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2022-06-14

【ボクシング】ロマチェンコという世界の頂を知ってさらに己を磨き抜いた。中谷正義、完ぺき76秒KO勝利

力強いジャブ。中谷の積極的なアタックがわずか76秒の戦いを支配した

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 WBC世界ライト級13位にランクされる中谷正義(33歳=帝拳)は、13日、東京・後楽園ホールでハルモニート・デラ・トーレ(28歳=フィリピン)とスーパーライト級10回戦を行い、1回1分16秒、2度のダウンを奪ってKO勝ちを収めた。地上最高の技巧派と言われるワシリー・ロマチェンコ(ウクライナ)に一方的なTKO負けを喫して1年、中谷はさらなる切れ味を身につけて、日本のリングに帰ってきた。

 お見事というしかない。それほど、完ぺきなノックアウト劇だった。攻撃的な左ジャブで間合いを測る。そして右ストレート。控室のミット打ちで粟生(隆寛)トレーナーと練習してきたばかりの打ち下ろしのこのパンチ。たちまち戦力となった。デラ・トーレがころりとダウンする。はた目からはさして大きなダメージがあるようには見えなかったが、この後の詰めがまた素晴らしい。中谷はインサイドから抉るような左ボディブローを追撃。デラ・トーレは突っ伏すように再び倒れ、そのままカウントアウトされた。
ものの見事なボディブローでデラ・トーレは崩れ落ち、そして立てなかった
ものの見事なボディブローでデラ・トーレは崩れ落ち、そして立てなかった

 試合後に記者から尋ねられる。「あのボディブローは狙いどおりだったんですか?」。中谷はこともなげに答えた。「顔面で効かせたら、ボディから攻撃する。それがセオリーですから」。そう、基本を新しく、さらに力強く組み立ててきた。そのことが33歳にしてさらに強力な攻撃力を醸成した。

「ロマチェンコはほんとうにうまかった。すべてを読まれていました。何度やっても……苦戦するのかな」

 正直に、そしてちょっとだけ強気なって、そう話した。だから、自分のやるべきこと、できること、底辺に転がっている部品から洗い直して、武器の精度を高めてきたのだ。

「1年間、やってきたことが無駄じゃなかったんだと思っています」

 この日はその成果を試される戦い、と同時に崖っぷちの戦いだったと中谷は言う。

「年齢的に見てもそうじゃないですか。進退がかかっていました。ここで、ただ、勝つだけではいけないと思っていました」
 かつて19連勝の勢いを駆ってアメリカ進出までしたデラ・トーレは、ライバルとも言える吉野修一郎(三迫)にも初回KO負けを喫している。吉野がこのフィリピン人を粉砕するのに要したタイムは130秒。中谷はそれより早いタイムでKO勝ちを飾ったわけだが、時間の長い短いより、戦いの充実度こそが大事。中谷は吉野のそれを追い抜くほどの威勢の良さがあったのは確かである。

「狙うのは世界だけ」。33歳にしての大きな成長力。このボクサーにもっと大きな期待を寄せていいに違いない。

文◎宮崎正博 写真◎菊田義久

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