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2018-11-03

ワイルドカードという名のサバイバル戦 LIXILの新たなウェポンはQB馬島

 社会人アメリカンフットボールのXリーグは11月4日、横浜スタジアムで、ジャパンXボウル(JXB)トーナメント本戦に進むチームを決めるワイルドカード(WC)プレイオフ2試合が開催される。7位LIXILディアーズと10位の東京ガスクリエイターズ、8位アサヒビールシルバースターと11位のオール三菱ライオンズが対戦する。

【LIXILvs アサヒビール】LIXILオフェンスの新たなウェポン、QB馬島。アサヒビールディフェンスを冷静にリードしたこのオプションはRB白神のTDランとなった=2018年10月21日  撮影 YoseiKozano

 度々繰り返しているが、今季のJXBトーナメント進出だけでなく、来季スタートする新トップリーグ「X1スーパー」に参加できるかどうかを決める重要な戦いとなった。

 Xリーグの最終節で戦ったLIXILとアサヒビール(LIXIL27-20アサヒビール、10月21日・富士通スタジアム川崎)は延長タイブレークにもつれ込む接戦となった。しかし、必ずしも内容の濃い戦いだったとは言えない。

 LIXIL富永一ヘッドコーチ(HC)にとっては「絶対楽な試合じゃないことは分かっていたし(タイブレークも)ある意味で予想の範囲内」だった。

 第4クオーター(Q)に20-20の同点に追いつかれた後に、2分20秒の時間が残った。途中退いていたQB加藤翔平がオフェンスを指揮して、敵陣21ヤードまで前進、残り3秒を残してK青木大介が38ヤードのフィールドゴールを決めれば勝利するところだったが、外してしまう。

 「青木がどうこうというのではなく、ああいった、決めなければいけない場面を、今季は本当にミスしてきた。オフェンスでもディフェンスでも、それが出ている。それが今年のチームの悪いところ」だという。

 一つ前の局面、20-12とリードした場面がその典型だった。それまで、警戒してきたアサヒビールRBジョナ・ホッジスに59ヤードを走られTDを奪われた。しかし、アサヒビールの2ポイントコンバージョンでは、QBに入ったジャレッド・スティグマンからのスペシャルプレーが失敗。ボールを辛うじて拾い上げたRB柳澤拓弥がいったんは20ヤード近く下がるが、LIXILのDLが深追いしすぎて左サイドをまくられ、エンドゾーンに飛び込まれてしまった。

 柳澤は学生時代はQBながらシーズン1000ヤードを走ったこともあるスクランブラー。ロールしてラッシュをかわしながら外をまくるような動きは逆に得意だ。

【LIXILvs アサヒビール】アサヒビールの2ポイントコンバージョンで、RB柳澤を追い回した挙句、捕まえられずに同点とされた=2018年10月21日  撮影 YoseiKozano

 富永HCは「あの場面何が大切か。要するにエンドゾーンを割らせなければよい。追いかける必要はない。ロスさせる必要はどこにもない。どこかで押し出すのでもよいし、止めればよいだけ。局面の勝負にこだわるのは大事だが」という。

今季は20人近くが新人として加わったチーム。「まだまだ、成長途上のチームで、だいぶ成長してきたが、ここからは、もっと急ピッチで成長しなければいけない」と富永HCはいう。

 よい成長の手ごたえもあった。試合途中から出場したルーキーQB馬島臨太郎だ。前半の途中から加藤に代わって登場したが、富永HCは「加藤が負傷したのではなく、予定通りの交代。途中から使っていくと決めていた。良いチェンジオブペースになった」と評価した。

【LIXILvs アサヒビール】タイムアウトで、プレーと状況を確認するLIXILQB馬島と富永HC=2018年10月21日  撮影 YoseiKozano

 その言葉通り、馬島はスナップを受けてからの動き出しがとても早く、特に後半に入ってから、RB白神有貴とのオプションが効果的に決まった。以前の小欄で、LIXILのOLが小型・軽量化していると書いたが、その分の機動力を生かしたアウトサイドのゾーンブロックが効果的で、白神は164ヤード、馬島は35ヤードのランで、試合をコントロールした。Xリーグでは初出場となった馬島は「自分が走って展開していくゲームプラン。その通りには一応できた。しかしもう少し良いプレー選択があった」と振り返った。

【LIXILvs アサヒビール】LIXILはRB白神のアウトサイドゾーンのランプレーが効果的に決まった.=2018年10月21日  撮影 YoseiKozano

 「もともとはパスをすごくやってきているので、次回はもっとパスを混ぜていきたい」という馬島。昨年は法政大学のエースQBとして、前半4試合でパス888ヤード、9タッチダウン、0インターセプトと、関東学生TOP8でNO.1のパフォーマンスを残しながら、第5節の慶応大戦の冒頭で負傷。その後、シーズンを棒に振った。6月の大学世界選手権で日本代表に選ばれてプレーしたが、「まだ、ゲーム感が戻っていないところがあった」という。本来のパス能力は極めて高いだけに、もっと良い部分が出せそうだ。

 エースQB加藤は「(馬島は)学生の時から経験を積んでいるし、練習でも結果を出しているので、安心して見ていた」という。

 加藤自身は試合前にサイドラインで、珍しく大きな声を出して味方を鼓舞する場面もあった。しかしこれも気合いが入ったとか、感情が高ぶったといった単純な話ではなかったらしい。「APC(アスレチックパフォーマンスコーチ)の朝倉(全紀)さんから『短い大きな声を出すと、交感神経が刺激されて、集中力を高められる』とアドバイスを受けていた」と加藤は説明した。今季は不調にあえいでいたが、冷静な理論派QBはいつも通りだった。

【LIXILvs アサヒビール】延長タイブレークのQB加藤(中央)途中、下がってサイドラインから見ていたため「フラットに冷静にリードできた」という=2018年10月21日  撮影 YoseiKozano

 東京ガスとの再戦は厳しい戦いになる。9月のリーグ戦では第3クオーター(Q)まで31対7とリードしながら、第4クオーターにQBイカイカ・ウーズィーのパスで猛反撃をくらい、最終的に31-24まで詰め寄られた。LIXILディフェンスの油断もあったろうが、イカイカは特にキャッチアップオフェンスで、米国人特有の「スイッチが入った時の勝負強さ」を持つ。

【LIXILvs アサヒビール】LIXILディフェンスのハート&ソウル、DE平澤。パスプレーでもランプレーでも、ボールキャリアーを執拗に追い続ける=2018年10月21日  撮影 YoseiKozano

 加えて、LIXILのラン攻撃がわずか62ヤードに封じられたため、終盤にボールコントロールができなかった。アサヒビール戦ではトータル250ヤードを記録したLIXILラン攻撃だが、今のアサヒビールはランディフェンスが弱いため参考にならない部分もある。

 富永HCは「リーグ戦では、失敗とは言わないけれど、苦しい戦いを強いられた。向こうも、今季、ここを狙ってきて死に物狂いで来ると思う。準備をするのは当たり前だがとにかくいろいろな想定をするして臨む」という。

 クラブチームになって以降のディアーズには「ややもすれば競争がなかった」と富永HCは話す。ただ今、この状況になって「ようやく、チームが変わり始めた。遅かったかもしれないけれど、成長を感じつつある」という。名門ディアーズがトップチームとして来季を迎えられるか、11月4日の横浜スタジアムで結果は出る。

【撮影・文:小座野容斉】

      ◇

 来季2019年のジャパンXボウルに至るポストシーズントーナメントはX1スーパーの上位4チームで争われる。

 今季までとスキームが変わるため、ワイルドカードプレーオフも8チームのトーナメントも消滅する。

 「X1エリアに落ちたら、比較的楽なスケジュールで戦って、勝ってワイルドカードからトーナメントに行ける。かえってその方が良い」などと考えている人がいるとしたら、とんでもない間違いだ。

 来季X1エリアでプレーするチームは、どんなに成績が良くても日本一にはなれない。確認のために付記しておく。

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