まもなくNFLの2021年シーズンが開幕する。リーグを代表するスターたちの身に何が起こったのか。シーズンに入る前の備忘録として(3)では、かって大活躍した3人のQBを追った。ルーキーに追われた元MVP 、カムバック賞を受賞しながらも引退の道を選んだQB、3度目のスーパー制覇を夢見て現役を続行する大ベテラン。それぞれの運命をレポートする。
【NFL】備忘録 エースQBのシャッフルを追う(1)「チームを出たい」と言った理由は【NFL】備忘録 エースQBのシャッフルを追う(2)「期待」「失意」「再起」5,6年目の3人の場合「ブレイディ2世」との争いに敗れ、チームから放出・・・元ペイトリオッツQBニュートン 米プロフットボールNFLのニューイングランド・ペイトリオッツは、ルーキーのマック・ジョーンズを先発QBに起用することを決めた。そして現地8月31日、元リーグMVPのQBキャム・ニュートンをシーズン開幕前の最終ロースターカットで、放出した。
プレシーズンゲームでの内容から、ジョーンズの先発昇格は時間の問題と見られていたが、プロでの実績はゼロ。ニュートンの今季の契約は控えQBであれば、510万ドルのキャップヒットとリーズナブルだったため、経験を買ってチームに残すと予想するメディアが多かった。
プレシーズンゲーム3戦の成績は、ニュートンが39回スナップを受け、パス14/21で成功率66.6%、162ヤード、1タッチダウン(TD)、1インターセプト(INT)。ジョーンズは107回スナップを受け、36/52で成功率69.2% 、389ヤード、1TD、INTはゼロだった。
ジョーンズのプレシーズンのプレーは、数字以上に印象的だった。プレシーズンゲームでは、プレッシャーに動ぜず、落ち着いて持ち前のクイックリリースから正確なパスを投げ分けた。
ニューヨーク・ジャイアンツとのプレシーズン第3戦では、5レシーバーのエンプティーも含めた各種の隊形を使いこなした。アラバマ大学時代には、比較的経験の少なかった、アンダーセンターからのドロップバックのパスも正確に決めていた。
ペイトリオッツとしては、トム・ブレイディ時代に最も近いオフェンスを展開していた。ジョーンズが試合後に「ゲームの流れ」を感じたと語っていた通りの試合だった。
一方のニュートンは、先週、新型コロナウィルス感染症予防のチームプロトコールを「誤解」していたために、練習を3日間欠席せざるを得ず、ジャイアンツ戦ではパス2/5、10ヤード、1INTと精彩を欠いていた。
今春のドラフトで1巡15位でペイトリオッツの指名を受けたマック・ジョーンズは、2020年シーズンにパス獲得距離(4500ヤード)、パス成功率(77.4%)、パサーズレーティング(203.1)が全米1位、パスTD数(41)が全米2位という驚異的な活躍でアラバマ大を全米王座に導いた。成功率とレーティングは前年にジョー・バロウ(ベンガルズ)が作ったばかりの記録を更新して史上最高となった。
アラバマ大は、今春のNFLドラフトで、オフェンスからジョーンズ以外に4人の選手が1巡指名を受けるほど、豊富なタレントのチームだったために、「ジョーンズの好成績はキャストがそろったチームにいたから」という見方は根強かった。一方で、日本でもプレー経験のある元ミシガン大QBデビン・ガードナーや、QBトゥア・タゴバイロア(ドルフィンズ)が「ブレイディによく似たスキルセットを持つQB」と評していた。
放出されたニュートンの行き先は、9月9日現在決まっていない。
足切断の危機から、奇跡のカムバック遂げるも引退を選択・・・元ワシントンQBスミス 2020年、右足の重傷から奇跡的な復活を遂げた、ワシントン・フットボールチームのQBアレックス・スミスがチームから放出され、最終的に引退を決断した。
スミスは2018年11月の対テキサンズ戦でサックされ、右足のすねを複雑骨折した。折れた骨の一部が皮膚を破って飛び出してしまう開放性骨折という重傷だった。そして予後が悪く、壊死性筋膜炎を併発してしまった。計17回の手術を重ねたが、最悪の場合、膝関節から下の脚部を切断する危機があったという。スミスは現役復帰を誓い、辛いリハビリに耐えた。負傷から1年8カ月、昨年のワシントンのサマーキャンプに復帰した。
先発QBドゥエイン・ハスキンスの問題行動や、2番手のカイル・アレンも負傷でスミスは第8週からスターターとなり、チームは第10週からは4連勝を記録した。その中には開幕から11連勝していたスティーラーズを破る殊勲も含まれていた。しかし、ワシントンは、ワイルドカードプレーオフで、無名の若手QBテイラー・ハイニケが活躍し、QB状況が変化していた。
スミスは、奇跡的な復帰を評価されてNFLの「カムバック・オブ・ザ・イヤー」を受賞するが、3月に入ってHCのロン・リベラに、自分を放出するように求めていた。その後、大学時代の師匠だった、ジャガーズ新HC アーバン・マイヤーと面談したうえで引退を決めた。
ワシントンはスミスを放出した後、ドルフィンズから38歳のベテランQBライアン・フィッツパトリックと契約を交わした。フィッツパトリックはスミスとはドラフト同期だが、全体1位指名のスミスに対し、7巡250位指名。ハーバード大学出身の頭脳で、どのようなオフェンススキームも短時間で習得する凄腕のジャーニーマン(旅人)QBとして、8チームを渡り歩いてきた。全チームで先発として3試合以上を経験、6チームでは二桁のスターター経験がある。
ワシントンは、今ドラフトでQBを上位指名せず、シーズン開幕前にフィッツパトリックが先発と発表した。
「三羽烏」最後の生き残り、3回目のスーパーV夢見て現役続行・・・スティーラーズQBロスリスバーガー
引退か、現役続行か、去就が注目されていたピッツバーグ・スティーラーズのQBベン・ロスリスバーガーが契約を再構築して、チームに残留することになった。新たな契約は実質1年。2005年シーズン、2008年シーズンにスーパーボウル優勝を達成したベテランは、3度目の制覇を夢見て、現役を続行する。
3月2日で39歳になったロスリスバーガーは、2004年のドラフト1巡指名。同期の「三羽烏」のうち、イーライ・マニング(元ジャイアンツ)は2019年終了後に引退。チャージャーズからコルツに移籍したフィリップ・リバースも2020年で引退した。
ロスリスバーガ―は、2019年は、右ひじの故障で、開幕2戦目の途中から欠場した。再起をかけた昨シーズン、開幕11連勝と絶好調だったが、終盤で対戦チームにショートパス中心のオフェンスを攻略され、1勝4敗と尻すぼみ。ワイルドカードプレーオフでもインターセプトを連発して宿敵のクリーブランド・ブラウンズに敗退し、シーズンを終えていた。チームの伝統から外れたラン軽視・パス偏重のオフェンスが最後に禍となった。
スティーラーズの控えは、メイソン・ルドルフと、ドウェイン・ハスキンスで、共に得点力ではロスリスバーガーに遠く及ばない。ドラフト1巡でRBナジ-・ハリスを指名して低迷していたラン攻撃強化に乗り出し、大ベテランQBの援護をする構えだ。(終わり)