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2018-11-24

【JXBトーナメント準決勝展望】 「4番」昇格 QBバードソン=富士通フロンティアーズ

社会人アメリカンフットボール・Xリーグは、11月25日にジャパンXボウル(JXB)トーナメントの準決勝がある。富士通スタジアム川崎では富士通フロンティアーズとオービックシーガルズが対戦する。3連覇を狙う王者・富士通の今を探った。

【富士通 vs オール三菱】落ち着いてパスを決める富士通のQBバードソン。オフェンスの顔となって来た=2018年11月10日 撮影 Yosei Kozano

フットボールのオフェンスを野球の打線に例えるなら、今秋の富士通は開幕からしばらくの間「4番打者」は明らかに、RBトラショーン・ニクソンだった。開幕のIBM戦で、214ヤード3タッチダウン(TD)を皮切りに4試合で752ヤード11TD、ラッシングのシーズン記録を更新する活躍でチームをけん引した。

一方、QBマイケル・バードソンは、4試合でパス622ヤード4TD。インターセプトこそ1本だけだったが、ワイドオープンになっているレシーバーにパスが通らなかったり、成功してもランアフターキャッチにつながらないようなターンボールのパスだったり、記録に残らないミスがあった。

【富士通 vs IBM】開幕戦、富士通WR中村クラークを狙ったQBバードソンのパスは、微妙にずれていた=2018年8月26日 撮影 Yosei Kozano

ただ、開幕戦が「打順・6番」でのスタートなら、第3節の三菱戦以降は「5番」に上がり、第4節のノジマ相模原戦では、勝負強く確実なクオーターバッキングを見せていた。

藤田智ヘッドコーチ(HC)は、今季の試合後にたびたび「このオフェンスは伸びしろがある、もっともっとよくなるはずだ」と語ってきた。それは、強肩バードソンとレシーバー陣への期待感だとわかっていた。

バードソンが、「4番」に昇格したのは、前回のオービック戦(第5節、10月7日)の試合中だった。1
本のパスが転機となったように思える。第3クオーター(Q)、WR宜本潤平に決めた37ヤードのロングパスだ。

【富士通 vs オービック】第3Q 富士通QBバードソンがWR宜本潤平にオンタイミングで、ロングパスを投げ込む。転機となるパスだった=2018年10月7日 撮影 Yosei Kozano

サードダウンでファーストダウン更新まで残り3ヤード。今季の富士通なら当然ニクソンのランだったが、その前2プレーがニクソンのランだった。バードソンはショットガンから一瞬ダウンフィールドを見ると躊躇なくパスを投げ込んだ。DBのカバーを振り切った宜本がそこにいた。軽くジャンプしてキャッチした宜本はフィールドを横切って快走し、エンドゾーンに1ヤードまで迫るパスとなった。

宜本は「僕の考えているコースと、バードの考えているコースが一緒だった」という。元々は違うプレーだったが「フィールドの中央が空いていたので、そこを走りたいという僕の考えと、そこへ投げようというバードの意識が一緒だった。そういう形でパスが決まったのは大きかった」と、試合後に語った。
バードソンは、この3本前から10回連続でパスを成功させ、試合を終えた。パスは205ヤード、ディフェンスがリードできていたのか、ランでも第4Qに31ヤードTDを決めた。ニクソンが試合後半負傷で出られなくなった中で、オービックの強力ディフェンスを相手にオフェンスをけん引したのはバードソンだった。明らかに何かを掴んだようだった。

【富士通 vs オービック】第3Q 富士通QBバードソンのパスをキャッチしてロングゲインしたWR宜本潤平。QBとWRの意思が噛み合ったパスだった=2018年10月7日 撮影 Yosei Kozano

2週後、レギュラーシーズン最終節のパナソニック戦(10月20日)、バードソンは、負傷でニクソンを欠く中で、文字通り攻撃の中心として、オービックと並んで国内最強クラスのパナソニックディフェンスを攻略した。パスで2TD、ランでも76ヤード。まさに「4番」の働きだった。

11月10日、JXBトーナメント準々決勝のオール三菱戦。バードソンのパスは冴えていた。第3Qの途中で退いたが、22回投げて17回成功、221ヤード4TD。ランでも、スクランブルではなく、デザインされたオプションで1TD。

何より藤田HCが、手ごたえを感じたのが、エースWR中村輝晃クラークとのコンビネーションだろう。去年までのNo.1ターゲットが今季初めて1試合100ヤード超え。そのうちバードソンからは6本84ヤードで2TDパスをキャッチした。2本とも、エンドゾーンの隅ギリギリにコントロールした難しいパスだった。

【富士通 vs オール三菱】富士通のQBバードソンからのパスをキャッチしたWR中村クラーク=2018年11月10日 撮影 Yosei Kozano

今のバードソンは、10月のオービック戦の冒頭で喫して以降、63回連続でインターセプトがない。195センチ110キロの巨体ながら高い運動能力と強いフィジカルを持ち、パスラッシュにも容易に屈しない。シーズン後半、パスが決まるようになってから解禁した感のある、リードオプションからのランも、スピードに乗ると止められない。

9月末に小欄で、

「バードソンが覚醒して、リーグ屈指の富士通レシーバー陣とかみ合ってきた時、手が付けられなくなるのかもしれない」と書いた。

今まさに、そうなりつつある。そして、負傷から復帰のRBニクソンも、バードソンの台頭によって、マークが薄くなる分、ビッグプレーのチャンスが増える。

バードソンが「不動の4番」としての地位を確立できるか。それは準決勝で、国内最高クラスのパスラッシュディフェンスを持つオービックを撃破できるかどうかにかかっている。オービックをオフェンスの力で乗り越えた時、ファンも関係者も、前任者コービー・キャメロンの名を口にしなくなるだろう。

【富士通 vs オール三菱】オフェンスリーダーとしての風格が出てきた富士通のQBバードソン=2018年11月10日 撮影 Yosei Kozano

もう一点、触れておきたい。バードソンとオービックのQBスカイラー・ハワードの間には、過去、接点があった。昨年5月、NFLシアトルシーホークスのミニキャンプで、2人は一緒だった。2人ともチームには残れなかったが、先にカットされたのはスカイラーだったとも聞く。前回の対戦では、試合はバードソンが勝ったが、個人のスタッツでは、スカイラーが、獲得ヤードとTD数で、パス・ラン共に上回った。お互いに秘めたライバル心があるに違いない。

【写真・文:小座野容斉】

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