9月28日(日本時間29日)、カリフォルニア州ロサンゼルスで行われたWBC・IBF世界ウェルター級王座統一戦で、IBFチャンピオンのエロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)がWBCチャンピオンのショーン・ポーター(アメリカ)からダウンを奪い、2-1の判定で下した。ジャッジ二者が116対111でスペンスを支持。残る一者は115対112でポーターにつけた。IBF王座4度目の防衛に成功するとともに2本目のベルトを手に入れたスペンスは、26戦全勝(21KO)。ポーターは2度目の防衛に失敗し、戦績は34戦30勝(17KO)3敗1分となった。
上写真=スペンスが鋭い左でポーターに迫る
チャンピオン同士の戦いとはいえ、全階級現役最強トップ10に名が挙がる“次代の大スター”、スペンスの圧倒的有利とみられた戦い。しかしその12ラウンドは、想像を超える“アンダードッグ”ポーターの大奮闘とスペンスの勝負強さによって、大いなる盛り上がりをみせた。
勇気ある踏み込みを示し続けたポーター(左)
立ち上がり、長身サウスポーのスペンスに対し、ポーターは出入りの駆け引きでスペンスを戸惑わせることに成功する。2回にはポーターの右フックでスペンスがロープに吹っ飛び、苦笑い。4回はがっつり打ちに行ったポーターのビッグラウンド。インファイトに持ち込んで、スペンスの左フックにひるむことなくアッパー、ボディと手を出した。
出バナを挫かれたかたちのスペンスだが、ここで冷静さを失わず、こつこつと上下を打ち続けたことは大きな勝因と言っていいだろう。5回に左のボディストレートでポーターの猛攻を挫き、左カウンターを連発。ボディ攻撃も厳しさを増していく。注目を集めた世界4階級制覇者マイキー・ガルシア(アメリカ)との前戦ではアウトボクシングを披露したが、「元来、アグレッシブなんだ」と、今回は激しいアクションの中で着々とポイントを獲り返していった。ハイレベルで緊迫感ある攻防に、16702人の観衆で埋まった会場は大興奮に包まれる。おのずと記者席からも拍手が上がった。終盤、ジャブを連射してチャンスを探るポーターに対し、スペンスは左のクリーンヒットで優位を印象づけ、そして11回のこり1分、左の一撃でダウンを奪うのだ。立ち上がったポーターの表情にダメージははっきりと映ったが、引かずに戦い続ける。場内総立ちの最終回、終了のゴングを聞いてどちらも手を上げられないくらい、ともに精根尽くした戦いだった。
無敗キープと同時に、WBC王座も吸収したスペンス
試合後の記者会見に現れたスペンスの右目にははっきり腫れがみえる。ポーターから「思ったよりオレはテクニックがあっただろう?」と聞かれ、「ああそうだね」と素直に答えた勝者は、ウェルター級トップ選手をごっそり抱えるPBC(プレミアボクシングチャンピオンズ)の“同級最強決定トーナメント”を、ひとつ勝ち上がったことになる。7月に前WBAスーパー・WBC王者キース・サーマン(アメリカ)を下し、現WBAスーパー王者となった世界6階級制覇のレジェンド、マニー・パッキャオ(フィリピン)とこのスペンスの新旧対決が、“決勝”となることが濃厚だが、それは来年の話。今回、試合後のリングに上がった世界2階級制覇者ダニー・ガルシア(アメリカ)がスペンスの次戦の相手となるとみられる。
しかし、会見でスペンス自身は階級アップも視野に入れていることを明かしており、PBCのプランどおりに進むかはわからない。まして、プロモーターの壁もあるWBOウェルター級王者テレンス・クロフォード(アメリカ)とスペンスの真の最強対決は、ファンがいくら見たいと望んでも、幻のまま時が過ぎそうだ。
状況をみれば、敗れたポーターが熱望する「再戦」はどうしても難しい。だが、ちょうど1年前、世界王座に返り咲いたダニー・ガルシアとのWBC王座決定戦を超えて、今回の戦いが自身のベストバウトとなったことは間違いない。
ベナビデスを悪びれることなく祝福するディレル
このアンダーカードでは、WBC世界スーパーミドル級タイトルマッチが行われ、前チャンピオンのデビッド・ベナビデス(アメリカ)が現王者アンソニー・ディレル(同)を9回1分39秒KOで破り、王座に返り咲いた。ディレル陣営が棄権の意思を示し、レフェリーが試合を止めたものだが、カリフォルニア州のルールで記録はKOとなる。
数字上は、ベナビデスが身長187cm、ディレルが188cm。とはいえ一見してベナビデスのフレームがひと回り大きい。「私の最大の武器はジャブだ」という22歳の前王者は、その壁のような体躯から左ジャブを突き、34歳の現王者にプレッシャーをかけた。
「私は若いベナビデスにボクシングを教えてやるんだ」、そう意気込んでいたディレルは、下がりながらも懸命に右ストレートを打ち上げ、3回には相打ちの左フックを狙い、意地をみせる。しかし、ベナビデスの重いパンチはどんどん勢いづき、5回には右クロス、左ボディブローを打ち込んだ。そして6回、ストレートの連射でディレルの右瞼を切り裂くと、ラウンド残り30秒、ベナビデスが3連打でディレルをダウン寸前に陥れる。しかしここで主審がドクターチェックを要請。試合の流れを切ってしまう。そのあと2度のドクターチェックでも続行を許されたディレルはスイッチを交えながら応戦したが、9回、ベナビデスの左ボディで後退。猛烈に追い込まれ、陣営が棄権の意思を示した。
ベナビデスは22戦全勝19KO。ちょうど2年前、階級史上最年少で空位のWBCスーパーミドル級王座を手に入れ、将来を嘱望されたが、初防衛戦の後にコカインの陽性反応が出て王座を剥奪された。この勝利でかつて保持したベルトを巻き、「頂点に立ったのが若すぎて、リングの外で過ちを犯してしまったが、もう以前の自分ではない」と宣言した。
敗れたディレルは36戦33勝(24KO)2敗1分。プロキャリアの途上で悪性リンパ腫を患った癌サバイバーとして知られる。2014年にサキオ・ビカ(オーストラリア)からWBCスーパーミドル級王座を奪取した後、初防衛戦でバドゥ・ジャック(スウェーデン)に競り負けて陥落。今年2月、ベナビデスが剥奪されて空位となった同王座をアブニ・イルディリム(トルコ)と争い、返り咲きに成功していた。
アフメドフ(右)の突貫攻撃にバリオスは苦戦。彼にとっては代えがたい経験となった
この日行われたもう一つの世界タイトルマッチは、WBA世界スーパーライト級王座決定戦。同級2位のマリオ・バリオス(アメリカ)が同3位のバティル・アフメドフ(ロシア)に判定勝ちし、新チャンピオンとなった。採点は116対111、115対111、114対112の3-0。
WBA・WBCダイヤモンド王者のレジス・プログレイス(アメリカ)がスーパー王者に格上げされて空いた“レギュラー”タイトルを争う一戦。長身ボクサーパンチャーのバリオスが立ち上がりから好調で、4回に右ストレートでダウンを奪う。しかしそこから左ファイターのアフメドフがプレッシャーを強め、猛烈に追い上げる。徐々にバリオスの疲れは顕著になり、10回には左目も腫れてくる。最終回に右カウンターでダウンを追加し、ポイントを獲り返したが、それを加味しても勝利は際どく、バリオスには苦しい戦いだった。新チャンピオンは25戦全勝16KO。リオ五輪ライトウェルター級銅メダリストのアフメドフは、プロ初黒星で、8戦7勝(6KO)1敗。
文_宮田有理子 Text by Yuriko Miyata
Photos by Frank Micelotta/Fox Sports
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