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2022-04-10

【NFL】スティーラーズの24歳QBハスキンズが事故死 元ドラフト1巡指名のエリート選手

24歳で交通事故死したスティーラーズQBハスキンズ=photo by Getty Images

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米プロフットボール・NFLで、悲劇が起きた。ピッツバーグスティーラーズの24歳のQB、ドゥエイン・ハスキンズが、現地4月9日の早朝(日本時間9日夜)、フロリダ州南部フォートローダーデールのハイウェーで交通事故に遭い死亡した。現在は控えQBだが、カレッジフットボールのスーパースターで、2019年にワシントンからドラフト1巡指名を受けた元エリート選手の突然の悲劇は、米スポーツ界に大きな衝撃を与えている。

 現地警察の発表によると、ハスキンズは午前6時過ぎに、ハイウェーを徒歩で横断しようとして、ダンプカーにはねられたといい、救急搬送されることもなく、その場で死亡が確認された。即死に近かったとみられる。警察は、ハスキンズがハイウェーを歩いていた理由を明らかにしていない。

 ハスキンズはこの週末、スティーラーズに新加入したQBミッチェル・トゥルビスキーの呼びかけに応じて、合同の自主トレーニングに参加していた。トゥルビスキーの自宅がある、フォートローダーデールに、チームのパッシングユニットが集まって親睦を深めながら、練習をするというものだった。

 参加していたのは、ハスキンズ、トゥルビスキーに加え、WRチェイス・クレイプール、コーディー・ホワイト、スティーブン・シムズ、ガナー・オルシェスキー、アンソニー・ミラー、TEパット・フライアムース、ザック・ジェントリー、RBナジー・ハリス、ベニー・スネルJR、OLケンドリック・グリーンという、チームの若手オフェンス主要メンバーだった。前日には彼らが、SNSに自主トレの模様を投稿していた。


 スティーラーズは、マイク・トムリンヘッドコーチ(HC)が、次のようなコメントを出した。

「ドウェイン・ハスキンズの不幸な逝去に、私は打ちのめされ、言葉を失っている。 彼はピッツバーグに到着すると、すぐに私たちスティーラーズファミリーの一員となり、フィールドの中でも、地域コミュニティにおいても、最も一生懸命に務めてきた。

 ドウェインは偉大なチームメイトであり、それ以上に多くの人にとって素晴らしい友人だった。本当に胸が張り裂けそうだ。我々の想いと祈りは、この辛く悲しい時を過ごしているカラブリヤ夫人、彼の家族全員とともにある」

 死の直前まで一緒にいたWRクレイプールは、声を上げて泣く映像とともに「兄弟を亡くしたことを実感した瞬間」とSNSに投稿した。
 
 共にバックアップQBとして1年間過ごしたメイソン・ルドルフは一言「打ちのめされた」と投稿した。

 元QBのベン・ロスリスバーガーは次のように投稿した。
「Dハスクとの付き合いは、ほんの短い期間だった。しかし、それは、過去に悪い日々があったなんて思えないような青年との出会いだった。彼は、毎日、顔に笑みを浮かべ、心に愛とエネルギーを持って練習に来た。フットボールのゲームに対する情熱と愛、そして学びたい、ベストになりたいという気持ちをとても楽しむことができた。」

 ハスキンズが所属して大活躍した、オハイオ州立大バッカイズのライアン・デイHCは「ドゥエインの死は、我々にとって悲劇をはるかに超えている。彼は偉大なフットボール選手以上の存在だった。大きな心、オールドスピリット、そして人を惹きつける笑顔を持っていた。」と声明を出し、早すぎる死を悲しんだ。

オハイオ州立大で大活躍も、NFLでは挫折

 ハスキンズは1997年5月3日生まれ。オハイオ州立大に進学後、1年のレッドシャツ期間を経て、2017年に控えQBとなり、 パス565ヤード4TDの成績を残した。193センチ、104キロと大型で強肩、身体能力も高く、期待のQBだった。

 2018年にはエースQBに昇格、能力が開花してTDパスを決めまくってヒーローとなった。単に記録的に凄いだけでなく、ビッグゲームに強かった。ペンシルバニア州立大戦では、第4Q残り8分から2本のTDパスで逆転勝ち。宿敵・ミシガン大との伝統の1戦では6TDパス、ノースウェスタン大とのBIG10チャンピオンシップでは5TDパスを決めた。

 オハイオ州立大はローズボウルに進んで、そこでも勝利。ハスキンズはMVPに輝いた。チームは13勝1敗。パス4831ヤード、成功率70.0%、50TD、8INT、レーティング174.1。パス獲得距離とTD数は、1シーズンの大学記録、BIG10カンファレンス記録となった。ハイズマントロフィーの投票でも3位となった。全米レベルのスターとなったハスキンズは、2年を残してNFL入りを決めた。

 2019年ドラフトの1巡15位指名でワシントンに入団したハスキンズだが、オーナーのダニエル・スナイダーが、当時のジェイ・グルーデンHCらチーム首脳陣の意向を無視して強行した指名だった。

 グルーデンは2019年のシーズン半ばで解雇され、暫定コーチのキャラハン、さらに2020年のロン・リベラと次々に指導者が変わった。戦術も次々に変わる中で、ハスキンズは練習に身を入れず、遊び歩く日々が続いた。

 新型コロナ感染症中にもかかわらず、パーティーで遊ぶなどの規律違反。2020年のシーズン終盤に、ワシントンは、ハスキンズを解雇した。在籍わずか1年8カ月だった。

 手を差し伸べたのがスティーラーズだった。QBベン・ロスリスバーガーの引退が直近に迫っており、当時まだ23歳のハスキンズを再起可能と考えたのだった。2021年1月に契約を結ぶと、ロスリスバーガー、ルドルフに次ぐ3番手QBとして1年を過ごした。チームは3月に1年契約を更新したばかりだった。

2019年1月1日のローズボウルでも活躍したQBハスキンズ=photo  by Getty Images

バロウを転校させたほどの素質、再起途中の悲劇

 ハスキンズのオハイオ州立大時代の活躍は1年だけだったが、主要な試合のダイジェストなどは、今でもyoutubeで確認できる。恵まれた体格と強肩、身体能力を併せ持ち、全米トップクラスの強豪で、ビッグゲームでも活躍を見せた。

 素質的には、パトリック・マホームズや、デショーン・ワトソンに勝るとも劣らない部分を感じるQBだった。



 オハイオ州立大の1年先輩に、現ベンガルズのジョー・バロウがいたが、ハスキンズとのエース争いでは勝ち目がないと悟って、ルイジアナ州立大に転校した。その判断も十分に理解できた。

 プロ入り後の2シーズンは、不幸な形で過ごしたが、その後、スティーラーズで再起を期して真面目にトレーニングをしていると聞いていた。オフフィールドでも、地域のチャリティなどにも積極的に取り組むようになったという。5月で25歳と若く、これからの選手だった。

 ルドルフやトゥルビスキーがエースQBとなった場合は、そこそこのパスと、良いラン、そして最上級のディフェンスで勝つ、オールドスタイルのスティーラーズフットボールが目標になる。

 しかし、ハスキンズが本来の能力をNFLでも開花させられれば、全盛時のテリー・ブラッドショー、あるいはベン・ロスリスバーガーに匹敵する、爆発力のあるオフェンスを展開できるのではないかという期待を、ファンは感じていたと思う。

 若く才能に溢れた人材をこのような形で失うのは、本当に辛く悲しい。ドウェイン・ハスキンズの魂が安らかならんことを心より祈りたい。

2019年1月1日のローズボウルでMVPとなり、マイヤーHCに頭を撫でられるQBハスキンズ=photo  by Getty Images

【小座野容斉】

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