前・日本ミニマム級チャンピオンで、WBA同級13位の田中教仁(たなか・のりひと、35歳=三迫)が3月3日、タイ・ナコンサワンの市庁舎前 野外特設リングでWBA世界ミニマム級スーパーチャンピオンに昇格したノックアウト・CPフレッシュマート(29歳=タイ)に挑むことが21日、発表された。
上写真=この右でノックアウトをKOする!
2013年に江藤光喜(白井・具志堅スポーツ)がコンパヤック・ポープラムックを判定で下し、WBAフライ級王座を獲得したものの、これは日本未公認の“暫定タイトル”。JBC(日本ボクシングコミッション)が認めている王座に限れば、日本ボクシングの長い歴史の中で、タイの世界タイトルマッチに勝った日本人選手は、ただのひとりもいない(24敗1分)。特有の暑さ、地元有利の判定、リズムを狂わされる大声援……と、経験したことのない戦いを強いられることが“原因”と言われる。
しかし世界初挑戦となる田中は、「そんなネガティブな歴史に終止符を打ちます」と言い切った。
2017年2月に、およそ5年のブランクを経て、ジムを移籍して再起。小浦翼(E&Jカシアス)の持つOPBF東洋太平洋王座挑戦は5回TKO負けに屈したが、昨年1月に小野心(ワタナベ)を8回TKOに下し、念願の日本チャンピオンに。1度防衛を果たし、王座を返上。夢にまで見た世界王座のチャンスを得た。
チャンピオンのノックアウトは、これまで20勝(7KO)無敗で11度防衛を果たしている155cmの右ボクサーファイター。「無敗で強いけれど、バケモノではない」という田中は、「顔がゴツいので、しっかりと僕のパンチを受けてめてくれそう」とニヤリ。
154cmの田中は、かつてはファイター傾向が強かったが、ジムを移籍し、鈴木啓太トレーナーと組んでからは、左ジャブを使った頭脳的な攻防も織り交ぜるようになった。戦績は26戦19勝(10KO)7敗。強打で話題を呼んだブンブン東栄や、現・日本ライトフライ級チャンピオン高橋悠斗(K&W)を倒した右強打は、最軽量級らしからぬ威力を持つ。
「右を当てるための左ジャブを、常に1ラウンドのつもりで丁寧に打つことを心掛けている」(田中)。「チャンピオンは、ブロッキングで相手のパンチを流すイメージ。でも、一瞬隙ができるのが癖。そこを逃さず突く練習を重ねています。ノリのジャブは“痛い”パンチ。これは相手がかなり嫌がるはずです」(鈴木トレーナー)
コンビが狙うのは、「針の穴を突き通す」作業。元日本ライトフライ級王者・堀川謙一、日本フライ級1位の藤北誠也、堀川龍、川満俊樹といった、ベテラン、ホープと選手層の厚いジムならではのパートナーを相手にスパーリングを重ねている。
「試合では、バッティングもヒジもローブローも全部来るつもりなので、スパーリングパートナーには自分をぶっ壊しに来いと言ってある」(田中)
初めての世界戦、タイという味わったことのない環境で、練習でできていることを実践するのは困難極まりない。それらを実行するためのメンタルも重要になってくる。
「家族は連れていきません。嫁は旅行も兼ねて来たいと言っていましたが、集中したいので。それに、コロナウィルスも心配なので、応援団にも来ないよう、呼びかけています。ひとりで行って、獲って帰ってきたほうがカッコいいでしょ(笑)。そのほうが敵地でやる感じがするし。帰りは、相手の応援を全部味方につけて帰ってきたい」
この心意気を、ぜひとも本番のリング上で発揮してほしい。
現在、日本チャンピオンを5人抱え、2人が日本王座に挑戦するなど、タレントぞろいの三迫ジムの中で、そこを卒業して大きな牙城に挑む。
「日本国内で世界戦をやっても、なかなか目立たない時代。勝てば強烈なインパクトを与えられて、おいしいですよね(笑)」
爆発寸前の野性をチラリとのぞかせながら、田中は楽しみでしかたない様子だった。
文&写真_本間 暁
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