社会人アメリカンフットボール・Xリーグは、10日にジャパンXボウル(JXB)トーナメント初戦(準々決勝)4試合が、東西の2会場で開催される。4試合のうち、パナソニック・東京ガス戦以外の3試合が、今季レギュラーシーズン中の再戦となる。
10日の横浜スタジアム、オービックシーガルズ(レギュラーシーズン4勝2敗・5位)は、今季第2節に惜敗したノジマ相模原ライズ(同4勝2敗・4位)と戦う。両者は昨年から2シーズンで4回目の対戦だ。雪辱を狙うオービックの今を、第5節の富士通フロンティアーズ戦(10月7日)、第6節のオール三菱ライオンズ戦(10月20日)から探った。
現在のオービックで一番気になるのは、オフェンス。それもエースQBスカイラー・ハワードのパスだ。富士通戦ではパス214ヤード2TD、ラン83ヤード2TDと、復調を感じさせたスカイラーだが、オール三菱戦では、パスはわずか61ヤードと不安を残す結果となった。
そして、今のスカイラーは、数字以上にリズムが悪い。ポケットの中でレシーバーを探しているのだが、カバーされていると判断しているのか投げることができない、持ち過ぎ状態が続いている。タテの長いパスではコントロールが悪く、投げ捨てのようにアウトオブバンズに落ちるボールとなっている。
彼のようなタイプのQBはリズムが大事だ。スカイラーが理想とするNFLシーホークスのラッセル・ウィルソンのようにどんどんボールを動かして、パスやランを仕掛けていくのがよい。
米NCAAフットボールの映像を見ると、現在のカレッジQBはショットガン、スプレッドオフェンスが主流で、アウトサイドのスクリーンパスなど、短い速いタイミングのパスを決め打ちし、後はレシーバーの走力に依存するプレーが多い。
実はスカイラーも同じで、富士通戦、オール三菱戦の3TD中、2本はRBのパスだ。富士通戦の2本目、李卓への65ヤードのTDパスは、本来はファーストダウンを取るためのスクリーンパス。ブロックが良かったのと李卓の走力が優れているためにTDになった。
じっくりとフィールドの中央を狙うパスよりは、短い速いパスを積み重ね、その中で、レシーバーのスピード、ブロッカーのフィジカルで、時としてロングゲインを狙うというプレーが良いように思える。
元来、オービックはフィジカルに優れたレシーバーは豊富にいる。その中で注目したいのは、WR前田眞郷だ。
前田はシーズン中盤まで使われることがほぼ無かった。第4節までの4試合でわずか2キャッチ10ヤード。富士通戦でようやく能力の片りんを見せた。QBスカイラーからの37ヤードの先制TDレシーブでは、富士通のDBを完全に抜き去った後、ボールに合わせて一度スピードをおとすような動きだった。この試合では後半にも、スカイラーから48ヤードのパスをキャッチした。
オール三菱戦では123ヤード、3TDパスをキャッチした。QB菅原俊からの53ヤード、48ヤードの2本のTDはマンツーマンカバーのDBを、スピードで完全に抜き去っていた。
オービックの古庄直樹ヘッドコーチも「今の前田は、ちょっと(頭一つ)抜けたかなという感がある。元々能力は持っていたが、結果が付いてくるようになった」と評価する。
「シーズンが深まるにつれて、QBとの呼吸が合ってきた」という前田。今季は「スタートの一歩を意識するようになった。最初の一歩で、速く、タテに詰めることができるかどうかで、カバーしているディフェンスのプレッシャーが変わってくるから」という。
「日本一を目指すとか、大きな目標のために強くなっていくとしても、結局のところ、目の前のプレーを一つ一つ全力で丁寧にやるだけ。そう考えるようになった」と話す26歳は、9月は第1子にも恵まれ、仕事も含め公私ともに充実している。
オール三菱戦では、西村有斗が96ヤードのキックオフリターンタッチダウン、水野太郎がパス2回で53ヤードと、同期入団のWRが活躍した。「僕ら3人で切磋琢磨しているが、ノリさん(木下典明)とか、まだ不動のレギュラーの人たちが出ている。僕らはそこを突き破らなければいけない」。
前田は、関西大学の出身。高校までは強豪校で野球をやっていてアメフットは大学からだったが、人並み優れた運動能力とフットボールセンスでRB、リターナーとして直ぐに頭角を現した。競技を始めて実質1年で2011年の世界選手権日本代表の候補選手に選ばれ、4年時にはQBもプレーした。能力と実績からすれば、もっともっと活躍してもよい選手だ。
9月のノジマ相模原戦では1回3ヤードのパスキャッチだけ。個人としても、チームとしても悔しい思いをした。「あれは本当に悔しかったですが、あの負けがあったからこそ、チームとしても成長できた。リベンジの機会が来るのは嬉しい。今度は叩きのめす」。背番号86の快足レシーバーはひそかに闘志を燃やしている。
◇
オービックといえば、ディフェンスが看板だ。第5節富士通戦で今季最多の31失点を喫したが、反則による罰退90ヤードと、前半最後のマネジメントに問題があった。
特に前半残り16秒で、富士通のQBマイケル・バードソンに決められた逆転TDは、シンプルなポストパターンのパスだったが、富士通の長身レシーバー福井雄哉をオービックのMLB岩本卓也がぴったりとカバーしており、ギリギリ紙一重のところで決まったプレーだった。問題は、その直前のドライブで、時間を使い残して相手にボールを渡したこと、パントを真正直にフィールドの中に蹴って、富士通の猪熊星也に好リターンを許してしまったことだった。
オール三菱戦、オービックのディフェンスは結果を出した。試合の大勢が決まった第4クオーターの得点が多かったとはいえ、9月の富士通戦で、24得点、トータル325ヤードを獲得したオール三菱のオフェンスを、106ヤードでシャットアウトした。
DL中田善博、LB寺田雄大のQBサックなど、計6回のタックル・フォー・ロスで、ランをマイナス9ヤードに追い込んだ。後半になって控え中心のメンバーになってもパフォーマンスは落ちなかった。
今季の課題となっている反則の問題も、4回41ヤード。内訳はオフェンスのパスインターフェアが2回で、パーソナルファウルはなく、改善が見てとれる。
4年連続で日本一になり、その後4年連続で王座に届いていないオービック。悲願に向けてポストシーズンの第1戦は間もなく始まる。
【写真・文/小座野容斉】
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