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2020-03-15

襲いかかる新型ウイルスの脅威。井上尚弥の米上陸にも影響か?

 新型コロナウイルスによるパンデミックの影響が、プロボクシングも直撃している。世界戦の開催もキャンセルが相次いでいる。現状のままなら4月の井上尚弥(大橋)のラスベガス登場に影響を及ぶかもしれない。

上写真=試合2日前に防衛戦が中止になったシャクール・スティーブンソン

スティーブンソン戦は無観客での実施から中止に

 14日にニューヨークのマディソンスクエア・ガーデンシアターで挙行されるはずだったWBO世界フェザー級タイトルマッチ、シャクール・スティーブンソン(アメリカ)対ミゲール・マリアガ(コロンビア)戦の中止が、試合2日前に決定された。

 当初、無観客で開催される方向で進められていたが、選手、関係者、オフィシャルに実施するためのウイルス検査キットが不足していることを理由に、ニューヨーク州アスレティックコミッションが、主催するトップランクに決断を促した結果だ。

 この日が初防衛戦になるはずだったスティーブンソンは、リオ五輪銀メダリストからプロに転向して13戦目で世界王座にたどり着いた次世代エースのひとり。スティーブンソンは「フェザー級で4団体を統一してから、パウンドフォーパウンドのトップを目指すんだ」と試合前から勇んでいた。さらに出身地のニューアーク(ニュージャージ州)からすぐの場所での初の世界戦だっただけに、残念至極だったはず。プロモーターのボブ・アラムも「中止の決定には納得している」としながらも「この日のために練習してきた選手が気の毒だ」と落胆を隠せなかった。

 トップランクでは17日に、やはりMSGシアターで興行を予定していたが、これも同時に中止を決めている。この日はアイルランドの祝祭日『セントパトリック・デー』にあたり、同プロモーションでは毎年、イベントを開催していた。同国のスター、マイケル・コンラン(フェザー級)が4年連続でメインイベントに出場する予定だった。

 また、同プロモーションでは28日にカナダのケベック州ケベックシティでWBC・IBF世界ライトヘビー級タイトルマッチ(アルトゥール・ベテルビエフ対メン・ファンロン)を予定し、こちらは現段階ではキャンセルされていない。ただ、同州モントリオールでは4つのカードがすでに中止になっており、挙行は難しい情勢になっている。トップランクでは開催地を変えるなど、実施する策を模索しているという。

この笑顔。ラスベガスでも見たいもの

3月25日のネバダ州コミッションの判断が井上尚弥にも波及か

 13日にケーブルテレビのShowtimeがミネソタ州ヒンクリーから中継したウェルター級の新鋭ブランダン・リー(アメリカ)のカードは無観客でおこなれたが(リーがKO勝ちで不敗の19連勝17KOをマーク)、これが長いオフへの最後のファイトカードになりかねない。同じ日にアメリカのドナルド・トランプ大統領が、世界的大流行に対し、国家非常事態を宣言している。それ以前にバスケットボールやメジャーリーグなどはシーズンの中断、開幕延期を決定しており、プロボクシングに対しても取り巻く環境は、なお厳しくなった。トランプ大統領は「今後8週間が何よりも大事」と発言しており、多数の観客を集めるすべてのスポーツイベントも長期間、開催不能になる可能性は高い。

 すでにカリフォルニアやネバダ州ほか多くの州では一定期間の格闘スポーツイベント開催を不可にしている。これによって多くの注目カードが、スケジュールから消えている。

 ことさらにネバダ州アスレティックコミッションの判断は注目しなければならない。25日に会議を開き、そこで対応を協議することになっている。おそらくそこで決定されるはずの試合不許可の期間が、トランプ大統領が口にした「8週間」をそのまま当てはめるとしたら、井上尚弥(大橋)が4月25日に同州のラスベガスで挙行するはずのWBAスーパー・IBF・WBO世界バンタム級王座統一戦の日程もぴったりはめ込まれてしまうからだ。

 5月2日にやはりラスベガスでの開催が決定したと伝えられたサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)対ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)のビッグマッチも、13日に正式発表だったのが、先延ばしになっている。

 いまや新型コロナウイルス流行の中心になっているヨーロッパでは、なおさら厳しい状況だ。21日、ラトビアのリガで行われることになっていたWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)のクルーザー級決勝もキャンセルになった。ラトビア政府が4月14日までの200人以上が集まるイベントを禁じたためだ。決勝に出場するマイリス・ブリエディスはラトビアでは絶大な人気を誇る。準決勝もまた、もう一方のファイナリスト、ユニエル・ドルティコス(キューバ)とともにリガで戦っているだけに、現地では大きな盛り上がりを見せていた。すでに1万枚以上のチケットは完売しており、主催者側のカリ・ザワーランドは対応に苦慮したが、結局は断念。新たに5月14日実施の線を模索している。

 カリの父でドイツの伝説的な名プロモーター、ビルフリード・ザワーランドが4月2日にハンブルグで手がけるはずだった、スーパーミドル級スター候補アバス・バローのカードも中止になっている。
 イギリスはまだボクシング及びMMAの興行中止にいたっていない。4月12日、イギリス・ロンドンのO2アリーナで挙行予定の注目のヘビー級新星対決、ダニエル・デュボア対ジョー・ジョイス戦も今のところ中止、延期の報はない。2万人のキャパシティを持つ会場のチケットは、すでにソールドアウトに近いという。ただ、主催するクインズベリー・プロモーションのフランク・ウォーレンは、「もちろん、準備は進めるが、すべては行政の方針に従う」と話している。

五輪ヨーロッパ予選。ダニエル・デュボアの妹キャロライン(右)が1回戦突破

五輪予選にも大きな影響は避けられず

 影響はプロボクシングにとどまらない。オリンピックスタイル・ボクシング(アマチュア)でも東京オリンピックに向けた大陸予選はたけなわだが、こちらも新型コロナの脅威にさらされている。

 中国・武漢からヨルダンのアンマンに場所を変え、日程を延ばして行われたアジア・オセアニア予選、さらにアフリカ大陸ではすでに終了。ヨーロッパ予選も14日からイギリス・ロンドンのコッパーボックス・アリーナで開始された。残るひとつ、アメリカ大陸予選は3月26日からアルゼンチンで予定されていたが、今回のパンデミックを受けてアルゼンチンが開催を辞退した。大会を管理するIOCのボクシング・タスクフォースは、新しい日時と場所を探しているが、現時点での発表はない。

 5月13日からフランス・パリで世界最終予選が行われるはずだが、今後の感染状況の変化、しっかりとした防疫体制が確立できないとしたら、この大会の実施も微妙になる。

 IOCのトーマス・バッハ会長が東京五輪開催に関して、「WHO(世界保健機関)の勧告に従う」と初めて中止、延期の可能性に言及したのは13日。もし、予定どおりに7月24日から五輪が始まるとしたら、ボクシングという競技の特性からしても、五輪への道のりはかなりタフなスケジュールになる。

 情報は多岐にわたり、刻々と変化する。この記事を公にする直前まで新しいソースがいくつももたらされた。ときは危機の真っただ中にある。すでに世界には15万に迫る罹患者があり、亡くなった人々も5000を超えた(14日現在)。ひとときも早く状況打開へと奔走する医療・保健を始めとする多数の関係者の努力が実るのを、ひたすら祈って待ちたい。ボクシングにもたらせた試練のときも、慌てず、騒がず、今日の日を懸命に耐え、明日を信じるしかない。

文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ

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