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2021-12-21

【ボクシング】大みそか世界戦。代役挑戦者、福永亮次が「人生をかけて戦う」とあらためて宣言

「挑戦者らしく最初からガンガンいきます」と張り切る福永

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 12月31日、東京・大田区総合体育館でWBO世界スーパーフライ級チャンピオン、井岡一翔(志成)への挑戦が急きょ決まった同6位、福永亮次が21日、所属する角海老宝石ジムで会見を開いた。「人生をかけて戦います。そして、人生を変えます」と試合決定直後に残したコメントを繰り返し、その決意のほどをあらためて強調した。

 一本の電話からだった。10日ほど前のこと、型枠大工の職人でもある福永は現場にいた。携帯電話から流れてくる奥村健太トレーナーの声は、確かにこう言っているように聞こえた。

「大みそかに井岡側から挑戦しないかという話が来ているが。どうする?」

 驚いた。井岡対IBF王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)がオミクロン株に対する政府の外国人入国禁止処置の影響で延期になったとき、仲間内からは「話が来るんじゃないか」と言われた。けれど、SNSにアップされた井岡が食事を摂っている姿を見て、「なんだ、やっぱり中止なんじゃないか」と思い込んできたのだ。

 予想外の展開に一瞬、戸惑ったが、こんなチャンスが二度と来るかどうかもわからない。もともと新春15日に自身の試合は決まっていたから、調整もある程度進んでいる。年末の仕事も確定していたが、それも迷う理由にはならない。ジムへの道すがら、仕事の発注元に電話して事情を説明した。ふたつ返事で「今はボクシングに集中してくれ」とありがたい答えをもらった。ジムに着き、すぐさま試合をさせてほしいと返答した。

 代替えで現場に入ってくれる仲間に仕事の引継ぎをして、2日後にはボクシング一本の日々に突入した。朝練、走り込み、午後錬。スパーリングは、約50ラウンドとやはり少な目ながら、急ピッチで仕上げている。
右は奥村健太トレーナー。このコンビができて、福永のボクシングは一戦ごと幅が広がってきている
右は奥村健太トレーナー。このコンビができて、福永のボクシングは一戦ごと幅が広がってきている

「体重はリミットまで残り3・5キロ。だんだんと調子を上げています。大みそかには必ずベストでリングに上がります」

 4階級制覇王者で、読みの深さと技巧の冴えなら当代随一と言っていい井岡が相手。厳しい予想は覚悟している。が、もちろん、敗北を前提に戦うつもりであるはずもない。

「井岡選手はボクサーのお手本のような選手。ぼくにはずっと遠い存在でした。でも、勝機はあると思います。今のところ、自分の中では6-4ですか。もちろん、6が井岡選手ですが」

 15歳で大工の仕事に就いた。若気の至りで少しだけ荒れた時代もあったという。体の中に燃える血気のやり場を探して、ボクシングジムに入ったのが25歳。その気もなかったプロになったのは27歳。それから8年。1度、やめていた時期もある。角海老宝石ジムが3つ目の所属先でもある。顔が似ていて、サウスポーということもあって、リトル・パッキャオというキャッチフレーズがつけられ、2020年に初めてチャンピオンシップ(WBOアジアパシフィック)を手に入れた。15勝14KO(4敗)と強打が自慢で、最近はアウトボクシングでも成長の跡が見えるが、エリートとはほど遠いボクシング人生だった。年齢ももう35歳になっている。高度な技術と体力、集中力が必要な型枠大工の仕事も大事だと思っていても、大みそか世界戦への起用は、彼自身が言うように人生を変えるチャンスであるのは間違いない。

 取材者の1人が言った。いきなり与えられたこのチャンス、「まるで映画の『ロッキー』みたいですね」。福永はわずかに「はて?」という表情を浮かべてから「すいません。観ていません。それに、ロッキーは負けるじゃないですか」。この男、勝ってニューヒーローになれば、きっと人気者になる。

「挑戦者らしく、最初からガンガンいきます」。福永が宣言どおりに戦えれば、試合は白熱する。そして、手練れの名手、井岡はその挑戦者をどうやって困らせるのか。そうなったらパズルゲームのようなおもしろさも予見できる。12月31日の決戦、いよいよ楽しみになってきた。

文・写真◎宮崎正博

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