年は20本。ラムズのショーン・マクベイHCには、過去2年の42TDパス、29インターセプトという数字は許容できなかった。かといって、解雇では、巨額のデッドマネーが発生する。移籍先が、今の契約をそのまま引き継いでくれるトレードが最も望ましいものだった。

 一方で、スタフォードの状況はどうだったか。10年にわたってNFLのトップパサーとして活躍しながら、スーパーボウルが遠かったスタフォードは、今季終了後、自身のトレードを求めた。新首脳陣にも異論はなかった。1月23日、ライオンズはスタフォードのトレード先を探すことを公にした。

 スタフォードは33歳になるが、パス能力に衰えは見られない。数年は今のパフォーマンスを維持できると、ラムズは判断したようだ。(続く)

【小座野容斉】

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事