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2021-10-16

【ボクシング】元世界王者対決は江畑佳代子が有終の美飾る/すでにチャンピオン級! 晝田瑞希が鮮やかにプロデビュー

江畑の右が池山にヒット

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 15日、東京・後楽園ホールで行われた48.3kg契約6回戦は、元WBO女子世界ミニマム級王者・江畑佳代子(45歳=ワタナベ)が、元同アトム級王者・池山直(52歳=フュチュール)から最終回にダウンを奪った末の3-0判定(59対54、59対54、58対55)勝利。「ラストファイト」と試合前から公言していたとおり、有終の美を飾った。また、アマチュア全日本王者からデビュー(スーパーフライ級6回戦)を迎えた晝田瑞希(ひるた・みずき、25歳=三迫)は、山家七恵(やまか・ななえ、30歳=中野サイトウ)を初回に倒し、その後も危なげなく試合を進め、3ジャッジとも60対53の3-0判定で完勝した。

文_本間 暁 写真_菊田義久

 最終回。ブレーク後、両者の間に長い距離ができた際の出来事だった。逸る池山が一気に距離を縮めようと右を振りながら突進すると、江畑は計ったかのように同時に右を打ち下ろす。これがものの見事なカウンターとなると、池山は一瞬の間を置いて、フラつきながらキャンバスに倒れ込んだ。

 立ち上がった池山の足は定まらないが、幸運も重なった。ダウン宣告をしたレフェリーが、ジャッジ三者とインスペクターに“ダウンかスリップか”の確認を取った間があり、若干ダメージを回復。クリンチも利用して、辛くも追撃は拒否した。しかし、江畑の勝利は誰の目にも明らかだった。最後の最後で、あの一撃を決めてみせたところは“役者”だった。

 左足を前に出したかと思えば、一転して引いて、左右に動かす独特のステップは健在だった。ゆったりと、緩やかな足運びでリズムを取り、決して力感はないが、タイミングを計りかねるワンツーを小気味よくヒットする。右を振るいながら飛び込んでいく池山は迫力の点では上回るが、江畑が距離でかわし、適切なクリンチで池山の攻撃を切る。池山はクリンチ際に強引に右を叩きつけようとするが、江畑は頭を上手くずらしてこれを回避。要所要所で池山の入り際に右クロスを決めて、ポイントを積み重ねた。

試合後に行われた引退式で、江畑は感極まって涙
試合後に行われた引退式で、江畑は感極まって涙

 試合終了のゴングが鳴ると、ふたりは笑顔でしっかりと抱き合った。ともに互いのことをよく知るだけに、労いの想いがあふれたのだろう。その時間は、とても長いもの。いい光景だった。

 6度目の挑戦(2017年5月)で悲願の世界王座に手を届かせた“苦労人”は、ひとしきり涙を流した後に周囲への感謝を述べ、アマチュアから数えて22年間のボクサー生活を「苦しいことの方が多かった」と振り返った。そして最後に「大好きなボクシング、今日で選手としては終えます」と宣言。しゃがみこんで、名残惜しそうにキャンバスに両手を置いた。きっと、彼女なりのリングへの感謝の表現だったのだろう。
「今後は一般会員としてジムを訪れるかもしれません」と笑いを誘ったが、味のあるステップワークを、ぜひ後進に伝えてほしい。20戦12勝(6KO)8敗。

 敗れた池山は、6度防衛後、引き分けを挟んで3連敗。さすがにかつての姿からは衰えを感じさせられた。年齢の面ではなく、パフォーマンスの点を慎重に見極めてほしい。19戦10勝(2KO)6敗3分。
※リングアナウンサーは、江畑の獲得王座を「ミニフライ級」とコールしたが、これはWBOの呼称で、JBC(日本ボクシングコミッション)では「複数の呼び名は紛らわしい」として「ミニマム級」に統一している。

プロでは私が革命を起こす!

 初回から、エンジン全開だった。サウスポー同士の一戦、いきなり左を振るって宣戦布告した山家に対し、晝田は右腕を上下に動かしながらリズムとタイミングを計り、左ストレート。これで山家の右目上をカットさせると、さらに左から返しの右フックで山家に尻もちをつかせた。

初回、晝田は右フックでダウンを奪った
初回、晝田は右フックでダウンを奪った

 晝田は身長に優り、懐も深く、スピード、テンポも速い。山家も小気味よい攻撃に定評があったが、晝田の“右腕”に翻弄され、ジャブのタイミングを最後までつかめなかった。晝田のワンツースリーの合間に、勇気をもってステップインし、左を振っていき、それが何度か晝田を捉えたものの、その後が続かない。いや、晝田が続けさせない。

笑顔で勝ち名乗りを受ける晝田
笑顔で勝ち名乗りを受ける晝田

 晝田はアマチュア選手特有の“正面での戦い”に山家をロックオンしたまま戦い通した。そこにはめ込んだ“前の手の使い方”が見事だった。最後の最後まで気迫を失わない山家の執念を味わえたこと、6ラウンドフルに戦えたことは大きな収穫だろう。今後、レベルの高いステージへ行くごとに、“正面の戦い”ができなくなっていく。そこについての対策は、加藤健太トレーナーと始めていることだろう。

 東京五輪出場の夢を絶たされた相手は、フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈(日本体育大学)。その入江はリングサイドで観戦し、試合後には一緒に会見に応じた。
「期待されてる中で勝つことの難しさは私自身も分かっているので、しっかり勝ち切る晝田さんは本当にすごいなと。バックステップしてからの左ストレートの速さも、試合で私自身がカウンターでもらったので、そのすごさは体で分かっているし、本当に晝田さんはすごいなと思いながら見ていました」と絶賛した。

「アマチュアで入江さんが革命を起こしたように、プロでは私が革命を起こしたい」と晝田。狭い日本にとどまらず、ハイレベルな選手が多いイギリスなどを、早くから視野に入れて励んでほしい。

かつてのライバル、入江とともに会見に臨む 写真_船橋真二郎
かつてのライバル、入江とともに会見に臨む 写真_船橋真二郎

 敗れた山家は、まんまと真正面のボクシングにはめ込まれてしまったが、気持ちの強さだけでなく、ステップインの迫力などは目を瞠るものがある。晝田の技術をぜひ学んでほしい。5戦4勝(2KO)1敗。

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