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2021-11-12

【ボクシング】井上拓真が快勝。和氣慎吾からダウンを奪ってWBO・AP王座奪取

鋭い右に、切り返しの左フック。井上(左)は危なげなく和氣をコントロールしていった

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 WBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王座決定戦、井上拓真(25歳=大橋)対和氣慎吾(34歳=FLARE山上)の12回戦は11日、東京・後楽園ホールで行われ、4ラウンドにダウンを奪った井上が終始、主導権を握って戦い、大差判定勝ちを収めた。元WBC世界バンタム級暫定チャンピオンの井上は、この勝利で東洋太平洋のスーパーフライ級、バンタム級に次ぎ、アジアの地域タイトルの3階級制覇に成功したことにもなる。

 試合結果は現時点での実力の差以外の何物でもない。井上は狙う右カウンター、それ以上にシャープに見えた左フックを駆使し、かつて東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルの5連続KO防衛をマークしたこともある危険な長身サウスポーに何もさせなかった。それでも記さなければいけない、この不幸。あまりに偉大な兄(井上尚弥)のせいで、試合後のコメントは「ホッとした」に続いて反省の弁から始めなければならなかったのだ。

 身長、リーチで10センチ以上ものハンデがある井上は、リードブローをほとんど出さないまま自分の距離を作り出す。出足こそ、わずかに和氣の強打の気配がリングに漂っていたものの、4ラウンドが開始されてすぐ、すべては井上のほうへと展開が広がっていく。右のカウンターが鮮やかに決まってダウンを奪ったのだ。
右ストレートがジャストのタイミングでヒット。4回、井上は先制のダウンを奪った
右ストレートがジャストのタイミングでヒット。4回、井上は先制のダウンを奪った

 この日の前まで14勝3KO(1敗)というKO率以上にパンチの威力を持つ井上は、すぐさまフォローアップを開始する。左フックを効果的に決め、右のボディブローも強かった。だが、ここぞの一撃が大振りになって倒しきれない。残念ながら、このビッグチャンスが行き過ぎた後は、ヤマ場の乏しいままの一方的な内容がひたすら続いていく。

 和氣の凄味はダウンを境に急激に減退していったものの、完全に無視することはできなかったのだろう。井上はカウンターをちらつかせながら、確実にポイントをピックアップしていく。

 9ラウンドを迎えたころ、井上の攻撃のピッチはわずかながらも上がってくる。巻き返したい和氣の手数は増やそうとするのだが、ライバルの鋭い切り返しに守勢に回ってしまう。それでも、最後の2ラウンドは和氣の攻勢が目立っていたが、井上は余裕をもってやり返し、そのまま終了ゴングまで無難に戦い抜いた。

 採点はジャッジ3者とも117対110としていた。
これでアジア圏の地域タイトルの3階級目のタイトル獲得したことになる
これでアジア圏の地域タイトルの3階級目のタイトル獲得したことになる

「ダウンの後ですね。拓真にももっと引き出しがあって、それが本人もわかっているはずなのに引き出せない。それが一番の課題です」

 父である真吾トレーナーの言葉に、井上拓真もうなづくばかり。本来のバンタム級から1階級上げ、なおかつ、そのクラスのエース格相手に余裕残しで勝ったことは評価できる。ただ、その「余裕残し」が物足らなさを感じさせたのも事実。「世界しか見ていません」という井上が新しい扉を開いたとき、本物のモンスター・ブラザースが登場するはずと期待したい。大橋秀行会長によると、井上はすぐにバンタム級に戻るという。世界タイトルは「チャンスがあれば、いつでも」。案外、その大きな戦いが、新生・拓真が誕生するきっかけになるかもしれない。

文◎宮崎正博 写真◎菊田義久

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