樋口 ブルックスから新しいシューズ、レビテイトが出ましたね。白方さんは履きましたか。
白方 はい。12月3日のいすみ健康マラソン(増田明美杯)のハーフで1回使ってみました。
樋口 レースで?
白方 故障上がりだったので、薄いシューズでは衝撃があるのでよくないかなと思っていたのです。キロ3分50秒くらいで走ることができました。
樋口 3分50秒?
白方 そうです。それくらいでいけました。あとはジョグのときに通常は、ラベナというクッションニングのシューズを履いているのですが、同じシチュエーションでは、レビテイトのほうが足運びが軽い感じがします。
樋口 足運びが軽いというのは、どのような感覚ですか。
白方 単純にいうと接地が少し短くなっている感じとか、ドロップ(踵部と前足部の高さの差)が関係しているのか、前に進むスムーズさを感じられます。アッパーが少し薄いので、ジョギングシューズとしてはデザイン的にすっきり感もあります。リズムに乗って走れる感じですね。
樋口 レビテイトは、DNA AMPというミッドソールに使われている素材が話題なのですが、DNA AMPに関してはどのような印象をおもちですか。
白方 ほかのシューズと同じ状況で比べると反発力が感じられます。
樋口 「反発」って、日本語にすると単純な単語ですけど、速く走るためにいろいろな要素があるじゃないですか。
白方 反発には、ためてポンっといく感じとか、叩いて跳ね返るような感覚とか、いろいろあると思うのですが、DNA AMPは、レスポンスがいいという感じですね。踏み込んだ分だけ返ってくるという感じです。カチカチではありません。
樋口 私もレビテイトを履いて走って感じたのは、ブルックスのイラストにあったように力が逃げない。従来、ミッドソールに使われていた通常のEVAなどの素材は、力が横に逃げるような感覚がある。でもDNA AMPは力が逃げずに上に戻ってくれる。
白方 そうですね。それが接地時間の短さという感覚をもたらしているのかもしれません。1回つぶれるのですが、シューズの中では整っているので、スポンと抜けてくれるような感覚ですね。
樋口 最近、ミッドソール素材は、また「フォーム(発泡材)戦争」のような状況になって、各メーカーから様々なものが出ています。特にDNA AMPに関して、ほかのメーカーの素材と違う点はありますか。
白方 力を伝えるということでいうと、極端に硬いものが入っていないわりには、伝わりはいいと印象がありますね。
樋口 最近は、カーボンプレートなどを挟み込んだシューズも出てきています。
白方 異素材が入っているシューズは、違和感があるのですが、レビテイトは従来のシューズから履き替えたときに突飛な感じがありません。導入しやすいのに接地の違いを体感できます。
樋口 シューズの反発はランナーにどのようなベネフィット(利益)をもたらすでしょうか。もちろん、速く走るためには必要なのでしょうが、ただ反発があればいいというものではない。そのあたりはどのように考えていますか。
白方 ジョギングを中心にしている方は、クッショニング(衝撃吸収)を重視するし、動きもその動きになっています。次のステップに来たくても、いきなり変えようとすると違いが大きすぎる。そういう部分では、トレーニングシューズの次にこのシューズなら、履いた感じの違和感は出ません。接地時間やコア(体幹)の使い方など、次のステージにいくための体の準備をするにはいいと思います。ウインドスプリント(※)をするのも、レビテイトはレスポンスがいいので、反射がいい。吸収している状態で速く回そうとかしても、体の反応を起こしにくいと思うのです。
※ウインドスプリント:100mくらいの距離を徐々にスピードを上げて、全速力の8割くらいのスピードで中間疾走をして、徐々にスピードを落とす練習メニューの1つ。フォームを整えるために行う。
白方健一 プロフィール
Top GearRCの代表/ヘッドコーチ トップギアインターナショナル合同会社 代表社員 ロンドン五輪マラソン代表藤原新選手や吉田香織選手(北海道マラソン優勝)トレーニングパートナーの経験を持つ。自らもこれまでフルマラソン50回以上走りフルマラソンだけでなく、ウルトラマラソンやトレイルランにも挑戦している。東京を中心に神奈川、広島で2007年よりランニングクラブをスタートし、ランニングクリニックなどを含め年間のべ約2000名を指導する経験を持つ。経験だけにとらわれない専門知識を活かしてあらゆるランナーのライフスタイルにフィットしたオリジナルメソッドの提案には定評がある。大会主催やランニングクリニックなども多数開催。テレビや雑誌Tarzanなどメディアへの出演も多数。著書「マラソンは3つのステップで3時間を切れる!」(SB新書)「あきらめないランニング?楽しいランのはじめかた、続けかた」(技術評論社)
【自己ベスト】
2時間29分13秒(別府大分マラソン24位)
【資格・その他】
・体育学修士(筑波大学大学院 スポーツ健康システム・マネジメント専攻修了)
・加圧インストラクター
・全米スポーツ医学協会(National Academy of Sports Medicine)認定 NASM PES
(Performance Enhancement Specialist)
・ポラールジャパン認定心拍トレーニングオフィシャルトレーナー
・JINS MEME アンバサダー
樋口 構造的にはシンプルな構造ですよね。パーツもアウトソール、ミッドソール、そしてインソールだけです。
白方 ゴテゴテしていないですね。
樋口 それが素直な走りにつながっているように感じました。
白方 高反発とかスピードを出そうとすると、カーブラストとか、プレートのような硬いものを組み合わせようとすることが多いのですが、このシンプルさはジョギングシューズの次に履くシューズとしては最適でしょう。なおかつレスポンスを得られやすいです。前足部の形状によって乗り込んでいく走りができます。しかも幅が広いので、安定感もあります。蹴り込んでしまう人は、体重を載せれば前に進むという感覚がわかるでしょう。
樋口 そこが今、走り方のちょっとしたブームというか、流れになっているように感じています。それがそもそも正しい走り方なのかもしれません。
白方 レビテイトは自分の走り方の足運びを邪魔しないと言えるかもしれません。
樋口 強引に何かをしようとするのではなく、しなくても走れるということですね。
白方 そうですね。
樋口 キロ3分50秒ペースでハーフマラソンを走ったとおっしゃっていましたが、白方さんがこのシューズで一番気持ちよく走れるペースはどれくらいですか。
白方 キロ5分で走っているときが気持ちいいですね。ジョギングでもLSDよりはちょっと軽快に、1時間ほど走る、いわゆるつなぐトレーニングに使うにはいいですね。
樋口 白方さんのジョグのペースは、5分くらいですか。
白方 そうですね。ジョグなので体調に合わせていろいろなペースで走りますが、だいたいそれくらいです。
樋口 フルマラソンで使いたいと思っている人たちにとって、どれくらいのレベルの人に適していると思いますか。
白方 フルマラソンで4時間とか、3時間半になると、ジョギングシューズともう1足ほしくなります。そのときにレビテイトなら極端すぎないので、わりとオールマイティに使うことができます。持久力をつけるようなゆっくり長く走る練習も、ちょっとスピードを上げて走る練習も、1足でどちらもできるお得感もある。動きとしては、速い動きに寄せていけるというよさがあるという印象を持ちました。
樋口 レビテイトが幅広い用途に使えるのは、どうしてなのでしょうね。
白方 高反発シューズと呼ばれているほかのシューズはもっとソールが薄くて、もっとスピード重視に寄せていると思うのです。重量的にもトレーニングシューズと同じくらいで、衝撃吸収性も担保されている。ソール面もかなり広いので着地安定性もある。ゆっくり走ったときの不安定さは安心感にならないのですが、それもしっかり担保されている。ということで両方いける。ジョギングシューズとの違いも感じられる。ジョギングシューズからスピードを出せるシューズにシフトしたい人は、必要だと思います。
樋口 高反発というのが、不安定さということにいままではつながっていた。着地が不安定であるとか、ブレがあるとか。このシューズにはそれがないと、私も走っていて感じたのですが、その点を白方さんはどのように感じましたか。
白方 別のジャンルというか、トレーニングシューズのよさも残しつつ、スピード系のシューズを履いている感覚のまま厚くなっているので、ダメージもそんなにない。いすみのレースは、故障明け一発目のレースだったので、実際はすごく心配だったのです。でも、最後まで問題になく軽快に走れました。速いといっても、ジョギングシューズではという人に受け入れやすいシューズだと思います。話題の厚底に違和感がある人は、いきなりあっちにいくのではなく、ステップを踏む段階としていいと思います。
樋口 今話題のシューズは走り方を限定する、シューズに走り方を合わせるという傾向がありますが、レビテイトにそれはないですね。
白方 そうですね。その人の走り方を尊重して、かつ、少しだけですが、走りを改善してくれる。そういう意味でいいと思うのです。
樋口 今のトレンドは乗り込む、蹴らない、体重移動でもっていくようになってきています。
白方 以前はスピードを出すためには、薄いシューズで地面の反発を得るというイメージで走っている人は多かったと思うのですが、今は、マイルドな方向に移行しているのかなと思います。
樋口 増えましたよね。厚いソールを履く人たち。ひと昔前は、サブ3といったらみんなペラペラなシューズを履いていた人たちが、けっこう厚いシューズを履くようになった。このシューズもそのトレンドへのブルックスの答えでしょうね。
白方 そう、そしてここから新しい展開があってもいい。ワクワク感があるシューズですね。
樋口 レビテイトはインソールも面白いですね。
白方 そう。インソールを取り出して前足部を押さえると、まっすぐ踵が上がるんです。ミッドソールの形状がそうなっているということですよね。体重移動がまっすぐ前にいくのは、この形状も影響していると思います。
樋口 全体の設計そのものが、うまく反発を推進力に生かしているという感覚はありますね。この形がいろいろ考えられているのだろうなと想像できます。直進安定性が前に行くというのが履いていて私は感じたんです。
白方 脚抜けがいいんですよね。体重が一番乗った瞬間から足が地面から離れるところまで、すっといく感覚があります。シューズを履きかえるとその違いがよくわかります。止まる感じがないんです。だんだん加速していく。
樋口 軽くて、足を入れたときの違和感がない。
白方 たぶん、ラスト(木型)もそんなに深すぎないので、足抜けがいいのはそれもあるのかなと思います。アッパーの生地もゴテゴテしていないのに、ホールドはしつつ、蒸れない。履き心地の安心感はあると思います。キロ4分くらいのペースで快適に走れますよ。
樋口 サブ3(マラソンを3時間以内で走る)の人も…。
白方 ダメージはかなり少なく走れます。
樋口 見た目が銀色を使っているので、重そうに見えますが、足を入れるとそんなに重くないし、実際に重くない。
白方 表示されている重さ(317g:メンズ27.0㎝))より、軽く感じますね。
樋口 DNA AMPのアンプって、オーディオのアンプと同じで、増幅させるという意味なんでしょうね。エネルギーを増幅させる。まさにこのミッドソールにぴったりですね。
白方 反発を示すときに、前足部を曲げてその跳ね返りを見せる人がいますよね。
樋口 それってあまり意味がないと思うのです。走っているときには曲がらないですよね。そういう反発の受け方はしないじゃないですか。
白方 それよりも体重移動の抵抗が少ないほうが走るときには大切です。
樋口 そういう意味で、前足部の上がり方は重要ですよね。
白方 素材もそうですが、構造的にこの形状が好きです。
樋口 土踏まずの前あたりに体重を乗せると、その力で前に行き、自然に抜けていく感じですね。
白方 そうです。ジョギングシューズで走っているのなかには途中で押し切れていない人がいます。このシューズは、つま先が上がっているソールの形状によって押し込むことでスムーズに前に体が進む。
樋口 拇指球のあたりに体重が乗ると、自然に抜けてくれる。
白方 トレーニングシューズでも、そこまで反り上がりがない。もっと控えめです。そうする必要がないからそうなっているんでしょうね。そういう部分を意識されている。
樋口 シューズの前足部の屈曲性を求める人がいますが、ここは曲がらなくていいのだと思っています。レビテイトも曲がりにくいですよね。蹴らない走り方を身に着けるためには、前足部の屈曲性は必要ないと思っています。
白方 そうですね。拇指球のあたりでプッシュすればいいので、足の指まで使う必要はないのです。前足部が曲がると力が抜けてしまって、余計な力を使わなければならなくなります。
樋口 昔はシューズの屈曲ポイントが足の屈曲ポイントに合わなければダメだというようなことを言われていましたが、実は関係ない。
白方 指で押さずに、面で押すという感じです。親指ばかりきつくならない。柔らかいソールのシューズでは、親指に点で乗っているという感覚があります。このシューズは横アーチのラインで乗っているので、点でダメージを受けないです。
樋口 こういう走り方をすると、レビテイトをうまく使いこなすことができるということはありますか。
白方 スピードを変化させるファルトレクみたいな練習でもいいですし、ちょっとしたなだらかな下り坂でテンポを上げて走るようなトレーニングでもいいと思います。そういう練習では体重移動のスムーズ感を得られると思います。あとは、日々のジョギングなら、短い区間で、少しペースを上げて走るようなときですね。
樋口 衝撃吸収性が高いから、下り坂で膝を痛めてしまいそうだというところでも安心して下り坂も走れる。
白方 クッションがよすぎてもブレーキがかかってしまいますし、薄いとダメージになります。おいしいとこどりで、先ほどの体重移動をする走り方が身につけやすいと思います。ブツ切りでスピードアップするというのも、入れてもジョギングが大半で、ちょっとしたスピードアップにも対応できるという感じですかね。
樋口 シーンを選ばなくてもいい。
白方 そうです。思ったより万能に履けます。実際、レースでも試しましたけど、ひもも平紐でしっかりホールドします。好みがあるかもしれませんが、厚底のシューズを履きなれていない人にとっては、新しい感覚だと思うのです。
樋口 ドロップは8mmですが、ヒールの高さは3cmくらいありそうです。サブ3で走っていた人は、こんなに厚いシューズは履いたことがないよという人もいるでしょうね。
白方 そういう人でも、履いたらがトレーニングの幅は広がります。ダメージも薄底よりはない。
樋口 35㎞で足にきていた人は、レビテイトくらい衝撃吸収性をもったシューズのほうが、最後まで脚がもつかもしれませんね。
白方 そうだと思います。今までも1段階クッショニングのレベルを上げることによって、サブ3を5年くらいできていない人が、シューズしか変えていないのにサブ3を達成できたという人がいます。いつも同じところで失速していたんです。そういう人は、クッション性の高いシューズに変えるほうがいい。
樋口 マラソンの場合、シューズの性能の違いが脚のダメージの違いに直結します。
白方 かなり依存します。私は、練習ができているときとそうではないときで、シューズを変えます。できているときは、薄いシューズでも最後まで脚がもちますが、練習ができていないときは、クッション性のあるシューズにします。それにクッション性のあるシューズのほうが、次のレースに向けて、早めに練習を再開できます。好循環です。薄いシューズはトラック練習などで使うようにしています。そういう履き分けはしています。
樋口 その逆をしている人がいますよね。練習は厚めのシューズで走って、本番のレースを薄いシューズで走る。
白方 そういう人はいますが、それは逆効果です。薄いシューズで走るとレースの序盤で飛ばしてしまうので、オーバーペースになるだけではなくて、脚へのダメージも大きくなる。飛ばしてしまいそうな人は、レビテイトを履いたほうがいいです。
樋口 サブ3くらいまでこのシューズでいいですか。
白方 本人に抵抗がなければいいと思います。
樋口 サブ3.5くらいの人は、このシューズで十分でしょうね。
白方 サブ3.5、サブ4ならしっくりくるでしょう。今、何を履いているかが基準になりますが、このくらいの人は、レビテイトくらいのシューズがいいんだよというのは伝えたいですね。
樋口 キロ5分ペースが気持ちいいと言っていましたが、ちょうど、サブ3.5は5分ペースですからね。ソールが薄いシューズで脚を鍛えるという感覚を持っている人がいますが、故障してしまったらしょうがない。シューズ選びは、パフォーマンスアップのために非常に重要なポイントです。でも、拘泥していないランナーも少なくありません。
白方 体育的なノリというか、「きついのがマラソン道です」みたいな考えの方も結構います。情報が多すぎて、よくわからなくなっている人もいます。僕の周りはそういう方が多いのですが、整理してあげると理解してもらえます。
樋口 2パターンあるのですね。情報がない人たちと、情報がたくさんありすぎて混乱してしまっている人。
白方 地方の方は、薄底で修行僧的な方もけっこう見受けます。
樋口 この前も、どこかのクラブで、厚いシューズを履いている人がほとんどいなくて、大騒ぎしている厚底のことも知らない。
白方 情報格差がすごいですね。某人気ドラマも混乱に拍車をかけましたね。
樋口 最後に、完成度が高いのですが、あえて注文をつけるとしたら、どこになりますか。
白方 この技術を使って、レーシング寄りのシューズがでてきたらいいですね。どういう形でレーシングに移行するのか楽しみです。
樋口 私も、DNA AMPを使って、もう少し薄いソールのものがあってもいいのではないかと思っています。ハイぺリオンくらいのシューズを、DNA AMPを使って作ってくれたら面白いのではないかと思いました。
白方 もう少し厚いソール、もう少し薄いソール、両方があってもいいかもしれません。それでどれくらいのスピードで、転がる感じで走れるのか、興味深いです。これよりさらに軽くなって、吸収するけどもっと反発がもらえるようなものができるといいですね。
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