
アディダスが初マラソンを走るランナーのために開発したソーラーブーストについて、増田明美さんが印象を語った。マラソンシーズンを前にしてどんなシューズで走ったらいいのか、思いを巡らしているランナーに参考になることだろう。
聞き手/樋口幸也 写真/阿部卓功
――まず、ソーラーブーストの印象をお聞かせください。
増田 ソーラーブーストは前に導かれる感覚がありますね。私はもともと踵着地なのですが、一番感じたのはつま先に入っていきやすいこと。前に導かれますね。前に前に行くように感じます。つま先が上がっているということもありますが、それだけではないようです。
――いつもはどのシューズを履いていますか。
増田 最近はウルトラブーストで走っています。
――ウルトラブーストを選ぶ理由を教えてください。
増田 距離が長くなればなるほど、脚のバネがなくなっていくんですね。ウルトラブーストは、ハーフマラソンの15km以降でもシューズがバネをつくってくれる。だから手離せなくなってしまっています。もっと筋肉を鍛えてバネをつけたら、シューズに頼らなくてもいいのですが、今はそこまでトレーニングが出来ていないので、バネに助けられています。
――ウルトラブーストのクッションと反発が気に入っているんですね。
増田 大好きです。衝撃が柔らかいので、アスファルトの硬い路面でも足に優しい。包まれている安心感があります。
――距離やスピードに応じて、履くシューズを替えているのですか。
増田 ずっとウルトラブースト。1㎞を7分ペースで走るときも4分ペースで走るときもウルトラブースト(笑)。
――そんな気に入っているウルトラブーストとソーラーブーストの違いはどう感じていますか。
増田 ウルトラブーストは、踵から入ってつま先に抜けていくような着地をしやすいのですが、ソーラーブーストは、先につま先で接地するような感じがあります。前に運んでくれる感じ。だからスピードを上げたくなります。ソーラーブーストのほうがスピードを出しやすいので、ゲストランナーとして呼ばれたときに履きたい。私を標的にするおじさんランナーがいますから。負けないようにスピードを切り替えていくためにはソーラーブーストがいいですね。

ソーラーブーストは、自然に前足部で接地するような走り方になると、増田さんは言う。
――踵着地だと言っていましたが、前足部で接地しているように見えました。
増田 このシューズだからです。基本は踵着地。昭和のシンボル的な走りで踵着地ですけど、これを履いて走ったら前足部で接地しました。子供の頃を思い出しましたね。高校時代に日本記録を塗り替える前まではつま先着地だったんです。中学校で全国4番になったとき、千葉県記録を作った時もつま先でした。成田高校時代の瀧田詔生先生に言われたんです。「これから距離をどんどん長くしていくから、踵からつま先へ体重移動がスムーズになるようにしましょう」と。歩きから直しました。高校1年生のときには意識しすぎてへんてこりんの走りなって、ダメになるんじゃないかと思うくらいでした。でも、改良して日本記録につながったんです。
――そうだったのですか。
増田 もともとはつま先で走っていたんです。高校以来ずっと踵着地でしたが、ソーラーブーストがもともとのつま先着地を思い出させてくれました。
――とはいえ、ソーラーブーストは速く走るというより…。
増田 初心者向けのランニングシューズですね。初めてマラソンにチャレンジする人のためのシューズにはもってこい。初マラソンといっても、10㎞レースの人もいるし、5㎞の人も、ハーフの人もいます。もちろん、フルマラソンの人も。
――初マラソンは不安ですよね。
増田 そういう不安を感じている人に対して、ソーラーブーストは安心感を与えられるシューズです。安定感もあるし、クッション性も高い。初心者ランナーに対して、安心して走って下さいとサポートされている気持ちになります。それにプラスして初心者の方は、後半疲れた時に足を前に運びやすいはず。重心が後ろにいかずに、前へ前へといざないます。そういった面からも初心者に優しいシューズだと思います。
――フィット感はどうでした。
増田 フィット感はばっちり。靴下を履いているみたいな感じ。踵はもちろん、サイドがしっかりしていて全体的に締めてくれているように思えます。サイドパネルが、ウルトラブーストはプラスチック製ですが、ソーラーブーストは糸で作られています。ぎゅっと包み込まれているように感じますね。

廃プラスチックを素材として使用しているサイドパネルが、やさしく、確実に中足部をホールドする
――着地安定性はどうでしたか。
増田 着地の安定性も抜群で、気に入っています。安定するから前に運ばれるのでしょうね。とにかく誘導してくれる。前に、前に。ホールドがしっかりしていて足が遊ばないから、エネルギーが前に向かう。サイドも踵もしっかり安定しているから力が前に行くので、導かれる感じになるのでしょう。
――ビギナーランナーがシューズ選びをするときに重視してほしいのは、どういう点ですか。
増田 衝撃吸収性です。ビギナーの人はまだ筋力がついていないし、脚もできていない。走る時に路面から受ける衝撃は想像以上に大きいので、脚を守ってくれるシューズが必要です。ケガの予防のためにもクッションがあるものを選んでください。
ますだ・あけみ
1964年1月生まれ。高校3年時に1万m、5000mなどで日本記録を連発、マラソンを含めて、1年で長距離全種目の日本記録をすべて塗り替えた。84年ロサンゼルス五輪女子マラソン日本代表。現在は、スポーツジャーナリスト、解説者として活躍中。
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