ヘビー級に新しい星が誕生──。アマチュア5冠の但馬ミツロ(緑)が21日、東京・金子ジムでB級のプロテストを受験、見事に一発合格。「仮にデビュー戦が京太郎でも倒してみせます」と豪語の嵐をまき散らす。
上写真=「自分ほど速くてうまいヘビー級はいない」と但馬
プロテスト合格を告げられた但馬のビッグマウスは、さっそく暴れまわる。
「自分が知る限り、自分ほどスピードがあって、うまいヘビー級は見たことがない。(オレクサンダー・)ウシクはいなくなったけど、クルーザー級で戦ったとしても瞬発力では自分が一番だと思う」
但馬の視線はすでに世界へと向かっている。なるほど、1年半ぶり、ウェイトもアマチュア最終試合から40キロ増の120キロと膨れ上がり、「30%以下の内容」と自己評価したプロテスト用のスパーリングでも、自信の根拠をしっかりと見届けられた。
A級ヘビー級の大和藤中(金子)を相手に、速いジャブが冴える。右パンチもストレート、クロス、オーバーハンドと多彩な角度で打ち込む。初回に見せた右のアッパーカットもボディ、顔面へと自在にヒット。さらに距離感もよく、クロスレンジで藤中にパンチを強襲されても、鋭敏なボディワークでかわしていった。「ごく軽く打っていた」と言いながら、ロープを背にした体勢から放った右カウンターで、藤中をたじろがせるシーンもあった。
もっとハイレベルな相手だったらどうかとか、長いラウンドを戦えるのか、など、まだまだ解き明かされぬ領域は大きくても、本格派ヘビー級の可能性は見せた。
トップボクサーのカッコよさに憧れ、名古屋の享栄高校でボクシングを始め、中央大学、卒業後は福井県体育協会に所属し、アマチュア戦績は42勝(20KO・RSC)9敗。大学3年生の時に両肩を負傷して2年半ものブランクを作ったが、2018年の福井国体では成年男子ライトヘビー級で優勝し、復活を果たした。以降、再び負傷でリングを遠ざかる。オリンピックへの夢もあったが、「最終的な目標はプロのチャンピオンだから」と悩み抜いた末に25歳でのプロ転向を決意した。
「さまざまなジムから誘いがありましたが、会長の人柄で(緑ジム入門を)決めました」
飯田覚士、戸高秀樹とふたりの世界チャンピオンを育て、ウガンダ人のオケロ・ピーターを日本のジム所属としては初めて世界ヘビー級タイトルマッチ出場へと導いた松尾敏郎会長は「これまでに出会った最高の素材。すべてをつぎ込んでもいい」と、金の卵到来に笑みがこぼれっぱなしだ。
地元・愛知県のジムを選んだ理由はもうひとつある。ブラジル人の母、マリアさんの存在だ。
「僕が生まれて2ヵ月で父は亡くなりました。日本語が上手ではない母は苦労しながら僕を育ててくれた。だから近くにいてあげたい。それに母こそが、僕のボクサーとしてのモチベーションになっています」
但馬の国籍は今もブラジル。それも五輪をあきらめる大きな理由のひとつになったという。プロになれば国籍は関係ない。あとは自分ひとり、『但馬ミツロ』として暴れまわるだけだ。
「これまでスパーリングでもずっと手加減しながらやっていました。これからは海外にも行って、思う存分、殴りたい。そうやっていけば、体重も落ちてくるでしょう」
ヘビー級でしっかりと戦うためには100キロ弱まで体重を絞りたいという。
「できるものだったら、最初から藤本京太郎選手(角海老宝石)でも日本チャンピオンの上田龍選手(石神井スポーツ)でも構いません。負けるはずはありません。日本には軽量級に優れたボクサーはたくさんいますが、体の大きさを含めて動物的に日本で一番強いと早いところ証明してから次に進みたい」
次とは但馬自身が言うベストウェイト、クルーザー級での世界進出。まずはしっかりと試合経験を積んで、勝負に出たい。その後は再びヘビー級を目指してもいい。
そんな但馬に22日(日本時間23日)に行われる注目のWBC世界ヘビー級タイトルマッチ、デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)対タイソン・フューリー(イギリス)戦の予想を聞いてみる。
「ボクシングがうまいのはフューリー。ケンカで強いのはワイルダー。試合当日の気持ちの強さで勝負は決まると思います。どっちが勝ってもかっこいい」
そんな言葉に「僕だって、いつかはそうなって見せる」と気概がこぼれて見えたのは私ばかりではあるまい。
文・写真◎宮崎正博
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