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2021-10-01

【ボクシング】「明日、勝ったら、世界を口にしていいのかな」。福永亮次が保持する3つのベルトの防衛戦

和製パッキャオとも呼ばれる強打者、福永(左)は不敗の梶の挑戦を受ける

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 日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィックと3つのチャンピオンベルトがかかった12回戦、チャンピオンの福永亮次(35歳=角海老宝石)対挑戦者の梶颯(24歳=帝拳)の一戦は2日、東京・後楽園ホールで行われる。両者は1日、前日計量をパスした後、オンラインによる取材に応じ、ともに勝利への意欲を語っている。

 このところ福永の評価は一戦ごとに高まっている。8年前にプロになったころは、「チャンピオンを目指して始めたわけじゃなかったから」、そのキャリア作りは緩慢だった。やがて6連続KOをマークして注目されるようになっても2018年には2連敗。すでに30代も半ばに差しかかったころで、もはやこれまでとファンも思い込んだ時期もある。だが、そこから4連続KO。スリムなサウスポースタンスから繰り出す強打で、3つのタイトルを一気に手に入れた。昨年12月の中川健太(三迫)戦、さらに今年6月の藤井貴博(金子)戦では技術の細部に相当のてこ入れがほどこされた形跡が見えた。今や“和製パッキャオ”と呼ばれる理由は、どこか似ているその容貌ばかりが理由ではなくなった。

「梶選手は強い。回転力があって、詰めも鋭い」

 自分より11歳も年下のチャレンジャーについてそう語りながらも、その口ぶりには余裕もうかがえた。福永にとっては、対戦相手がだれであろうと、この一戦にかける思いがある。ようやく次の扉を開けられるかどうか、だ。ボクシングでの本懐に向けての、最後のテストマッチという腹づもりなのだ。

「梶選手に勝ったら、世界を口にしてもいいのかなと思っています」

 世界王座は今の福永にとってまじかに見えているわけではない。

「井岡(一翔)選手は、まだ雲の上にいるように見えます」

 そんな頂点へ挑みたいと誓うからには、まずは自分の力を周囲にも自分自身にも証明したい。ただ、だからと言って、福永に気負いは見えなかった。

「調整はふだんどおりです。スパーリングはむしろ少なめだったかもしれません。相手がどんな形で来ても対応できるようにしてきました。それに最終的にはKOしたいですね」

 腰にする3本のベルトが、福永の自然体の野心をさらに追い炊きしているのは間違いない。

 挑戦者の梶は新人王になったころは、輝ける次世代の星だった。連勝は続き、15(9KO)まで伸びてきてもいが、その勝利の中には重く澱んだ試合内容のものもいくつか含まれる。全日本新人王から6回戦に昇格して5年以上になるのに10回戦の経験はない。ちょうど1年前の矢島大樹(松田)戦で2度のダウンを奪い、本来の右パンチの切れ味をようやく垣間見せた。

「コロナ渦で練習も思うようにはできませんでした。7月ごろ、試合が決まって、それもタイトルマッチ、さらに3本のベルトがかかると聞かされて、試合ができる喜びよりも驚きのほうが大きかったです」

 福永が難敵なのは承知している。

「リーチが長く、サウスポーらしい戦いをします。しっかりと前にも出て打ってきます。独特の間合いもあります」

 それだけの高い壁だから、自分の力をフルに発揮して打ち破れることできれば、見える世界も変わってくる。「6回戦を戦うようになってから、時間の流れの長さを感じてきました」。彼が見てきたまどころっこしい風景も、一気に高速で行き過ぎるようになるはずだ。

「数少ないチャンスをもらったのだから、しっかりとものにしたい」

 減量は1ヵ月半前から開始した。豊富なパートナー相手のスパーリングも、常に上向きの調整の中で積み上げてきた。あとは思いきって戦うだけだ。
元日本王者同士のライバル戦、田村亮一(左)対久我勇作戦も行われる
元日本王者同士のライバル戦、田村亮一(左)対久我勇作戦も行われる

 なお、この試合の前には日本スーパーバンタム級最強挑戦者決定戦8回戦が行われ、元日本チャンピオン同士が対戦する。田村亮一(34歳=JBスポーツ)と久我勇作(30歳=ワタナベ)だ。両者は過去2度グローブを交え、いずれもクロスファイトの末に久我が判定勝ちを収めている。とびきりの強打がありながら、安定感を欠いたまま勝利から遠ざかっている久我が久々に本領を発揮するのか。好戦派、田村が今度こそ押し切れるのか。こちらも注目したい戦いだ。

文◎宮崎正博 写真◎帝拳ジム提供

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