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2022-02-26

【ボクシング】涙、涙、また涙。宮尾綾香と鈴木菜々江が世界王座を奪取

宮尾(右)は巧みにペースメイクして俊才・松田を攻略、2-0判定をつかんだ

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 女子だけに存在する46.26キロ以下の最軽量アトム級のダブル世界タイトルマッチは、25日、東京・後楽園ホールで行われ、IBF王座決定戦では2位の宮尾綾香(ワタナベ)が1位の松田恵里(TEAM 10COUNT)を、また、WBOタイトルマッチではIBF5位のチャレンジャー、鈴木菜々江(シュウ)がチャンピオンの岩川美花(姫路木下)を、いずれも接戦の末に判定で破り、2人の新チャンピオンが誕生した。

光った宮尾のペースメイクと鈴木の敢闘精神

 IBFタイトルマッチでは、38歳の宮尾のキャリアが光った。プロ2戦目で東洋太平洋王者になったサウスポーの松田に対して、絶妙な距離をとって戦った。体格に優る松田のわずかな射程外をキープして、いきなりの右オーバーハンドを打ち込み、ときに左フックを切り返す。松田が強引にインサイドをつくと、右のカウンターを印象的にヒットしていった。

 宮尾より11歳若い松田は5回から攻撃のテンポを上げる。左ストレートを軸に追い上げる。やや動きの落ちた宮尾にとって苦しいラウンドが続いたが、9回から再びペースアップ。松田はこれに対応できず、決定的なポイントを失った。

 採点は96対94、96対94、95対95の2-0だったが、宮尾の巧みなペースメイクに、松田は単調な攻防が目立った。宮尾は27戦21勝(6KO)5敗1分。松田は6戦4勝(1KO)1敗1分。
猛然とアタックをかける鈴木(左)は岩川との接戦を制す
猛然とアタックをかける鈴木(左)は岩川との接戦を制す

 WBOタイトルマッチは互いに2020年9月の対戦以来の試合で、そのままダイレクト・リマッチとなった。前戦ではサウスポーの試合巧者、岩川と猛ラッシャー、鈴木の間で混戦となり2-1判定で岩川が初防衛に成功している。今回は序盤からスパートする鈴木に、サウスポーでも戦える岩川がオーソドックススタイルのまま真っ向から応じる展開になる。右ストレート、クロス、左フックと多彩なパンチを打ち込むチャンピオンが2回以降、ポイントを先行していったように見えた。

 ところが、スタミナに優る鈴木は、5回以降に地力を見せる。左右の連打で追い立て、岩川を後手に回らせる。終盤、再び岩川の正確なパンチが見え始めたが、鈴木は馬力にまかせて攻め込み続けた。

 採点は96対94、96対94、94対96の僅少差の2-1。チャレンジャーが敢闘精神の塊を投げつけながら、38歳のベテラン技巧をはねのける形になった。鈴木は16戦11勝(1KO)4敗1分。岩川は17戦10勝(3KO)6敗1分。

38歳の王座返り咲きの宮尾(写真上)、雪辱を果たしての初王座の鈴木とも涙のファイティングポーズ
38歳の王座返り咲きの宮尾(写真上)、雪辱を果たしての初王座の鈴木とも涙のファイティングポーズ

泣きじゃくる新女王たち

 時間的には先にチャンピオンシップを手にした鈴木は、勝利のコールとともに声をあげての大泣き。リング上のインタビューは応答にならない。やや落ち着いてからの囲み会見でも「負けたと思っていたので、試合後は泣きながら会長やトレーナーに謝っていました」。そして、本来の「かわす」でなく「打ち勝つ」戦法で戦ってきた岩川には「勉強熱心な人です。やりづらかった」と率直に強さを認めていた。スパーで手合わせしている宮尾らを例に出し、「人としてもかっこいいチャンピオンになりたい」と今後の目標を語っていた。

 2年半ぶりの王座復帰の宮尾は、無冠だった間に多田悦子(真正)に痛烈なTKO負けを喫するなどの厳しい試練を乗り越えた。アップしながモニターでリング上の鈴木の姿を見て「あんなに泣きじゃくってる」と笑っていたというが、今度は自分の番。こちらも試合直後のインタビューではほとんど言葉にならず。囲み会見で「ひと安心しました。なくしたベルトとを取り戻すって達成感がすげーなと思いました」と笑顔をやっと見せた。苦しんだ期間、「自分からボクシングをやめるつもりはなかったけど、周囲からやめなさいといわれたどうしよう」と不安だった。それでも、攻める気持ちがはやり、前足に重心がかかっていたのを、体の中央に戻すなど研究の成果が実った。「まだまだ若者たちの高い壁でありたい」と新たなチャンピオンライフへの抱負を明かしていた。

文◎宮崎正博 写真◎小河原友信

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