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2022-09-07

【NFL】「不適切な行為」QBワトソン 開幕から11試合出場禁止で決着 ブラウンズはどうなる

8月21日、プレシーズンのイーグルス戦を前にたたずむブラウンズのQBワトソンとステファンスキーHC=photo by Getty Images

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まもなく開幕する米プロフットボール・NFLで、1年半にわたり関心を集めてきた不名誉な問題が、開幕前に一応の決着となった。複数の女性マッサージセラピストに対する、不適切な性的行為によって多くの訴訟を引き起こしていた、現クリーブランド・ブラウンズのQBデショーン・ワトソンに対する処分が、8月18日に確定したのだ。(写真はすべてGetty Images)

 NFLとNFL選手会(NFLPA)の間で調停が成立したもので、ワトソンは、今季開幕から11試合の出場停止、過去最高額の500万ドル(約7億2千万円)の罰金を支払い、行動専門家による評価、治療プログラムを受けさせるという処分となった。

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 NFL公式サイトによれば、ワトソンの出場停止は8月30日の最終ロースターカットが終わってから有効になる。復帰は11月28日で、ワトソンの今季第1戦は、第13週の12月4日、ヒューストン・テキサンズ戦になる。NFLネットワークのトム・ペリセロは、ワトソンが10月10日からチーム施設を使うことが可能となり、11月14日から練習できるという。

 ワトソンがいない間、ブラウンズは2番手QBのジャコビー・ブリセットがスターターとなる。バックアップは、スティーラーズなどに在籍したジョシュ・ドブスが務める。ブリセットは、本来のエースQBが負傷や突然の引退などのたびに、出場を重ねてきたベテランで、経験は豊富だ。ただし、その後に、2020年の最終戦から約2年のブランクとなるワトソンが、出場解禁で即活躍するというのも考えにくい。

 ワトソンと史上最高額の契約を結び、その過程の中で昨年までのエースQBベイカー・メイフィールドも放出したブラウンズ。ジミー・ハスラムオーナーは、仮にワトソンに、こういう処分が下されるとわかっていたとしたら、トレードしていたかと会見で質問され、「間違いなくトレードしていた」と答えているが、本心は、不安でいっぱいなのではないだろうか。

デショーン・ワトソンとは

 デショーン・ワトソンは、1995年9月14日生まれ、間もなく27歳となる。生まれ故郷のジョージア州ゲインズビルの高校では、4年間でパスとランで合計218タッチダウン(TD)という驚異的な成績を残して、強豪クレムゾン大学に進学した。1年生の途中からエースQBに昇格し、2015年にはハイズマン賞投票で3位、2016年には2位に。このシーズンは、クレムゾン大が、アラバマ大学を破って全米王者になった原動力となった。3シーズン通算でパス10168ヤード、90TD、32INT。ランでも1934ヤード26TD。学業も優秀で、大学を3年間で卒業している。

  2017年のNFLドラフトでテキサンズに1巡12位で指名された。ルーキーイヤーの途中から先発QBに昇格し、2018年から3シーズン連続でプロボウルに出場、2020年シーズンは4823ヤードで、パス獲得ヤード1位に輝いた。実働4シーズンで、パス14539ヤード、104TD、36INTでレーティングは104.5。テキサンズはワトソンに率いられて、2018年、19年と2年連続でプレーオフに進出していた。

2020年シーズンの最終戦を終え、チームメートのJJワットと共にフィールドを去るQBワトソン=photo by Getty Images

ワトソン問題の経緯 

 ワトソンは、2020年1月にテキサンズが新たにニック・カセリオGMを任命した時の経緯に関して球団に不信感を持ち、トレードを要求した。その後の3月に、ワトソン個人に対して、マッサージ中などに性的に不適切な行為をされたとして、複数のマッサージセラピストの女性から訴訟が次々に起こされた。トレード問題は暗礁に乗り上げたまま、ワトソンは2021年まったくプレーすることなくシーズンを終えていた。

 ワトソンの不適切な行為は、刑事事件として起訴される可能性もあったが、今年3月11日、テキサス州ハリス郡の大陪審が、ワトソンの一連の事案について、十分な証拠がないと判断し、刑事事件として立件しないことを決定。その後、各チームとのトレード話が急速に具体化した。

 3月18日、テキサンズは、ワトソンをクリーブランド・ブラウンズにトレードすることで合意。交換条件は、テキサンズがワトソンと2024年5巡指名権、ブラウンズが2022、2023、2024年のドラフト1巡指名権と2024年の4、5巡指名権と公表された。

 ブラウンズはワトソンの入団に当たって、5年の大型契約を結んだ。米スポーツ専門局ESPNによると、総額は2億3000万ドル(約331億円)。原則として全額の支払いが保証されており、実際に支払われる金額としてはNFL選手の最高を更新することになった。

ブラウンズにトレードで入団が決まり会見するQBワトソン。右手前はステファンスキーHC=photo by Getty Images

 ただし、この段階でも、ワトソンは20件以上の民事訴訟に直面しており、事態を重く見たNFLは、調査を続けていた。リーグの個人行動規範に基づく懲戒処分の対象となる可能性が残っていた。

 4月末には、MLBのロサンゼルス・ドジャース、トレバー・バウアー投手が、DVと性的暴行に関するリーグ規定に違反したとして、2年間324試合の出場停止処分を受けた。バウアー投手は、警察による捜査ののち、刑事事件としては不起訴となっていた。

 犯罪にはならなかったバウアー投手の事案で、MLBは、女性に対する行為、性的な行為に対し、厳しい態度をとった。ワトソン問題へのNFLの対応に影響を与えたのは否めなかった。

 6月になって、事態は新たな局面に入った。米紙ニューヨーク・タイムズがワトソン問題について詳細なレポートを掲載した。ワトソンは17カ月の間に66人の女性とマッサージを理由に会って、性的に不適切な行為を繰り返していたという。ニューヨーク・タイムズは、ワシントンポストと並ぶ、米国屈指の高級紙で、調査報道には定評がある。

 同紙は、ワシントンフットボールチームに端を発するNFLの調査に関連して、昨年10月には、ラスベガス・レイダースのジョン・グルーデンHCが人種差別、同性愛差別、女性差別的な発言を7年間に渡って、Eメールで行っていたことを詳細に報じ、グルーデンHCを辞任に追い込んでいた。

「軽すぎる」処分にNFLが上訴

 8月1日、NFLとNFL選手会(NFLPA)が共同で選任したスー・L・ロビンソン判事がワトソンの個人行動規範違反についての裁定を発表。ワトソンに対する処分は開幕から6試合の出場停止という、予想外の軽いものだった。

 ロビンソン判事は、16ページにわたる報告書の中で、ワトソンが「他の人間に対して、安全と幸福な生活に脅威を与える行為、また、NFLの品位を弱体化させ、リスクにさらす行為」をしていたと認定した。リーグ側が最低でも1年間の出場停止処分を求めていたことも分かった。

 にもかかわらず、処分が軽くなった理由に対して「過去に同様の状況にあった選手たちへの対応と比較しての、公正さと一貫性という基準による」とロビンソン判事は説明していた。この時点で、係争中の民事訴訟のうち1つを除いてすべて解決していたという。

 NFLとロジャー・グッデルコミッショナーは、この軽い処分に反発し、2日後の8月3日に上訴していた。

プレシーズン第1戦のジャクソンビル戦でわずかなプレー機会があったQBワトソン=photo by Getty Images

【小座野容斉】

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