close

2021-11-21

【ボクシング】ウェルター級戦国時代の予感!? クロフォードがポーターを白熱技術戦の末にTKO

どこまでもハイレベルでスリリングな技術戦。クロフォード(右)の切れ味が最後に上回った

全ての画像を見る
 WBO世界ウェルター級タイトルマッチ12回戦は20日(日本時間21日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで行われ、チャンピオンのテレンス・クロフォード(34歳=アメリカ)が挑戦者のショーン・ポーター(34歳=アメリカ)を10ラウンド1分21秒TKOで破って、5度目のタイトル防衛に成功した。無双の強さと評価されながら、強敵との対戦がなかったクロフォードは、エネルギッシュにして技巧にも長けたポーターとスリルあふれる戦いを制し、今後、ウェルター級のトップ戦線への参戦に望みをつなげた。

熱狂の中にクロフォードは常にクールだった

 合計28分21秒の戦いの中には、両選手が持つきわめて高いポテンシャル、アイデアがふんだんにつまっていた。それ以上に両者の激しい闘志が真正面からぶつかり合った。危険なバッティング、互いの足先を踏みつけ合ったりとダーティーテクニックの応酬も織り込まれたが、それも、なんとしても勝ちたという思いの表れ。極上の技術戦を汚すものではなかった。1万1000人の観客で満員札止めになったミケロブ・ウルトラアリーナ(マンダレイリゾート)は、何度も熱狂の炎がわきたち、歓声で充満した。

 そんな戦いだったが、戦術の限りを尽くして戦ったポーターに攻勢を許しながらも、常に冷静に戦い抜いたクロフォードが一瞬のすきを見逃さなかった。10ラウンド開始早々、あざやかな左アッパーカットでダウンを奪い、さらに鋭利なパンチで追い詰めたあと、右ストレートをテンプルに打ち込んで再び倒す。悔しがるポーターは何度も右拳でキャンバスを殴りつけた後で立ち上がったが、父親であるチーフセコンド、ケニー・ポーターがリングエプロンに上ってタオルを振って降参の意志をしめした。あとで発表された途中経過のスコアは86対85が2人、87対84が1人でいずれもポーターの有利としていた。
右フックが決まり、ポーターはずるずると崩れ落ちる。この後、セコンドが棄権の意思表示をして戦いは終わる
右フックが決まり、ポーターはずるずると崩れ落ちる。この後、セコンドが棄権の意思表示をして戦いは終わる

“ラストチャンス”でもあわてず騒がず

 すでに3階級制覇、この日の前まで世界戦で8連続KO・TKO勝ちを続けているクロフォードにとって、この日の戦いはずっと長い間、待ちわびたものだった。所属するトップランクプロモーションと、ウェルター級に強力な選手をそろえるPBC(プレミア・ボクシングチャンピオンズ)は犬猿の仲。だれもが認めるパウンドフォーパウンドのランキング上位でもずっと冷や飯を食わされ続けてきたのだ。アマチュア時代から仲のいいポーターがPBC陣営ながらも対戦に応じてくれたことはまさしく天の助け。エロール・スペンス、キース・サーマン、ダニー・ガルシア、ヨルデニス・ウガス、さらに超新星ジャロン・エニスと、まさしく巨大軍団と化しているPBCという新しい戦場に足を踏み入れるためには、ここに勝つことこそがラストチャンスだった。

 だが、クロフォードはマイペースに戦い抜く。サウスポーでもオーソドックスに構えても同等の力で戦えるWBOチャンピオンは、立ち上がりはオーソドックスで戦い始める。カウンターの気配をちらつかせても、用心深く左フック、右ストレート飛ばしてくるポーターに対し、さっそく目先を変える。2ラウンド以降はずっとサウスポーで戦った。

 ポーターにはそれも織り込みずみだったのだろう。距離を置いた場所に立ち、いきなり飛び込んでのアタックでクロフォードに的を絞らせなかった。まともなヒットはなかったが、より攻撃的な姿勢を見せていたのは、どのときもポーターのほうだった。

 スロースターター気味のクロフォードは、4ランドから巻き返しにとりかかる。右のフック、長距離で打ち込む左のボディアッパーは強い。もともとリーチでは10センチ以上も上回る。さらにその長距離から打ち込むパンチはどれもこれもキレッキレ。試合はそのまま、クロフォードのペースで進むかに見えた。

 だが、ポーターが食い下がる。ラウンド序盤にクロフォードに攻めさせても、その後、1度、2度、強引に距離を潰しての連打で攻撃をアピールする。互いにポイントを取り合うシーソーゲームのなかでのポーターの頑張りだったが、こういう戦法がエネルギーを過度に使うことになっていったとしても仕方ない。

 9ラウンド、ポーターのペースがはっきりと落ちる。クロフォードのパンチの精度が上がってくる。そんな流れを断ち切りたい。ポーターは10ラウンドの開始早々、いきなり打ち合いに行った。対戦者の動向をつぶさに観察していたクロフォードは待ってましたとばかりに、冷徹なブローでこれをはじき返し、試合を終わらせてみせた。
ポーターは辛抱強く、また、考え抜いた戦法でクロフォードを苦しめた
ポーターは辛抱強く、また、考え抜いた戦法でクロフォードを苦しめた

「誰と戦いたい? 言うまでもないじゃないか」

「無理をしないと私に勝てないとショーンはわかっていたのだと思う。だから、自分としてはだんだんとアングルを変えながら攻撃して、勝利を引き寄せたんだ」と語ったクロフォードは「今後のことはわからない。だれと戦いたかって? そんなこと言わなくても分かっているじゃないか」。この日、観戦にやってきたPBC勢のトップ、エロール・スペンスこそが、クロフォードがあえて口にしなかった望みの相手なのは疑いようがない。38戦38勝(29KO)。

 好漢ポーターは悔しさを押し殺しながら笑顔交じりに語る。「自分ではまだ戦えるつもりだったが、ケニーにはもう戦えないと見えたのだろうね。クロフォードはダイナマイトのように強かった。ベストの選手だと思う。もう1度、戦いたい」。息子が深いダメージを負うことを救ったケニーは「さまざまな手立てをやってみたが、クロフォードのやること全部に対応できなかった。相手が一枚上だった」。36戦31勝(17KO)4敗1分。スペンス、サーマンらに接戦の末に敗れているが、ストップ負けは今回が初めてだった。

文◎宮崎正博(WOWOW観戦) 写真◎ゲッティ イメージズ

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事